謝らせて
前回のあらすじ
キオリはスズカに呼び出された。
「着いてきてほしい場所があるの」
そう言って来たスズカに呼び出された俺は、スズカに何処に行くんだと問いかけてもスズカは黙ったまま歩いていた。時折、俺が着いてきているか後ろをチラチラと確認はするもののそれでも黙ったままだった。
で、付いた場所は、広場より少し離れた公園。東の街に来てからまともに探索していない俺は、ここに公園があったのかと思うしかないのだが、スズカは、いつこの場所を知ったのだろうか? 俺がアルデバランさんの家に泊まった時か? などと考えているとスズカは俺の方に振り返ってから
「あのね。キオリくん。トウヤくんの事なんだけど」
と話を切り出した。
スズカは俺がトウヤの話をした際に驚愕していた。カズキは悲しむような表情をしていたがスズカだけは反応が違ったことに違和感を覚えていた。
「トウヤの事か? なんだ?」
あのことには触れず、俺は出来るだけやさしく続きを促した。しかし声が若干動揺を隠しきれたかどうかは自分でも分からなかった。
スズカは口を開いては閉じての繰り返しだった。何を話せばいいのか迷っているのだろう。それでも俺は促すことなくスズカが話してくれるまで待った。広場では商売人の声が聞こえてきた。
スズカは意を決したように俺をまっすぐ見てから
「実は、あたしとトウヤくんは従兄弟なんだ」
「……………………従兄弟。つうと両親のどちらかがの兄弟の娘又は息子のことだよな?」
内心が焦っていたせいか常識的なことを尋ねてしまった。
「うん。その従兄弟。あたしの母親のお姉さんの息子がトウヤくんなんだ。でも、直接面識したことはないの。その、少し風変わりな従兄弟がいるって聞いただけ」
スズカは冷静にそう答えた。
さっきまで聞こえた商売人の声が聞こえなくなってしまった。おかしな話だなと俺は思っていた。それだけ、スズカの話に興味がいったのだろう。
「それでね。トウヤくんが亡くなったのを知ったのは、1年後だったの。近所のおばさんたちが、内緒で耳打ちするように教えてくれたんだ。その時にトウヤくんの親友が喪主を務めたって聞いて、高校を卒業したらその親友を探そうって思っていたんだ。そしたら異世界に呼び出されて…………今に至るって感じなんだけど。キオリくんからトウヤくんの話を訊いた時、あたし驚いたんだ。キオリくんが、トウヤくんの喪主を務めていた親友なんだって。伯母さんはトウヤくんの話をするのを嫌がってたから。だから、何とか説得して喪主を務めた親友に謝るようにって何度も何度も話して、トウヤくんに会ったのがその1年後なんだ」
トウヤの両親はトウヤが亡くなって2年後に俺のところに来て謝罪しに来ていた。風の噂で聞きつけたのだと思っていたのだが、お喋り好きな近所のおばさんが伝言ゲームのようにスズカの住む近所のおばさんまでたどり着き、1年後にその話をスズカに話した。スズカはトウヤの両親に1年間も説得しつづけて、結果2年後に俺の家に来たということだ。
「そうか…………。スズカが合わせくれたんだな。ありがとうな。スズカ」
「そ、そんな。キオリくんがお礼なんて言うことないのに。だって、トウヤくんが亡くなったのを知ったのは1年後なんだよ。それまで、元気にしているかなっとか呑気なこと考えてたのに…………」
スズカは俺のお礼に動揺を隠しきれていなかった。
「それは、誰だってそうだろ? 言い方は悪いかもしれないが、誰かが死んだ日に俺たちは呑気なことを考えているんだ。それに、スズカはトウヤとの面識はしていなかったが、トウヤの両親に喪主を務めた見ず知らずの赤の他人の為に、会うように説得してくれているじゃないか。俺はトウヤの両親が何処にいるのさえ知らなかったし、俺の両親もトウヤの両親と連絡をとれるように知っている限りの知人にトウヤの両親に戻ってきてもらうようにしていたぐらいだ。それでも情報が手に入らなかった。それをスズカが説得してくれた。それだけで俺は嬉しいんだ。亡くなったのを知るのが遅れたからと言って、何もしないより行動をとってくれたことに感謝しているんだ。もし、この異世界に飛ばされなかったらスズカは高校を卒業してから俺を探しに行こうと思っていたんだろう?」
