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迷子族の教え

 ピエロの格好をした男性と別れた後、モンスターを討伐しながら東へと進んでいた。そして、徐々に背丈が伸びてくる芝生は途中から石タイルに置き換わっていたらしく、気づいたら石タイルの上だった。足元を注意深く見ていないのが関係していると思う。

 石タイルを中心として真っ直ぐに道が見えるようになっており、木の柵が左右に均一に並べられて、木の柵より向こう側は草木がソフィさんの背丈よりも上に伸びきっていて周りの景色を楽しむということは、早々に無くしてしまったのだが、それでも、モンスターは出るらしく柵を飛び越えて襲ってくる。

 しかし、北の街の訓練場の特訓の成果もあってか、慌てずに対処することが出来たのは、心の中で自分を褒めていた。ソフィさんとラーシュもそれ相応に対応し、ドロシーも最初は戸惑いはしたものの、次の戦闘ではモンスターが出て来た瞬間、拳で殴ったのは驚きだったが。

 元々、ドロシーの戦闘スタイルは、火炎放射器の如く腕から炎を出す技を繰り広げていたのだが、この道に入ってからドロシーさんに火炎放射器を控えるようにお願いしたら、拳技である。そうか、拳か…………。

「火炎放射器だと、オイルを大量に使うから燃費が悪かったけど、拳はオイル1滴ぐらいで使うから、基本的な大物が出てこない限り火炎放射器は使わないことにするよ」

 ドロシーは、何故拳なのかというカズキの質問にそう答えた。

 拳でもオイルは消費すが、1滴程度なのか…………という心の中で感想を漏らした俺なのだが、ドロシーの言葉が盛大なフラグにならないといいがと祈るしかない。



 だからだろうか。今、巨大モンスターに追いかけられているのは。



 きっかけは結構些細なことだ。道端に落ちていた枝を踏んだ。それだけだ。その枝はパキッと音を鳴らして折れたのだが、その直後にうっそうとした草むらから出て来たのは、巨大なモンスターである。

 そして、俺たちは元きた道を走りながら、戻っている。

「これがフラグ回収ってやつかな!?」

「知るかよ!? というか、カズキ、お前、喜んでないか!?」

「すっごい喜んでいるよ! あはは! ゲームみたいなスリル的展開だよ。素晴らしいね!」

「ゲーム脳かよ!?」

「ねぇ! ドロシー! これ、どうにか、出来ないの!?」

「火炎放射器は、ここじゃ禁止って言ったよね!? もう少し広いところに出ないと使えないかな!! ソフィも同じ意見でいい!?」

「まぁ! そうだね! 同じ意見だとも!」

 逃げている間は、舌をかまないように走りながら喋っていた。そんなに器用じゃないんだがな。

「あれって大型犬の巨大モンスターだけど、どうするの? って、キオリ!?」

 唯一息切れを起こしていなかったラーシュは、モンスターの状況説明をしつつ一緒に逃げていたのだが、大型犬と呼ばれて俺が思わず反応してしまった。

 

「犬なら、えーっと。 おすわり!!」

「きゃうん!」

 正直に言おう。おすわりで反応するって思わないじゃん?

 素直にお座りにしたがった大型犬のモンスターはクーバースに似ている。白い犬で毛並みが多く伏せと指示したらおとなしく伏せの体制には、なってくれる。伏せの状態でも梯子を使わないと背中に乗れないぐらい大きい。

 遠くから様子を見ていたラーシュ以外のカズキたちは、おずおずと近づき、白い犬を撫でれば、そこが気持ちいいのか大きく尻尾を振った。

「敵意はないみたいだし、会話してみるね」

 既に白い犬の近くにいたラーシュは同じイヌ科として、白い犬と会話をし始めた。とっても無言なのだが、それが普通なのだろうか? ワンワンとかあっても良かったように思うのだが…………。いや、これはただの願望だな。

