それを誰がやるというんだ
ドロシーさんは、回想と普段の口調を分けています。
リドさんが落ち着いたのは、数十分要したのだが、リドさんは、作戦を無駄にさせないためにもと、張り切っていた。まず、状況を把握するために東南東にいると思われるビーデルがまず東南東にあるトントン族が住んでいた住処の場所にテトさん、クィージィーさん、リドさんの3人は、ある程度の準備をしたのち、王宮から出発した。
転移魔法を使えばいいのでは、と思ったのだが、転移魔法は高難易度の魔法でパドラーさん曰、魔術師でも操れるのは片手で数えられる人数しかいないほど、杖の召喚魔法より複雑であり、今の所それを使えるのは、ジャスさんとパドラーさんの2人だけだという。そのジャスさんでも妖精界での最高難易度試練として出題されるほどだと説明してくれた。
テトさん達が、戻ってくるまでの間、俺たちは周辺の地域を地図上で確認しつつ、まず捕らわれている仲間をどのように救うかという方法の手順などの作戦を練りながらテトさん達の帰りを待った。
そのテトさん達が戻って来たのは、夕方に差し掛かった時間帯である。
「戻ったぞ。そして、彼女の言葉を分かる者がいるか?」
とテトさんが連れ出したのは、
「ドロシーさん!?」
「! あら、キオリくん達。こんにちは。あの人達の言語が分からないの。機械の部品の一部が壊れているのだと思うわ」
「機械の一部が? ということは、異世界語が分からなくなった? 前にあった時は、喋ってましたよね?」
カズキの言葉にドロシーさんは頷いた。
「ええ。ええ。あの男の言語は習得済みですけど、その習得するのにメモリーが一部破損したんです。それで、私のいた言語しか喋れなくなっていて…………? そうなると、キオリくん達の言語と私達の言語は共通していますね? それともカジワという人の言語に合わせてでしょうか…………?」
ドロシーさんが悩み始めたところで、テトさんは
「なんだって?」
と尋ねて来た。テトさんでも日本語は分かるのだが、それとは違う言語なのだろうかと悩みつつスズカは事情を説明すると
「なるほど。では、スズカ君達には、ドロシー君から、東南東の事情を詳しく聞き出してくれ。俺とクィージィー君、リド君は汗を流しに風呂場に向かう」
と言って、その場を離れた。
「ドロシーさんは、ビーデルという男性に連れ去られた後何があったか分かる?」
「ビーデル?」
カズキの言葉にドロシーさんは首を傾げるので、スズカは
「ドロシー達をこの世界に呼んだ男だよ」
と付け足せば、納得したようで
「西の街へ向かう際に、声が聞こえましたの。助けてって声。それで、テントを張っていましたが、起こさぬようにその場所へ向かう前にアルゴさんとルンドさんもその声に気づいたようでして、それならイリルさんも気づいているのかもと思って、アルゴさんと一緒にテントへ戻ったら、まだ寝ていて、揺すっても頬を叩いても置きませんでした。ララさんもそんな感じでしたね。ですから、手紙を残して、私達で向かいました。声が聞こえる方へ向かうと同時に、意識を失って、気づいたらあの場所です」
「助けてって声が聞こえたのか?」
俺は尋ねるとドロシーさんは頷いた。
「ええ。そうです」
気づいた時、あの場所に戻っていた。
ただ、最初のころは気が動転して元の世界に帰れる手段もないということへの焦りもあって周りをよく、観察していなかったせいもあって、曖昧な部分はあるが、それでも気味が悪い場所だというのだけは感じ取れた。
だが、ここで問題が発生した。聞き取れないのだ。意識を失う際にどこか故障でもしたのか、この世界の言語がさっぱり分からなかった。
ドラゴンのソフィは、こちらに気づき話しかけてくれたのだが、言語が分からない。言語が分からないことをジェスチャーのように伝えれば、ドラゴンのソフィは驚愕してい何かを考えたのち、ポケットに紙とペンが入っていたのかそれを書いた後、僕に持たせた。
これを平和組に渡すように促しているのは、直観で分かった。
男は、自分の声が聞き取れない人物などいらなかった。なので、摘まみ出された。
その際にテトと出会った。
「というわけ。この紙を貴方たちに渡すわ。あたしは、外されて無事だったけれど、無理矢理出される際に、ドラゴンのソフィは目が少し虚ろだったのは視えたわ。だから、救えるのは、ここにいる者たちだけだと思うわ。他の人が犠牲が出る前に」
ドロシーさんは、そう言って紙を俺に私ながらそう言った。
小さい紙きれには、こう書かれていた。
『彼が始めようとしているのは、復讐だ。救ってくれなかった勇者、このようなことをした研究者たち。彼は、俺たちの意思を無視して東の街に住んでいる研究者の子孫や東の街に住む住民を虐殺するつもりだ』
これをみて俺は驚愕した。それを見に来たカズキとスズカも驚愕する。
「作戦は5日後に行われるって…………?」
「彼を救えるのは、僕たちだけ?」
「ん?」
スズカとカズキだけ違う反応を見せる。いや、俺も再び紙に視線を戻すが、スズカが呟いていた作戦も、カズキが積豚いていた救えるのは、というあたりは書かれていない。だからなのか
「作戦? 一体何を言っているんだ? スズカ?」
「カズキくんこそ、彼を救えるって何を…………?」
