小休憩
前回のあらすじ
スズカが倒れました。
「スズカ!?」
スズカの隣にいた俺は、地面に倒れて息が乱れているスズカの上半身を起こして空いている左手でスズカのおでこを触れば、酷く熱かった。熱である。
「ぼ、僕。ソフィさん達呼んでくる!」
カズキはそう言って2階へと上がっていたのを確認していると料理屋で食事をしていた1人の男性客がやってきてからスズカの近くに座ってから
「熱は測ったか?」
と俺に尋ねてきた。
「え…………いえ。測ってはいません。急に倒れて…………」
「具合が悪いなって思ったのは?」
「えーっと確か30分前ぐらいです。少し顔が赤ったのは覚えてます」
なるほど。と男性は呟いてから一緒に持ってきたのであろう鞄から体温計に似た形をしている何かを取り出し、それをスズカの脇に挟んだ。
「体温調節機だ。ジャンジャン族が国の声によって作らせた魔法で出来た代物だ。中に電気を生み出す装置が入っているらしい」
俺の戸惑いに男性はそう答えたと同時にカズキがソフィさん達を連れて戻ってきた。男性はそれをチラ見したあと再びスズカに視線を戻した。
体温調節機が鳴ったと同時に男性はスズカの脇に挟んだそれを取り出してから白紙の紙を取り出してから何かを唱えると白紙の紙に文字が浮かび上がった。
「…………………薬による発熱か。何の薬を飲んだんだ?」
「水を満たす為の薬です。依存性はないとイザールさんが言っていましたけど」
男性の言葉にカズキが答えれば
「イザールさんが!? だが、水を満たす為の薬ならそこに彼女にとっての異物が紛れ込んでいたに違いない。その薬に、卵、肉などの成分が作られているからな」
と男性はそう言って鞄から粉末状の薬と錠剤を幾つか取り出してからそれをソフィさんに渡した。
「あんたこいつらの保護者代理だろ。これをあんたに渡す。毎食後に飲むようにこいつに伝えてくれ。あと、イザールには卵、肉などの成分以外で作られている水を満たす薬があるはずだからそれをもらうように言ってくれ」
男性はそう言ってから鞄を持って立ち上がってそのまま去ろうとするので、俺は思わず止めた。
「あ、あの。ありがとうございました」
そう言えば、男性は
「アンタ達が何日滞在するか知らないが、その最終日でもいい。俺の店に来てくれ。それだけだ」
そう言って男性は料理屋から出て行った。
ソフィさんはスズカをお姫様抱っこにしてから2階に上がり、俺は周りにご迷惑をお掛けしましたと謝罪すれば、残っていた客や女将は、笑顔で気にするなと言われたぐらいだ。寛容すぎる人達でありがたい。俺はお辞儀してから2階に上がった。
ソフィさんは、スズカをベッドの横に寝かせて、ドロシーとラーシュに頼むようにお願いをした。汗で身体がベタベタしていたのでそれを任せたのと女性同士がいいという判断だ。
「彼には改めて感謝をしないとね。確かこの街で店を構えているんだったかな? 後で調べておかないと」
彼は店の名前を教えてくれなかったからね。とソフィさんは困ったようにそう言った。
翌日。
スズカは顔色が悪そうだったので、ソフィさんがアルデバランさんとイザールさんに今日は訓練できないという報告をしに出て行った。
「大丈夫か? スズカ?」
「う、ん。少し気分が悪いかな…………。明日には治っているといいんだけど…………」
「此処の所、忙しなかったからな。偶には休憩するのもいいだろうな。昨日は医者らしき男性が水を満たす薬に何かしらの反応を起こしたらしいけど、スズカはアレルギーとかあるのか? あれに卵と肉なんかが入っているらしいって話だったが…………」
俺の言葉にスズカは少し悩んだ後
「えーっと…………卵じゃ肉じゃなくて…………緑黄色野菜なんだけど」
「緑黄色野菜? ピーマンとかか?」
「うん。その中のケールっていう野菜にアレルギー反応があるみたいなんだけど…………」
「ケールか。それが入っていた可能性があるのか」
