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無茶をする理由

前回のあらすじ

スズカとカズキとキオリの吸血鬼が再会しました。


12月23日修正

誤字を修正


 無意識的な行動をしない人間はいない。というのが、この世界のルールのようなものであった。

 だから、無意識的な行動をしない人間がいるのではないかという吸血鬼と契約した人間はそういうのだが、そう言った人間はこの世界の始まりから存在していないのが吸血鬼の中で知識として残っていた。だが、その知識は多分という曖昧な表現が入る。なんとなく感覚で分かってしまうというのが吸血鬼の中の本能であるのだが、それが真実なのかどうかは吸血鬼も分からない。だって契約者がなくなれば消失するし契約者が生まれれば吸血鬼も生まれる。

 なら日記などの紙媒体に記録は残っていないのかと問われれば答えはNOだ。吸血鬼は字を書くことは出来ないというか知らないのだ。契約者本人によって教えられても吸血鬼が生まれる地下深くの場所に戻ることは契約が成立した時点で戻ることはない。つまり1度出たら戻れない場所が吸血鬼の住処なのだ。悲しいね。それなら紙が残せないか? となるのだが、それも無理だ。吸血鬼の所有のものになった場合のみ、使用していた羽ペンや紙などは契約者が死亡したと同時に吸血鬼が消失するのに合わせて物も消失する仕組みになっている。スッと消える感じ。


 午前中に話し合いも済んだので明日にでもと回したアルデバランさんに会うのを午後からでもいいのではないかという話し合いの際に時間をスズカとカズキに念話でお願いしたら俺たちが話し合っている間、厄介ごとに巻き込まれたらしいソフィさん達。丸1日は掛かりそうだという予測したうえで

〈アルデバランは午後しか謁見を求めていないらしい午前中は何しているか一切不明というのが近くにいる住民の情報だ。アルデバランが住んでいる場所は古びた洋館からほど近い距離で外装は…………。赤色と薄だいだい色のレンガで構成された2階建ての建物だ。煙突もあるからすぐに見つかるだろう。っと!? おっと、失礼。少しこちらで問題になっている事柄を解決するのに丸1日潰れてしまうのは確定したから。それじゃ!〉

 という感じで念話は切れたらしい。俺は念話は出来ないぞ。受信だけ出来るカズキと送信できるスズカの2人だけが平和組の中では出来ない。ラーシュ、ドロシー、ソフィさんの中だけだとラーシュは俺と同様に念話を受信も送信も出来ない。ドロシーは電波があれば可能だかこの世界は電波といえば魔法の稲妻だったり雷だったりなので、除外。結果、受信も送信も出来るソフィさんしか出来ないということだ。

 という分けでそれまでの間、午後にしては時間が早すぎるからということで吸血鬼のことについて話したのが最初の冒頭部分ということだ。

≪僕たちの知識は契約者の知識とほぼ同列なんだよ。だから君達がもつ吸血鬼のイメージと僕たちが知っている吸血鬼のイメージは大分解離している。というか君達のここに来てから僕たちと契約するまでの約4ヵ月分の記憶を見せてもらったのだが、随分と無茶をしているのだな。特にキオリ。君がそうだ。自覚はあるのかい?≫

 ヴァンは俺に指をさしながらそう言った。

≪見ず知らずの相手の為に、明らかに自分の実力に見合っていない相手と戦闘を挑もうとしたり、それで注意されて腕を失ってしまったことまでありながら、言葉も通じぬ相手に説得を試みおうとしたりなどと言った。スズカとカズキは様子を見て進むか後退するかを選択するのに対して、キオリは進むという選択肢しか存在しないような生き方だ。それを見て冷や冷やとしたものだよ≫

 その言葉に俺は苦笑いするしかない。

「それが、俺の言動だからな」

 無茶ばかりするというのは正直に言って自覚はある。だがそれでも無茶をしなければいけない理由があった。


 俺には、いつも自分勝手に動く幼馴染の男がいた。出会いは母親同士が参加するママ友で、俺とそいつは5歳前後の年齢で、好きなものも嫌いなものも何もかもが一致したという単純明快な理由でそいつと仲良くなるのにそう時間はかからなかった。

 小学校、中学校と進み中学卒業間際に、そいつと俺は高校も一緒に通学することになったのだが、そいつが無茶をするのは小学校に入学して直後の授業で不思議なことに不審者が侵入してきたのだがその時に対応したのがそいつだった。俺はそいつの腕を掴みながら逃げようと言っていたぐらい弱い人物なのだ。だがそいつは怯まずにその不審者に

「ねぇねぇ。どうして学校に入ってこようと思ったの? それで、自分の人生の半分以上が民衆に見下されながら過ごすことが決まっているはずなのにどうして学校に入ってきたの? ねぇ! ねぇ!」

 子供ながらの純粋な疑問ではなく、ただの尋問であるとその時俺は、そいつに恐怖して言葉を失ったのだがそれでも腕は離さなかった。

 その時は教師が来て不審者は子供に恐怖していた。教師陣には一緒に怒られたのだが

「キオリが悪いんじゃないよ。僕が悪いんだ。僕がキオリの言うことを訊かなくてあのおじさんに話しかけたんだよ。それまでキオリはその場から離れるようにずっと言ってくれたよ? どうして、そんなにキオリをいじめるんだい? いじめはよくないって大人が言っているのを僕は知っているよ? ねぇ、教えてよ!」

