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遠回りのお膳立て

個人的にも忘れてしまいがちになりますが、キオリは女顔の男性です。

 カズキとスズカは、レグルスの謝罪のため、民宿を出て直ぐに別れ、ソフィさんとドロシーとラーシュは、村の散策ということで、俺は必然的に1人の状態となった。1人で済ましたい用事があるわけもなく、かといって何もしないのは妙に落ち着かない。

 民宿にいても仕方がないので、俺は民宿を出てそこらへんをぶらりと散歩でもするかと思って歩き始める前に

「やぁ、えーっと、平和組の勇者の1人の…………スズカだっけ?」

「すまん。俺はキオリだ」

 後ろから声を掛けられたので、俺は即答しつつ振り返れば、ポニーテールをしている民族衣装を身にまとった女性がいた。

「ああ、君は男だったのか。失礼。あたしはどうも顔で判断してしまうからね。うん全体図を見れば、君は男だってのは分かるのだが、顔だけみれば君は女のような顔をしているからな。おっと失礼、一方的に喋ってしまって…………。あたしは、ツールという。よろしく」

 少々男勝りが強いような気がしでもないツールは頭だけ軽く下げる。

「ところで、キオリ。スズカを知らないかい?」

「スズカは、カズキと一緒にレグルスのところに行ったぞ」

「…………ふむ? この4日間で何か会ったのか?」

 4日間というよりも俺は2日前のことだけどなと思いつつ俺は、それを修正しつつ事情を説明すれば、ツールはどこか納得した表情を浮かべたのち

「なるほど。いや、なに。あたしもレグルスが最も嫌がることを地雷原で踊りを舞うが如く、踏み抜いてしまってね。絶交とまではいかないが、嫌われているのだよ」

 ツールは落ち込みつつそう言う。声をかけるべきか悩む前に話すとしよう。

「俺はレグルスと1日と半日しかいなかったが、レグルスは、そんなに意固地じゃないと思うぞ。ただタイミングを逃がしているなら、スズカとカズキの話し合いが終わった後に、食事にでも誘えばいいんじゃないか?」

 余計なお世話だったかと思ったが、ツールは、俺の言葉に考えるような仕草をしたのち、

「いい案だな。キオリ。君の意見を採用して、タイミングがいい時に声を掛けようかと思う。スズカにも話したいことがあるし、すれ違うさいに話せばいいだろう。うん。ではな。キオリ」

 ツールはそう言って、頭だけ軽く下げたのち、俺の横を通り過ぎるようにその場から去った。俺はその後ろ姿を見守りながら声には出さなかったが、心の声でがんばれっと声援した。


 ツールと別れてから、牧場方面へと歩いていると、腕を組んで険しい顔で牛と鶏を見ている男性と、隣で話し合っている村の入り口付近にいた女性と、牛と鶏と対話を試みているラーシュがいた。

「えぇっと、餌が少し足りないってことらしいです」

 ラーシュは、困ったような顔をしてそういえば、男性は

「餌が足りない? まさか、毎日与えていないとでもいうのかね? これだから獣人は」 

「毎日与えてくれているのは、牛さんと鶏から訊いています。けど、その与えてくれる餌の量を増やしてくれないかと。このままでは、餓死してしまうと訴えているんですよ」

 男性の言葉に、ムッとしたらしいラーシュはそう言えば、男性は気まずそうな顔をする。

「しかしだな」

 男性が何か言う前に、女性は

「獣人の言うことなんか、真に受けちゃダメよ! 後で獣人の復讐が来るわよ!!」

「アンタ、それはラーシュに対する差別だぞ」

 黙って聞いていれば、好き放題にいいたがる女性を見ながらそう言った。

 女性は俺に気づくと、鼻を鳴らしながら逃げるように牧場から離れていった。

「何がしたいんだ…………? あの人は。ラーシュ。気にしなくていいからな」

「ありがとうキオリ」

 俺の言葉にラーシュはお辞儀をした。

「彼女は、ホラという女性だよ。君たちが、異世界からこちらの世界に召喚された時期と同じ日に、この村に住んでいるのだが、村には400人程いたのだが、彼女の言動に呆れて村から出ていく住民が後を絶たなかったんだ。ついには、北の方角に出荷予定の植物を育てていた村民まで出て行ってしまってね。それで植物が育たなくなったんだよ。で、その時に彼女がレグルスに対して彼が災いだと言い出してね」

