興奮冷めやらぬ博士
何故、俺だけ異世界語が読めるようになったのか。その議論を俺とカズキとスズカで話し合うことになったのだが、その前に、昼食の注文を済ませることが先決だ。
俺は、北の街で気に入った肉を挟んだサンドイッチのようなもの。カズキはハチミツたっぷりのストロベリーマスカットパフェ。スズカは、辛子10倍入っているスパゲッティだ。
「なぁ、スズカ。そのスパゲッティ。結構真っ赤なんだけど…………」
カズキは真っ赤なスパゲッティを見てドン引きしていた。明らかにトマトの色ではない赤々しさがあるのがわかる。
「店員さんに話を訊いたら、この真っ赤は、この世界では殺人級の辛さを誇るトウネロという辛子粉末を利用しているらしいの! この粉末状もトウネロそのもの! 素晴らしい!!」
辛さ好きと入ったが、ここまで辛い物が好きだとは思わなかったな。
「さて…………本題に入ろう。何故、キオリが異世界語を読めるようになったのかが問題だ。このフォレスト・ティータイムに着く前の崩落に対して立てかけられていた立て看板の時は、まだ読めなかったってことでいいのか?」
「ああ。その時は、まだ読めていなかったよ。カズキ達と同じだな。もちろん今朝も、本をちらりと見たが相変わらず、意味が分からなかったし、読める前兆みたいな…………そんな傾向は、なかったよ」
俺が頭を悩ませていると、偶然近くを通りかかって話を聞いていたらしいウェイトレスの男性が
「立ち聞きするつもりは、なかったんだが、少しいいか?」
「え、なんですか?」
男性の言葉にスズカは答えれば
「この世界の言語が急に読めるようになったと言っていたが、ピエロの恰好をしている男性に出逢わなかったか?」
男性はそう尋ねてきた。
「ピエロ? そう言えば、3日前に若干口調が変なピエロに逢ったが…………。それと関係があるのか?」
俺がそういえば、男性は大きく頷いた。
「ええ。この世界で、幸運をもたらしてくれると有名な迷子族に続く有名な人物なんです。滅多に会える人物ではなく、彼に会ったら3日後から1週間後の間にその人物が、1番欲しているものを与えてくれる。3人とも、それ相応の欲しているものを手に入れているはずですよ。今回は、彼だけが反映されたのでしょう」
男性は盛大にそういえば、レストランにいた俺たち以外の客も頷くように同意した。というか、聞かれていたのかよ…………と俺は内心そう思いつつ
「3人?」
男性の言葉に、俺は少し引っ掛かりを覚えた。その人物が1番欲しているものを与えてくれるというのに、その人物が3人だというのだ。1人じゃないのか? スズカも気になったようで
「え、1人じゃないんですか?」
そう言えば、男性は頷いてから
「そうなんだよ。100年に1回。3組で1人と、ピエロは考えているようでね。本来なら3人だけだど、1組のうち3人気に入った人物がいれば、ピエロの気分次第で人数が増えるんだ」
なんでもありかよ。あのピエロ。
「じゃあ、あと1人いるのか…………」
という俺の呟きに反応したのは、ウエイトレスの男性である。
「? あと1人ということは、もう1人には、心当たりがあると?」
「ああ。迷子族の長だ」
俺がそういえば、俺以外の全員が息を飲んでざわつかせた。
「おいおい。今、迷子族の長って言わなかったか?」
「言ったわよ。ただでさえ迷子族に合うことすら珍しいというのに…………」
そんな会話が聞こえてくる。
「これは、新発見だ。いままで迷子族には子供と同じ背丈ぐらいの木製で出来た人形しかいないと思ったが、まさか長までいるとは!! 素晴らしい! 素晴らしいぞ!!」
それまで静観していた、白衣を着た学者のような男性は、いつの間にか俺たちの周りに集まっていた観客をどかすようにしながら進み、俺たちに近づいた。
「迷子族の長に合ったのは誰だい!?」
