ある賭け事に勝利した王様
王様はある掛けをしていた。
それは、非常に難しい賭けである。
謁見室の扉を開けば、ドロシーとラーシュ、ソフィさんがいた。
「ソフィさん、ラーシュ。もう身体は大丈夫なんですか?」
スズカが不安げな顔で尋ねれば、2人は嬉しそうに微笑んでから
「もちろんだとも。心配かけたね」
「完全回復! 安心していいよ~」
と言って俺たちに抱擁するように、元気だというアピールまでしてくれて、それを見て、俺たちは安心して胸をなでおろす。
回復したと訊いても、目の前で元気な姿を見ない限り、安心することは出来ないのだ。油断大敵という奴だな。
ゴホンと咳払いする音で、ここが謁見室であることを思い出し、直ぐにドロシーの横に並ぶ。
それを確認した、王様はもう一度咳払いをしてから
「我が軍勢諸君に問う。貴殿は魔王を討伐する意思があるか?」
その言葉にカズキは身体を少しだけ跳ねらせた。カズキは隠し事が出来ないタイプかと思いつつ、俺は口を開く。
「いいえ、ありません」
そう言えば、謁見室にいた側近と護衛が驚愕した。
「ふむ? その真意はなんだ?」
「ハーバードさんが、ブラックホールを調べた際に、最初に現れたバルバトスという魔王は、引っ張られた感じで連れてこられたとエルナトさんは教えてくれました。それにブラックホールと異世界アトランダム召喚術式はほぼ似たようなものであるとクローズ博士が提議していたはずだ。それなのに、聞く耳を持たず、クローズ博士を公開処刑したり、一体何を考えているのですか?」
勢いで言ってしまったが、後悔はない。元々疑問すぎるのだ。何故、クローズ博士は殺されなけれないけなかったのか。それがずっと疑問だったのだ。その疑問をいまさら問いかけてもどうかと思うのだが、それでも聞かずにはいられなかった。
俺の言葉に王様は暫く黙ったのち
「なるほど。あいつの言う通りのようだ。もうあの口調をする必要がないか」
王様が普通に喋った、今までよく分からない言葉を喋っていたのに。それは、側近と護衛全員が驚愕した。無論俺たちも驚愕するしかない。
元々、王様基キングは真面に喋るほうである。キングが幼少期のころ、ある疑問を持った。
「何故、この世界の勇者が魔王を討伐しないのだろう?」
ただ単純に、純粋な疑問だった。キングは、その正解を求めて勇者学校にいる勇者に声に同じ質問をしたら、魔王が最初に現れたある時期に、それを調査したハーバードと呼ばれる勇者が、当時の王様に報告をしたときに何故かその魔王が討伐されてハーバードが殺したことになっていたということだった。元々、ハーバードという勇者は臆病で怖がりな性格をしていたこともあって、誰もがそれを信じられず、当時の王様に抗議をしたのだが、聞く耳を持たず。そしてその抗議をした人物が公開処刑されたのだと。勇者学校に通う者では結構有名な話で、それ以降、魔王を討伐しない方向で進めたのだが、それが、当時の王様の耳に入ると、その王様は異世界アトランダム召喚術式という謎の術式で異世界から勇者素質のあるものを呼び出して魔王を討伐するように言い渡した。
それ以降異世界から勇者素質があるものが呼び出されて現在に至るのだと。
それを訊いたキングは、驚愕した。そしてその真意を探るべく、王様なら詳しい知識が手に入ると思い13年後に行われる王様を決める選挙に勝ち抜いた。
まず、彼は王宮の図書室にある本をくまなく読んだ。知らない言語も本の中にあったが、必死に勉強した。ついでにそれが悟られぬ用に王様になってから違う喋り方を取り入れたのが、少し間違った言動まで心掛けた。その時にある1冊の本を手にしてそれを持ってSSPに住んでいるエルナトに逢いに行ってこの本を見せたのちに、王様はこういった。
「もし、君達のほうで、彼らを召喚できるとするならどのような方法ですればいい?」
王様は平和組が異世界に呼ぶことを前提とした異世界アトランダム召喚術式を用[もち]いようとしていたのだ。
「ふむ、彼らを呼ぶのには、王様選挙で新たな王様に選ばれる確率より低いだろう。それでも、彼らを呼ぶのなら、それなりの体力や粘り強さがいるだろう」
エルナトの言葉にキングは、納得した。
キングは王宮に戻ってから、彼らを召喚したと過程してのシミュレーションを行った。まず、こちらの言葉が通じないのは確かだし、翻訳者が必要だろうと思い、キングは、王宮で読書家であり、勤勉家でもある7人の内の1人の女性に、面白いからと1冊の本を薦めた。彼女は、渋々受け取ったものの数日後には、これは面白いと非常に興奮しながらキングに伝えた。キングは内心、安堵の溜息をついた。