「カズキ、スズカ。まさかだと思うが見ている内容が違うかもしれない。一体どういう仕組みなのかは分からないが、俺には、ビーデルの企み、スズカには作戦の決行日、カズキにはビーデルが救えるのは俺たちだけだと言っているんだ」
俺はあくまで冷静にそう言った、内心は非常に焦っている。中々決まらない就職先に焦っているのとほぼ同じだ。母がまだ結婚していないときに、俺に思い出話のように聞かされた周りが結婚して一人だけ取り残された女性のような気持ちと同じ様に内心焦っている。俺は、それぐらい焦っていた。だが、冷静にならなければならない。焦っては行けない。そう言ったのも俺じゃないか。
「テトさん達が戻ってきたら、みんなに説明する。作戦を練り直さなければならない」
テトさん達が応接間に戻って来たのはそれから20分後。
俺はまず、デラミラさん達が行方不明になった事情を分かりやすく説明し、ドロシーさんがソフィさんから預かった手紙の内容を説明したうえで、作戦を変更することを話した。
「あの、男を…………ビーデルを正気に戻すというのか? 君達は、それを可能だというのか?」
ドミスさんは尋ねて来た。
「それは、分からない。だが、ソフィさんは、俺たちにそう指示をした。俺たちだからこそビーデルを救うことが出来る可能性があると確信したんだ。俺たちはその可能性に掛ける」
俺の言葉にカズキとスズカは頷いた。
ドミスさんの不安そうな顔は最もだ。俺も、正気か? と疑うに決まっている。だが、俺はそうしなければならない理由もある。
「もう一度、尋ねよう。キオリ、カズキ、スズカ。ビーデルは助けるべき相手か?」
グインさんは、俺たちを見据えた
「それで、平和組の救済に失敗する可能性もあるのだ。それでもビーデルを助けるというのか?」
その言葉に、俺は頷いた。
「確かに、救うことに失敗する恐れはある。失敗したことに後悔しても俺は、その結果に後悔はない。実践して失敗したからだ。だが、実践もしないで、失敗するのも、後悔する。あの時ああ、していればと何回も悔やむ。西の街も、自称勇者一行も俺が後悔したくないから、身体が勝手に動いたんだ。そうならない為に、ビーデルも東の街を滅茶苦茶にしたところで、報われないのは分かっているはずだ。だから、そうする前に俺は、ビーデルと話し合うことが必要があると思うんだ」
キオリの言葉にスズカとカズキは何かを決意したような顔をしたのち
「あたしもキオリくんと同じ意見です。ビーデルさんは望んで、瘴気に充てられたわけではない。そうしてしまった研究者は既に死んでしまっているけど、ビーデルさんに謝罪もせずに放置してしまったこの世界にも責任はあると思う。あたしは、その責任を背負わなければいけない。5200年前助けられなかった彼を今救えるのは、あたしたちだけというのならやってやります」
「僕もカズキとスズカの意見に賛成だよ。傍観者でいるより、観戦者のほうがちょうどいい。僕たちがやらなくて誰がやるというんだい? ビーデルの行った行為は消えないが、ビーデルの行いを事前に止められるのは今しかないというのならそれを実行するのも僕たちだ。だってそうだろう? 僕たちは、平和な世界で唯一選ばれた勇者候補だからさ」
スズカとカズキの言葉に、テト達は驚愕した。
ただ魔王を討伐して元の世界に帰る。それは平和組以外のやり方でそれは、5200年前よりも前から行われていた。この世界の勇者は、体たらくで動こうとはしない。ただ魔王を討伐してくれと言われたから討伐するまでだと思っていた。街の人が困っていようが関係ない。
だが、平和組はどうだ。
ビーデルを助ける? 助けて何になる? 勇者ってそういうものなのか?
価値観の違いをハッキリと見せられた。
何故、そこまで他人を助ける? そんなの無視してもいいだろう?
「俺は、他人を見捨てるより、救えるのならその選択肢を取ります。ビーデルを助ける手段があるのかと言えば、今はないですけど、その手段を見つけるのが、俺たち勇者に選ばれた理由だと思います」
さっきまで口調を崩していたくせに、生意気だ。
ああ、そうだ。
パドラーさん達は一斉にため息をついた。
「全く、流石だ。平和組。いいだろう。君達の作戦に乗ってやる」
パドラーさんの言葉にグインさん達も頷いた。
【転移魔法】
時間、場所、座標が正確でなければ転移をすることは出来ない。
何時何分何秒まで読み取らなければならない。それがずれると時間と時間の間に挟まれてしまう。
ジャスが平和組に目を閉じるように言ったのは、時間酔いを起こすため。
これは、勇者アトランダム召喚術式にも適用されている。
【復讐】
誰かに何かをされたという行為が他人にとっては普通でも個人が嫌悪している感情。
ビーデルは、研究者に無理やり連れ出されて逃げ出さないように両手足首に縄で縛られた後、謎の瘴気に1時間以上放置されたことにより、人間ではなくなり、復讐に捕らわれるようになった。
【勇者】
平和組が思う勇者とパドラーさん達が思う勇者は、大きく違いがあり、
平和組が思う勇者は、他人にとっては困難な障害物を一緒に乗り越えていこうとするのが勇者で、
パドラーさん達のいう勇者は、他人が困惑していてもお構いなしに我が道を行く勇者タイプ。
平和組が召喚されるまで、そのスタンスを通っていたのだが、ソフィは、平和組が自称勇者一行に立ち向かって説得したのに驚愕しつつも自分が思っていた勇者像とは大分かけ離れた平和組に、彼らならビーデルを救える可能性を見出した。