 最初は、おずおずとしていたカズキ達も気を許したらしく白い毛に埋もれていた。

「いい匂いがする」

「カズキって匂いフェチだったか?」

「…………そうなのか?」

「無自覚かよ…………」

 俺の言葉にカズキは頭上にクエスチョンマークを浮かべるだけだ。


 会話が終わったようで、ラーシュの話によると

「ええと、飼い主を探して3000年経っていて、気づいたらこうなってたって」

 母を尋ねて三千里ならぬ飼い主探して3000年だ。3000年の年数がどれだけ長い年月かを知らされる。

「で、飼い主が似ているキオリに着いて行くって」

「は!? なんでまた!?」

 俺がそう言えばラーシュは腕を組みながら

「アタシも尋ねたんだけど、飼い主は多分結構前に亡くなっているから、飼い主の分まで愛してくれそうなキオリに着いていきたいって言ってきてるの」

「お、おぉ…………。そうなのか」

 白い犬はワンと鳴く。

「それで、この犬の名前は?」

「コアって名前らしいよ。雌犬で、犬種は知らないって」

「コアか。よろしくな」

「ワン!」


 大型犬のモンスター。コアを連れて、元来た道に戻る。

 ドシンドシンと地面が大きく鳴り響く音を聞きながら、嬉しそうに尻尾を振りながら着いてくるコアを眺めつつ前を見て歩く。

「君が、犬好きなのは、前から知っていたけど、手名付けるのも上手だね」

 ドロシーの言葉に俺は頷いた。

「そうかもな。幼少期からずっと動物と触れて来たんだ。それがずっと当たり前だったから手名付けるのも上手くなったんだと思うな」

 若干照れながらもそう言えば、ドロシーは納得しつつ

「うんうん。コアって子も嬉しいと思うよ」

「だといいがな…………」

 ドロシーの言葉に俺はそう呟いた。


 日が暮れ始めた時、休憩場所兼中間地点の広い場所があった。ここにテントを張る。中間地点には水飲み場もあったので、そこに大きいバケツに水を入れてそれをコアに渡せば嬉しそうに飲み始めたのだが、数回で終わってしまうので、それを往復しつつ水を与えて満足したのか大きい欠伸をする。

「東の街で魔法に詳しい奴探さないとな。好きで大きくなったわけじゃないだろうしな」

 俺はコアの鼻の頭を撫でていると服の裾をくいくいっとされたので振り返れば

「え、あ。お久しぶり?」

 迷子族と呼ばれる木で出来た種族と合流した。

「え、俺って迷子なのか?」

 そう言えば彼らは首を振ってそこの犬を指を指す。

「コアが迷子ってことか? でも飼い主を見失ったの3000年前だぞ?」

「カイヌシ」

「マイゴ」

「イエ」

「カエシタ」

「…………3000年前に飼い主を家に帰したのか? コアはどうするんだ?」

「コイ」

「カエル」

 そう言って俺の裾をぐいぐい引っ張る。

「は!? 俺も!? 迷子じゃないっていったよな!?」

 前倒れになりつつもそう言えば

「モンダイ」

「モンダイ」

「イッショ」

「ムリ」

「コアと一緒じゃないとムリってか?」

 と尋ねれば迷子族は頷いた。

「マジかよ…………」


 で連れてこられた場所は、迷子族の住処。コアも一緒だ。

 相変わらず大樹の中に空があるのは不思議なのだが、気にしたらダメだなとおもいつつコアだけ、俺が迷子の時に連れてこられた公園に置いていきながら俺だけを引っ張る。

「元気でな。コア」

「ワン!」

 寂しい別れだが、また会えるだろうな。

「で、俺はどうすれば?」

「オテガミ」

「アリガトウ」

「あ、手紙呼んでくれたのか。いや、こっちこそありがとうな」

 そう言えば迷子族は嬉しそうな顔をした。

 人形のような感じだが、実際はそうでもないのだろうと、認識を少し改めつつ

「コチ」

 と言われて連れてこられた場所は、公園も見えた、木製のお城である。

 コチ、コチと案内されて出会ったのは、

「あれぇ~~? まぁたあいましたねぇ~~~!」

 数時間前に出会ったピエロとそれに談笑している木で出来た王様であった。

【クーバース】

ハンガリー原産の護畜犬種のこと。


【コア】

クーバースのような白くて大きな犬、元々大きな犬だったのだが3000年前に飼い主とはぐれてしまい彷徨っていたら普段より10回りほど大きくなった。

飼い主がキオリに似ているので懐いている。

この後、もとの飼い主の所に通常サイズで戻った。

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