 牛と鶏がいる飼育場に餌を入れ終えた男性が、そう話してくれた。レグルスを追い出した張本人のようだ。男性は、酷く反省をしていた。

「だが、君たちがレグルスを連れ戻してくれてよかったよ。彼は村の番人として活躍しているからね。我々は、戦闘が出来ないからね」

「出来ない。というと?」

「この世界では、勇者候補や戦士といった職業柄の人物はいるが、それには、資格が必要でね。勇者候補は、勇者学校で2年半の勉強期間が与えられ。旅人になりたい人物はモンスターの特性やら、落ちてくる品々などの把握をするのが決まりみたいで、それが1年に1回行われるのだが、狭き門だ。それでもなりたがる人は絶えないのは、ある意味、人気の職業だろう」

 と男性は両腕を組んでうなずきながらそう言った。

 俺とラーシュは、牧場を後にする前に、男性が、ラーシュにいろいろ聞きたいことがあると言ってきたため、俺は、またもや1人でぶらぶらと村の散策に出かけた。

 まぁ、行くところは決まっているけどな。


 牧場にいた男性に、ホラさんが居そうな場所を尋ねれば、公園にいるのを目撃したことがある。ということだったので、行ってみると、ホラさんは公園に設置してある木製で出来たベンチに座って項垂れていた。

 声をかける前に、何かを呟いていたので俺は思わず、反射的に近くにあった公園に設置されていた物置小屋に隠れた。まるで、事件現場を目撃して、とっさに隠れた一般人のようなそんな気分だ。そんな経験はないがな。

「……しても、…は、……………です」

 風によって吹き荒れた木々の揺れる音により、上手く聞き取れなかったが、その声はホラさんであることがわかる。

「だからと言って、僕の仲間を傷つけるのは、どうかと思うよ。ホラ」

 こっちは聞き取れたが、この声は、ソフィさんか? いつのまに。公園に入っているときは気付きもしなかったな。

「……て、…………でしょ。…………だし」

 今度は木々の揺れた音にさえぎられることもなく声が聞こえたが、ホラさんは、小声で話しているのか、それとも距離が遠いだけか、俺の耳には聞き取ることができなかった。

「それは、ただの言い訳だろう? 村の人にホラさんのことを聞いて回ったけど、明らかに、追い出すというより、仲良くしましょうって雰囲気だってあったと思うんだよ」

「……………………よ?」

 聞き取れないな。もう少し近くに行った方がいいか? いや、だが、そうなると、会話の邪魔になるわけだしな…………。ここは、ソフィさんに任せよう。後で、ソフィさんに話を訊けばいいだけの話だからな。

 俺はそう開き直って、ソフィさんとホラさんに気づかれないように公園を後にした。


 公園を後にした俺は、フォレスト・ティータイムの名前の由来ともなっている紅茶の香りが漂う場所を探し始めることにした。民宿のところは、紅茶のにおいは薄かったからな。濃い方のにおいを辿ればいいだけの話だ。なんて、思いながら、犬の真似事のようにスンスンだかくんくんだが匂いを辿ってついた場所は茶畑のようだ。

「茶畑…………?」

 と疑問に思いながらも茶畑に入る。

 俺の腰より少し低い位置にある低木と呼ばれる木が横一列均等に並べてあった。それが5列以上1人1分ぐらいのペースまで開けている。戻りたいときは相手もその方向に戻って空いたところに入るかでもしないといけないぐらいのペース分だ。

 ここに紅茶の匂いの正体があるのかと思い、俺はまずは茶畑の近くにあった体育館のような広い倉庫に足を踏み入れることにした。

【ツール】

フォレスト・ティータイムに住む女性。

レグルスとは、仲のいい友人関係にあったが、レグルスの地雷をタップダンスして踏み抜いてしまって以来疎遠になっている。

キオリと別れてから、レグルスを食事に誘い、今までのことを謝罪して仲良くなった。


【ホラ】

キオリたちが最初にフォレスト・ティータイムで出会ったふくよかな女性。

ありもしない噂を流したりした結果、400人ほどいた住民がホラの話に呆れて出て行った。

レグルスを追い出した原因を作ったのも彼女。


【資格】

戦士やら魔法などにはある程度の資格が必要で、住んでいる地域のモンスターの出現率、ドロップ品の数などを暗記する必要がある、試験者は4万人前後だが、合格者は毎年200人前後程。1年に1回試験がある。試験費用は金貨3枚ほど。

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