何かに気づいたイザール
前回のあらすじ
緩和魔法を使うには魔王の許可がいるらしい。
魔王の許可がなければ緩和魔法は使えないことにカズキとスズカは驚愕した。
「え!? それは、どうして? 勝手に魔法を掛ければいいじゃないの?」
声を出したのはドロシーの方だ。カズキとスズカはドロシーと同じ質問をしようとして開きかけた口を閉じてからイザールの方を見た。
「この世界の決まりのようなものなんだ。相手に魔法を掛けるのは基本的に禁止令に値するんだ。意思があればあるほどモンスターでも禁止令が出て警頭兵に捕まってしまう可能性だってあるのだ。この世界の世間が魔王に慈悲などないというものは大勢いるけど、攻撃魔術を使うのには礼儀よく許可をとったりするぐらいだから、それぐらいの禁止令は怖れられているんだ」
イザールはそう言いながら近くにあった1冊の本を取り出してから
「話は、変わるけど魔王の話し合いは基本的に、平和組がすることになる。過去の魔王討伐で呼ばれていないのが主な理由だね。ドロシーくんも呼ばれてはいないが、魔界にそのような…………確か、機械だったかな? それがあるとは思えないからね。驚愕して取り乱してしまう恐れもあるからドロシーくんは、僕たちと一緒に平和組を見守ることしよう」
「3人だけで説得しろということですか?」
カズキの言葉にイザールは首を横に振ってから
「王様の4人だけだよ。あと普通に喋ってくれるかい? 敬語だと少し距離感を感じてしまうし、疲れるだろう?」
とほほ笑んでから答えた。
「え、王様も参加するの?」
「そうだね。過去の文献…………これのことなんだけど、その文献には、国を統括する人物と国が認めた人物3人以内を魔界から来た魔王を帰還する際に用意することと書かれてあるね。ん? ちょっと待てってね」
スズカの言葉にイザールはそう答えてから手に持っていた本に何かが書かれていたのか、驚愕した顔を浮かべたのち、ペラペラとページを捲り始めたので、スズカとカズキとドロシーは、【器に水を満たす為の心得】と書かれている本を読むことにした。元々、イザールは何かと夢中になって、周りが見えなくなるという癖があるらしく、それを自覚していても直せないイザールは、その時になったら【器に水を満たす為の心得】を取り出し黙読するように言われていたのである。
その集中が誰かに呼ばれるまでなので、読み終わった時にでもイザールを呼べばいいだろうとスズカとカズキとドロシーは、そう話し合ったのである。
「昼の鐘が鳴ってもなかなか食堂に来られないので、様子を見に来ましたが…………。イザール様。昼食が出来上がっていますが、こちらでお召し上がりになるのですか?」
カズキとスズカとドロシーがエリスの声で本に向けていた視線をエリスの声がする方向へ向ければ、エリスは心配したような顔をしつつも平常心を保つようにイザールに声をかけていた。
「アルデバラン様とソフィ様、ラーシュ様は既に昼食を済ませていますが、キオリ様はカズキ様、スズカ様、ドロシー様が来るまでお待ちになるようで、昼食に手を付けていませんのでお伝えします。イザール様、どちらでお召し上がりになるのでしょうか?」
エリスは再びイザールに同じ質問をした。イザールは部屋に設置してある時計を見てから
「申し訳ない。食堂で食べるよ」
申し訳なさそうにそう言えば、
「分かりました。私は先に行っています」
そう言って、少しだけ散らかってしまった部屋をある程度片づけたのち、カズキとスズカとドロシーを連れて食堂へと向かった。
食堂に着いた時には、キオリは顔を明るくさせた。
「よ。さっさと食べようぜ」
昼を知らせる鐘が鳴ったのは30分前なのだが、キオリはカズキ達が遅れたことには咎めずに笑顔でそう言った。
「キオリくん。待たせてごめんね」
「本に夢中になって忘れてたってところだろ? カズキとスズカは集中力がすごいってのは、この世界に来てから知っているからいいんだが、ドロシーも集中力がすごいってのは知らなかったな」