次にシミュレーションしたのは、彼らが召喚されたとして、どのように行動するのかということだった。もし、彼らがこれまで召喚した人物と同じく地域住民を助けなかった場合は、この話はなかったことになるのだが、もし、彼らが地域住民やビーデルを救えてこの世界に疑問を持ったのなら、口調を辞めてしまっていいのかもしれない。
キングはそう思った。
そして、現在。
「平和組が現れる確率は、非常に低かった。寧ろ、俺の年でブラックホールが現れない可能性だってあったのだ。だが、現れて君達を見た時、俺は賭けに勝利をしたのだ」
普段は、真面目な口調であるらしい。それらを封印してまで中二病的発言をしていたことに俺たちは驚愕するしかない。
「実際に、君達は西の街の海岸のモンスターの討伐、自称勇者一行の解決や、ビーデルを救済を手に掛けた。そして、君達が魔王を討伐することに疑問を抱いて、SSPに訪れたことも知っている」
俺はそこで、思い出して四次元麻袋から一枚の封筒を取り出してから
「エルナトさんから、貴方に渡すようにと伝言をされていました」
王様は封筒を受け取り、それを開封したのち2枚の手紙と取り出しその内容をじっくりと読み始めた。
数分して、王様は納得した表情を浮かべた。
「なるほど…………」
と呟いていたぐらいだからな。
「先程の質問に答えよう。ブラックホールの正体が、恨みと妬みなどと言った負の感情であるのは知っているか?」
「え、あ、はい。エルナトさんから訊きました」
「クローズ博士は、それらを伏せずに世間に公表し、負の感情を無くしましょうと呼びかけたんだ。それらの感情を持って何が悪いと反論したのが12代王様なのだ。ちなみに、俺は133代目の王様だ」
思ったのだが、クローズ博士とかハーバードさんなど何百年前の人なのだろうかと思うのだが、あえて聞かないようにしている。知らない方が世の中にはたくさんある。
「あの、ずっと思ってたんですけど、クローズ博士っていつ頃お亡くなりに?」
スズカが尋ねて来た。
「あー。言い忘れていたが。この世界で知り合いだろうがいつ生まれていつ亡くなったのかっていうのは、決まりで教えられないんだ。教えたら絞殺ぐらいでは済まないだろう」
「あ、そうなんですね。わかりました」
やっぱりな。しかし、この世界の決まりって意外と物騒なのが多いな。緩い決まりとかないだろうな…………。
「王様の逆鱗に触れてしまったものは処刑をというのが、12代王様での決まり事で、それに触れられて公開処刑されてしまったのだ。記録上はそう残っているな」
大昔過ぎる故に古い知識しか残っていない。魔法があるのに魔法で記録することをしないのが不思議なところだが、何か事情があるのだろうと俺は思った。
謁見室にから出た後に、ソフィさんは口を開く。
「SSPという場所で何かを得たようだ。それにその目は強い意志を感じるよ。僕もぜひ魔王を討伐せずにいきたいから協力するよ。ラーシュとドロシーはどうするんだい?」
怒られるかと思ったが、逆に何故か関心させられたことに俺たちはあっけらかんとする。そんな俺たち置いてソフィさんは、ラーシュとドロシーに尋ねる。
「アタシも構わないよ。西の街でもそうだったけれど、必ずやり遂げるという意思があったからね! それに、キオリ達の旅を一緒にしたいんだ」
ラーシュは、周りに花が咲くような幻覚を見せながらそう言った。
「ワタシも構いませんよ。突然のことで驚きましたが、討伐せずに救えるのであればぜひ、そうしたいです」
ドロシーも嬉しそうに微笑んだ。
俺たちは思わず笑みがこぼれてしまうが、今は我慢だ。
「俺たちは東の街でアルデバランという人に逢いに行くつもりだ。準備が整い次第、東の街に向かおうかと思う。ソフィさん、ドロシー、ラーシュそれでいいですか?」
「もちろん」
「もちろん!」
「構いませんよ」
こうして俺たちは、魔王が討伐せずに救える方法を模索する旅に出ることになった。
【王様選挙】
先代王が亡くなってから王様を決める選挙のこと。
選挙期間は3ヶ月。東西南北にある街と中央の街の5つから選んで票数が多かった人物が次期の王様となる。任務期間は死ぬまでなので、選挙に出る倍率が高い。1万人から20万人までの候補者が集う。
【キング】
平和組を召喚した王様の本名。
中二病的な言い回しはワザと。
異世界アトランダム召喚術式に疑問を抱いて、即行動に移し、平和組がもし他人同然である民間人を助けるのならば、それに賭けていた。