小人は、平和組を歓迎する
ようやく小人が住む住処にやってきました。
山小屋を奇麗に掃除をしてから山小屋を出れば、冷たくもなく暑くもなく心地よい風が、キオリ達の頬を撫でた。東北東の位置は基本的に暖かくなっていようで、太陽の光で春のような穏やかさを感じた。
周りをよく見れば、砂砂利で補装された一本道が山小屋を出たあたりからあり、言葉は分かっていても看板等は一切分からないので、ペーパーさんに何と書いてあるか尋ねると、出口はこちらですと書かれてますよと微笑んだ。
「ですが、今向かう場所は、反対側ですね。舗装されてはいませんので、足元には、十分注意してください」
と反対の方向を右手人差し指で指示した。
その方向を見れば、確かに俺の腰辺りぐらいに伸びきった草が生い茂っているのが分かる。
「離れたら厄介なので、一列にしましょう。道が分かる私が先頭を歩きますので、その後ろから、キオリ君、カズキ君、スズカさんにしますが、いいですか?」
「あ、はい!」
というこで、舗装された一本道の反対側である場所へ歩くことになった。常にいつ襲っても大丈夫のように、戦闘服を着ているペーパーさんが草をかき分けるように進み、その後ろを俺が歩き、ついでに枝が落ちていたらどかしながら歩き、その後ろに歩くカズキは俺が取りこぼした枝を取り除きつつ歩き、その後ろを歩くスズカが少しは安全になるように配慮する形になったのだが、のちにスズカからお礼を貰った。
しばらく草をかき分けながら進むとペーパーさんは突然立ち止まった。
「? ぺーパーさん? どうしました?」
「……………そうですね。すみません。私はここから先が進めないみたいです」
「進めない?」
ペーパーさんの前をのぞき込むが、まだ道は続いているように見えたのだが、ペーパーさんは進めないと言っている。
「本当にすみません。小屋のほうで待っていますから」
本当に申し訳なさそうな顔をしつつペーパーさんの顔は曇らせたまま迂回し元来た道を戻った。
「ねえ。ペーパーさん戻ってるけど…………?」
スズカの言葉に俺は、ペーパーさんが話したことをカズキにも共有するように話したら
「進めない? 道があるのに?」
カズキの言葉に俺は頷いた。
「理由を尋ねる前に、さっさと用件だけ言って帰っててさ…………。先に進んでくれって言われても俺たちは、道が分かるわけないだろ?」
「確かに、僕たちは小人がいるのは、東北東だとは知っているけど、その道順までは知らないな…………」
「どうしよ…………」
しばらく、動かずにその場にとどまっていると、竹馬らしきものに乗った2頭身半ぐらいの子供がこちらにやってきた。
「ん? もしや、君達は平和組と呼ばれる人達かな? こんなところで何をしている?」
子供らしい高い声ではなく、成人男性の声音で尋ねて来た。俺たちはそれに驚きつつ
「俺たち、小人に会いに来たんだが、案内役がこの先進めないらしくUターンして帰って行ってしまって…………。先に進むように促されたんですけど、俺たち小人がいる場所まで知らなくて、ここで立ち止まっていたんです」
と俺が答えれば、隣にいた彼らは小声で話し合った後、
「なるほど。その案内人が勧めないのは、間違っていないよ。まぁ、説明は追々説明しようか。ボクたちについてきてくれ。そこに案内しよう」
そう言って彼らは竹馬のようなものを器用にこなしつつそのまま歩いていったので、不思議に思いつつも俺たちはついていくことにした。
太陽が少し傾き始めたころ、俺たちは、竹馬のようなものを自分の足のようにこなしている彼らに右に行ったり、左に行ったり、途中に会った川を横断しながら歩いていると、テーマパークでよく見かける大きい門が見えた。その門の上に看板があり、そこは英語で
「WELLCOM TO SSP」
と書かれていた。口に出して言ったのはいいがSSPって何の略称か不明である。直訳すれば、【ようこそSSPへ】と書いてある。
そこへ足を向ける2頭身半の彼らに向かって歩いていると、俺の腰まであった草がだんだん下がっていく…………いや、草が小さくなっているのだ。これ以上伸びきっていないようで、階段に着いている手すりのように奇麗になって行き最終的には雑草になっていた。