と興奮冷めやらぬ様子でそういうので、俺が軽く手を挙げればその挙げた手を両手で包み込むように掴んでから
「さぁ! 1度。私のいる研究所へ!! そこの2人。彼を借りていくよ!! さぁ、さぁ!!」
「あ、おい。ちょっと。会計が!!」
「私が済ませました! もちろんお三方だけですがね!! さぁ、行きますよ! モタモタする暇はありませんからね!!」
そいつは興奮しながら俺の左手首を掴んでずんずんと引っ張られるように歩き始めて俺も、つられてレストランから後にすることにした。せめてもの思い出サンドイッチだけは、右手にまだ手を付けていないサンドイッチを手にしたのだ。
引っ張られるように連れてこられた場所は、民宿よりも少し山奥の方にある民家であった。彼は、扉を乱暴に開けてから引っ張るように中へ誘導された後、出入口であろう扉に鍵をかけた。
「な、なんで鍵を閉めたんだ!? 俺は、どこかの逃走犯じゃないぞ!!」
「とうそうはん? 何の話をしているんだい? 鍵を閉めたのは、いつものことだよ。気にしないでくれ。さ、さ。空いている席に座ってくれ! そして迷子族のことを詳しく!!」
この世界には法律を犯す犯罪者はいないのか。やったら厳しい決まり事はあるのに、それはそれでどうなのだろうか。というかいつも鍵を閉めるのか。警戒心が強いのか? などとどうでもいい思考回路をしつつ、促された木製の丸椅子に座った。
彼の名前は、ハカセ。本名は不明で、周りがハカセと呼び始めたのは約10以上前。そうするうちに自分の本名を忘れてしまったらしい。
「私の名などどうでもいいことだろう。私が研究対象としているのは、迷子族なのだよ。迷子になった子供たちの証言にいろいろと検証したりしてね。本当に迷子ではないと、迷子族は、迷子族の拠点を案内してくれない。しかも拠点の場所はかなり不一致で、東西南北の各方面に住んでいる子供たちの証言によれば、拠点は歩いて10分も満たないところだと説明したのだよ。それだけでも不思議なのだが、まだまだ謎の解明がされていない迷子族なのだが、その長にいつ会ったんだい?」
鼻息を荒くしながら左手にペン。右手にメモ帳をもって俺に聞き出そうとするので、俺は、初めて会ったのが北の街に向かう途中で、その際に手紙を書いたことやら、二度目の再開は東の街に行く途中で出会った大型の犬のモンスターであるコアに連れられたこと。その時に、長に合ったことなどを話した。
ハカセは、時には目を輝かせたり、時には表情を曇らせたりなどの喜怒哀楽な表情をしつつも俺の話を真剣に訊きながら時折メモを見つつメモに書いていく。
「………………が、俺の知っている話の迷子族だな。役にたったか?」
俺は気恥ずかそうにそう言えば、彼は首を縦にブンブン頷きつつ
「もちろんだとも! なるほど、これで研究も大いに進む! どうも。ありがとう。君には感謝をするよ!」
と言ってハカセはその場から一旦離れた後、どこかへと向かってから、奥の方をガサゴソと音を立てつつ、再び戻ってきてから椅子に座った。
「ところで、君に尋ねるが、魔王を討伐ではなく救うのは本当かい?」
「…………ええ。本当です」
俺は、真面目な顔つきでそういえば、ハカセは納得しつつ
「かの伝説のハーバードの言葉とクローズ博士は、魔王は討伐するものではなく、救うものだ。それに賛同したのがこの世界の勇者と博士たちだ。私も魔王を救うのは賛成するよ。迷子族の長が君に、そのような話をした。しかもこの世界の王様。キング王だって君たちの言動に賛同したはずだ。この本を持っていきなさい」
ハカセはそう言って俺に渡したのは、クローズ博士の日誌であった。
【トウネロ】
トウガラシとハバネロを混ぜたトウガラシの一種。
この世界では、殺人級に辛いことで有名。
【ハカセ】
本名不明の白衣姿をした40代後半の男性。非常に好奇心旺盛で迷子族の研究に携わっている。尊敬する博士はクローズ博士。