 その言葉に教師陣はそいつを腫れ物に触るような扱いをされた。それが原因なのかどうか知らないが、そいつの母親はそいつを養護施設に預けてどこかへそいつの父親とともに夜逃げした。養護施設で同じような言い方をして同じような扱い方をされていた。それでもそいつは笑顔だった。

「だってそれが人間だろ?」

 人間じゃないような言い方をする。

「お前は人間だろ」

「……………………そうだったね」

 その間は何だとは言わなかった。

 それでも、俺はそいつと離れようとは思わなかった。生き別れた双子の兄弟のように一緒にいて、中学校でのそいつの言動は相変わらずだったが俺はそいつの飼育員であると言われた。顔がいいのにその言動で女子に告白されることもなく同性の友達も俺以外いなくて常にそいつと俺はニコイチの存在として確定されていた。そんな中学校生活を終えて俺とそいつは初めて喧嘩をした。理由はくだらない言い争いだった。俺はそいつに

「もう知らない! お前なんか嫌いだ!」

 そう言ってそのまま飛び出した。

 そのまま無我夢中で走っているとトラックのブレーキの音少し甲高いクラクションの音が聞こえたと同時に俺は後ろから誰かに押されてその勢いのまま地面に倒れてから何が起きたのか、後ろを振り返った時、そいつの周りが赤黒い血だまりを作って今いる場所から10m以上離れた場所で倒れていた。

 言葉を失った。目の前の光景が受け入れられなかった。だが、とっさに身体が動いてそいつのところへ駆け寄った。

「なぁ! 目を覚ませよ! なぁ!!」

 誰かが呼んだのか5分か10分後に救急車が来てそいつとそいつから離れなかった俺を連れて近くの病院に運んだ。

「俺が、俺が無茶をしたから…………」

 病院の長椅子に座りながらぶつぶつと両手で顔を覆ってそう言う俺は周りからしたら正気じゃなかったに違いない。それでも俺はそうすることで精神を保とうとしていた。

 養護施設の人が来るわけでもない両親も行方が知らない。医者が戻ってきたときに大人に対応させようとしたが俺だけしか仲のいい人物はいないと言えば、医者はあきらめたように俺を見ながら

「我々も手を尽くしましたが、残念ながら亡くなりました」

 この時の俺はどんな顔をしていたのかなんてのは覚えていない。

「ですが、キオリという男性に伝言があるのですが」

「俺が、そのキオリです」

「……………………そうですか。死亡する20秒前にこういいました。僕の代わりに無茶をしてでも誰かを救ってくれ。だそうです」

 そう言われて俺は膝から崩れ落ちそのまま泣いた。

 俺はそいつを守れなかった。なのに、最後までそいつは俺を気にしていた。喧嘩別れだ。


 俺の両親の手伝いもありそいつの葬式と告別式を執り行った。出席者は教師と同じクラスメイトと養護施設にいた子供たちと先生だけ。その時誰かがこういった。

「やっと亡くなったよ」

「ちょーうざかったよね」

「亡くなって精々したよ」

「よかったよかった」

 聞き取れた範囲内でそう言ったのだ。誰もかれもがそいつが亡くなったことなんて悲しんでなどいなかったことに俺は腹が立った。

「ふざけるな! 誰かが亡くなっていいことなんてない! お前たちはそいつとかかわりなかっただろうが、そいつは、お前たちが苦しまないように影で努力してきたんだ。養護施設に入った時なんか誰かに言われたわけでも何でもないのに誰も掃除しないから代わりに掃除をしたりしたって!! それなのに亡くなってよかったとか言うなよ!! 命の冒涜だ!」

 会場が静まり返った。聞こえるのは坊さんのお経のみ。

 坊さんのお経が終わった時

「死者の命を冒涜するものは救われませんよ。彼はたった一人の友人に支えられていきていたのですね」

 葬式が終わり火葬も終えてその遺骨は今でも家にある。だれも引き取ってくれなかったのが原因だ。そいつの親戚もそいつが亡くなったのを知ったのはそれから2年後。そいつの両親も2年後にそいつが亡くなったことを親戚から訊いて戻ってきてから葬式の話を誰かに聞いたのか俺に深々と謝罪した後

「私たちは息子の遺骨を預かる資格は、今のところないわ。息子を捨てたも同然に夜逃げしたのだから。ごめんなさい。おちついたら取りに行くからそれまで預かっていて」

 そう言って出て行った。


 そいつの約束事は誰かが困っているときに無茶をしてくれ。そう言う願いだ。たった1つの伝言を俺は託された。だから無茶をする。それを変えるつもりもない。

 それが俺にとってそいつの償いでもあるのだから

【吸血鬼の住処】

地中の中にある。窓、洗い場などが存在しない。契約者が前倒れになってしまうのは、契約者自身が倒れた衝撃で入れ替わるように吸血鬼が住む住処に移動するためである。


【そいつ】

キオリの幼馴染。男性。15歳の時、キオリを庇って死去。

キオリが無茶をするようになった原因。

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