竹馬らしきものに乗っていた彼らも途中から降りてから、その竹馬らしきものを近くに置いて再び歩いて、から振り返った。
「うん。君達には資格があるようだね」
「? 資格?」
「ようこそ! 平和組の勇者達! ここが、小人が住む住処。スモール・スモール・パーク、通称SSPへ! 歓迎するよ!!」
俺の質問には答えず、案内してくれた彼は、高らかに宣言すると、他の人と話していたり店で販売していたりしていた数十人以上の男女が一気に押し寄せてきて、俺たちを抱きかかえ胴上げさせられた。
「本物だ!」
「本当にいたんだ!」
「ようこそー!!」
やけにうるさいのだが、俺たちは成されるがままだ。抵抗しても彼らが止めてくれるとは思えなかったのが主な理由だろう。
で、胴上げされたまま案内させられた大広場に鎮座してあった椅子に座らせられてから、彼らは俺たちに話しかけて来たのだが、1人の偉い人らしい人が入ってくると、騒ぎが一気に静かになり、その人が通りやすいように道を開けた。
俺たちは思わず立ち上がろうとするが、彼は座るように促されたのでそのまま椅子に座る。
「君たちが、平和組と呼ばれる勇者だね? 初めまして。私はエルナトという。名前は風の噂で訊いているよ。確か…………」
少し落ち着きのある男性は少し腕を組んで考えたのち
「左から、スズカ、カズキ、キオリだったかな? あっているかい?」
「あ、はい。会ってます」
スズカが代わりに返事をした。
エルナトさんは納得して左腕を軽く上げると、静まり返っていた彼らは再びどんちゃん騒ぎに戻った。
「失礼」
エルナトさんは、俺の隣に座ると同時に、大広場にはテーブルが持ち運ばれてそれをテーブルに白い大きな無地の布をかぶせてさらにその上に料理を並べ始めたので、手伝わなくていいのだろうかと思って立ち上がったりもしたのだが、立ち上がるたびに彼らは驚愕してそのまま座るように戻されたり、それを突破しても、どうぞ座ってくださいと断られて東奔西走のように走り回っている彼らたちを何となく眺めているしかなかった。
数時間して並べられた料理に見慣れたものが幾つかあったのだが、その中でも異世界に召喚されて以来食していないお米とみそ汁が鎮座していた。
「え!? お米!?」
「味噌汁まであるぞ 豆腐とわかめも」
「えぇ!?」
この世界では、お米などは栽培されていないと訊いた時は絶望に近く、ほとんど主食はパンで過ごしていたのだが、こうしてお米とみそ汁が出ると泣きそうになる。
「驚いてくれたみたいで、何よりだよ。君達の世界の食文化を真似して、こちらで栽培しているんだ。あの竹馬調べたものだ」
エルナトさんは、嬉しそうな顔でそう答えた。
先ほどまで、世話しなく動いていた彼らたちが全員席に着いたのを確認したのち、エルナトさんは立ち上がり、咳払いをしてから
「今日は平和組が我がSSPに訪れた。羽目を外さぬように騒いでくれ。各グラスは持ったか? では、乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
エルナトさんがそう言えば彼らも復唱してグラスとグラスを鳴らすカチンやらカチャンやらの音を立てていた。
「お腹が空いただろう? 食べていいぞ。その後に君たちの質問に答えよう。今は、お堅い話は無しにしよう」
と言われて、釣られてグラスの乾杯に参加したグラスをテーブルに置きつつ、俺はスズカとカズキの顔を見合わせた。話はあとから訊けるみたいだからと言えば、2人は頷いてから
「料理より話に夢中になるのはよくないからね」
「たしかに」
カズキの言葉にスズカは同意してから手を合わせた後
「いただきます!」
まず、やることは食事を楽しむことからだな。
【小人】
成人男性と成人女性の声音が特徴的な2頭身半の小人。
小さいため。草が小人より大きいものは、竹馬を使用している。
【スモール・スモール・パーク】
Small・Small・Park 小人が住んでいる住処の名前。SSPと略されることがある。
その名の通り、小人専用の公園のような遊園地のようなものが並んでいる。
7頭身前後のキオリ達が入れたのかは、このSSPの能力で気付かないうちに小人使用になっているのが原因。
【エルナト】
SSPの長老的存在。3500歳前後。だが見た目は20歳前後の男性。ウルフカットをしている。