この世界きて何度か、呼び出されたことがあったキオリは懐かしいなーと言いながらドロシーに話を振った。
「ええ! 真新しいことを挑戦すると集中力というものが必要になってくるの。だから、新しいことを覚えることも挑戦することと同じように集中力を使ってしまうの! どうしようもないわ! そしてこの話題を振ってくれたのは、キオリが初めてだよ!」
ドロシーはそう言ってキオリの腕を掴んでぶんぶんと上下に振れば、キオリは
「そ、そうなんだ。そんなに嬉しいことなのか?」
「はい!」
ドロシーは嬉しそうに言う。
「ドロシー様。給油の準備が出来ましたので、こちらにどうぞ」
「ええ。ありがとう。じゃあ、またね」
エリスに呼ばれてキオリはエリスの後を追った。
「本日の昼食は、カットンです」
そう言ってエリスが差し出したのは、エルナトの家で食べた親子丼に似た何かだ。名前はカットンというのかと平和組はそう思った。
「カットンというのは、カットンという食用動物の名前です。鶏に似ていますが、鶏とは似て非になるものですけど、味は鶏肉と同じ味がします」
鶏に似た何かとは何なのか少し疑問に思ったキオリ達だが、腹の虫の音が鳴ったことにより尋ねるのは食べ終えた後でもいいだろうという考えに至り、食前の挨拶を済ませた後、カットンをおいしく頂いた。
20分も経たないうちに昼食を食べ終えてまったりしていれば、同じく昼食を食べ終えたイザールが平和組がいるところまで赴き
「キオリくん。アルデバランから話を訊いたよ。拘束魔術を使えるのに苦戦しているんだって? あ、椅子に座っても?」
と言ってきた。
キオリは、笑顔でどうぞと言えば、イザールはキオリの前の席に座ったのを確認してから
「確かにそうですね。今のところ、それで苦戦してます。ラーシュは最初こそ苦戦していましたけど、コツをつかんだみたいで次の段階に進んでいて、少し焦ってます」
気恥ずかしそうにキオリは右手で後頭部を掻きながらそう言った。
イザールは、キオリに敬語なしでもいいと前置きしてから
「確かに素早く動く物体を捕まえるってのは、難しい。魔術に移行した人たちでも必ず苦戦するから、そう難しく考えることはないよ。早く捕まえなくちゃという焦りが前に出てしまうから、キオリくんも落ち着いてやれば簡単に出来るはずさ」
とキオリにアドバイスを送ればキオリは納得しつつ
「ありがとうございます。イザールさん」
どういたしましてとイザールはそう言ってから何かを思い出したかのように
「おっと、いけない。アルデバランに用があったんだった。またね。キオリくん。カズキくんとスズカくんは12時30分後に練習を始めるからその時間までにいつもの場所に集まっててくれ」
イザールはそう言ってから立ち上がり、足早にその場から去った。
「イザールさんって忙しい人なんだな…………」
イザールが去ってからキオリは独り言のようにそう呟いてからカズキとスズカと約束していたトウヤの話をしようと思ったがドロシーとラーシュとソフィさんもいる方がいいなと思い至り、カズキとスズカと共に3人を探すために食堂から後にした。
「アルデバラン。ちょっといいかな?」
イザールがアルデバランを見つけたのは、食堂を出て直ぐだった。食堂の入り口近くにアルデバランは腕を組んで壁に背持たれていた。
「………………ああ」
アルデバランはイザールの顔を見てからそう言って歩き始めたので、イザールはアルデバランの後を追うように歩き始めた。
【禁止令】
絶対命令の権限がある法律みたいなもので、これを破ると刑務所行きが決定されている。
【器に水を満たす為の心得】
本来は【器に魔力を満たす為の心得】だったのだが先代魔王により題名だけ変更されている。
RPGでいうところMPを満タンにするにはというのが、可愛いキャラクターと共に分かりやすく載っている全2300ページ。