「多分…………ね」
これ以上話しても体調が悪化するだけだろうと俺はそう思い部屋を出る前に、スズカはそれを見送りながら、ドロドロとしたパンをお粥のようなものを口に運んだのが視界に入った。
ドアを閉めればアルデバランさん達に伝言を伝えたソフィさんが戻ってきた。
「どうだった? スズカの様子は?」
俺たちが泊まっている部屋に入ってからソフィさんはそう尋ねたので、俺はスズカの現状を伝えれば納得したように頷いた。
「イザールが申し訳なさそうな顔をしていたよ。あの薬には彼が言ったように卵と肉の他に野菜も多少入っているらしくてね。ケールに似た野菜も入っているとは言っていたよ。スズカはそれに反応してしまって発作を起こしてしまったんだろうね。でも、よかったよ。確か君の世界では、アナフィラキシーショックっていうのがあるんだろう?」
アナフィラキシーショックというのは、アレルギー反応による異常状態のことだ。原因は多岐に渡る。今回は軽度で済んだが、2度目はないぞという忠告でもある。意外と怖い死因になりうるんだが
「ああ…………。けど、気分が悪そうだったな」
「大丈夫だよ。彼がくれた薬はドロシーに渡してあるし、彼女なら処方方法も理解しているはずだからね。僕たち男性陣は回復を祈るしかない」
不安そうな顔をしていたのだろう。ソフィさんは、励ますようにそう言った。
「……………………そういえばカズキはどこだい? 朝から見かけてないけど?」
ソフィさんは、そう言って当たりをキョロキョロとしながらカズキを探してた。
「ああ…………カズキならスズカに頼まれて買い物に言っているが…………」
「買い物?」
「ああ。カズキは長男気質だからな。スズカに何か食べたいものがないかって尋ねていてそれで、スズカが果物が欲しいってことでそれの買い物です」
「なるほど。カズキらしい行動を取った。ということだね」
ソフィさんは、ほほ笑むように納得した。
カズキが戻ったのはそれから数十分後ぐらいだ。
「すりおろしは、ドロシーがやってくれるからそのまま渡したけど…………はぁ」
部屋に入ってからため息を付いたり不安そうな顔をしたりウロチョロあっちに行ったりこっちに行ったりと忙しなく動いていた。
「はぁ…………親父が言っていた、子供の出産に立ち会う気持ちってこんなのかな…………」
などと独り言を発していたぐらいなので、それを黙ってみていたソフィさんは、立ち上がってからカズキを空いている椅子に座らせた。
「落ち着いて…………な」
若干怒っているような声音でそう言えば、カズキは黙って首を縦に動かした。
昼食を食べ終えてから2階に上がる前に女将さんに呼び止められて
「あー。ちょっとお前さん。そうお前さん。さっきイザールさんとアルデバランさんが来てねぇ。これを渡すようにって頼まれたのよね。はい」
女将さんはそう言って紙袋を俺に渡した。
紙袋の中身は、果物と飲み物と手紙だ。手紙の内容はスズカの謝罪の手紙と果物と飲み物を渡すこととスズカの体調が戻るまでしばらく休みを与えると言った内容が書かれてあった。
ドロシーとラーシュに昼食を持っていくついでにその紙袋を渡せばドロシーはある程度厳選したあと、残りを俺たちに渡してきた。
「あ、そうだ。ドロシー。スズカの体調はどうだ?」
と俺が尋ねれば、ドアを閉めようとしたドロシーはそのまま立ち止まってから
「今朝よりも落ち着いているけど、まだ悪化する可能性があるかな。2、3日休めば体調はある程度回復すると思うよ」
とドロシーはそう答えてから
「大丈夫だよ。アタシとラーシュが見ているから。何かあったら連絡するね」
と言ってドアを閉めた。
【体温調節機】
体温計の凄い版。体温と状態を調べるための優れものでジャンジャン族がそれを制作した。
値段は金貨3枚程度
【男性】
東の街で医者をしている男性。偶々外食しているときに慌てている2人を見て状況を把握した人。
名前は後日判明する。