俺がそう言えば、スズカは黙って頷いた。
「だから、スズカが気に病む必要はない。いつも通りに接してくれ」
笑顔を浮かべて俺はスズカの頭を優しく髪型が崩れないように撫でれば、スズカは顔を赤くしてから、振り切るように一歩下がった。
「あ、いや…………。その、恥ずかしかっただけだから。ごめん」
頭を撫でられるのが嫌だったのかという悲しい表情をしていたのか、スズカは言い訳をするようにそう言ってから赤い頬を隠すように
「でも、うん。謝らせて。そうしないと気が済まないから」
話を戻すようにそう言ってから頬を両手でバシッと叩いたあと
「キオリくん。トウヤくんと仲良くしてくれてありがとう。そして葬式に行かれなくてごめんなさい」
そう言ってスズカは頭を下げた。
数十秒ぐらいだろうか。スズカは頭を上げてから
「さ、戻ろか。カズキくんが心配しているだろうし、黙って出て行ったからソフィさん達に怒られるかも」
「確かにそうかもな。ソフィさんの説教は後免被りたいからな。さ、急ごうぜ。スズカ」
俺はそう言ってスズカの右手を掴むとスズカは驚愕したのち
「うん!」
満面の笑みを浮かべてそう言った。
俺たちが宿屋に戻ればカズキは
「あ! スズカ! キオリ! 何処に言ってたんだよ。僕を置いていくなんて酷いじゃないか」
そう言って詰め寄ってきた。
宿屋が見えてからスズカは俺の手から離していたのだが、終始顔が赤かったが、俺は何も言わなかった。
「ごめんな。カズキ。2人で話したいことがあったんだよ。な?」
「う、うん! そう! そうだよ。カズキくんには内緒の話だから」
俺がそう言えばスズカは同意するように頷いた。
その光景をみたカズキは、何故かニンマリとした後
「ふぅーん? 僕に内緒ねぇ?」
「何か勘違いしてないか?」
「勘違いしているよね? カズキくん」
「!? あれ? 告白したんじゃないの!?」
カズキの言葉に、俺とスズカが冷静な対応を見せれば、カズキが驚愕してそう言い放った。
「おいおい。吊り橋効果じゃあるまし、それに今はそれどころじゃないだろ?」
俺が呆れるようにそう言えば、スズカは少し顔を赤くしたりしながらも
「そうだよ。告白するなら帰還するときでいい感じでしょ?」
とそう言った。妙に説得力があるのはなぜだろう。
「そっかー。そうだよなー。アニメだとよくある展開だけど、現実だからな。異世界でハーレム系目指している主人公が異世界に戻りたいという願望も出さずに脳内お花畑で女子を侍らせているチート系で無自覚の男より、異世界の問題を解決しつつ元の世界に戻る主人公の方が格好いいよなぁ…………」
「すまん。なんだって?」
アニメやそう言う関連の小説に一切興味がない俺にとってはカズキが何を言っているか理解不能であった。
「カズキくんって、そういうのを見るんだね。あたし、息抜きで乙女ゲームしかやらないけど」
スズカはカズキの言葉を理解したらしくそう話した。置いてけぼりを俺はくらいつつ
「なぁ、ここで話すより中に入って話そうぜ。流石に風邪をひきそうなんだが…………」
今までのやり取りは宿屋入り口付近での会話であることにカズキは思い出し
「そうだった! ごめん! キオリ。風呂は入った?」
「いやまだだが」
そう答える前に倒れる音が聞こえた。 隣にいたスズカは顔を赤くしたまま息を乱していたのだ。出かける前に気づけよ。俺。スズカは顔を赤くしていたじゃないか。
【スズカ】
トウヤの従兄弟。
トウヤとの面識はなく、母親からしか聞いたことがない。トウヤが亡くなって1年後に従兄弟が交通事故で亡くなったことを知り、近所に住んでいたおばさんたちから、トウヤの葬式の際にトウヤの親友が喪主を行ったと知り、その親友を探していた。