胡蝶蘭の滞在
胡蝶蘭に滞在します。
小人とトントン族の関係性は不明だが、どういう経緯で一緒になったのかは、3ヶ月経った今でも分かっていない。トントン族は、人間に姿を見られるを嫌っている傾向があり、小人は、滅多に人間に姿を現したことがないので、迷子族と同列して伝説上の生き物として登録されることが今から2000年前にあったのだが、それは、本が修復されるまでの話だ。本が元の状態で戻ったことで小人の存在が認知されていた。
そんな、小人とトントン族が異世界アトランダム召喚術式で勇者候補の人達が召喚される前日に一緒に暮らしているという噂が立ち始めた。
この異世界の噂が出てから全国に知られるまで1時間も経っていないらしいのだが、そこの所どうなっているのか尋ねたところ首を傾げられた。
異世界の不思議はこうして増えていく。
もう少し詳しく訊こうと生き込むと同時に腹の虫が鳴った。
ここから遠い場所で鐘の音が聞こえた。
「ン。モウ昼ダナ。料理ヲ作ルカラ待ッテテクレ」
この異世界に来てから料理を一から見るということは一切なかった。既に調理済みの料理が目の前にあったり、仕切りがあって隠されていたからだ。
だからなのか、昼食を作ってくれるというグリーバスさんが手料理を振舞ってくれるそうなので、料理工程を見せてくれないかと言ったら
「焼クダケダゾ?」
と言われたので、それでもっとお願いすれば、不思議そうに首を傾げつつ調理に取り掛かった。
少し唸ったりしながらも本当に焼くだけの工程を何回か繰り返し、焼き上がった分厚い肉を皿に乗せて完成した。
「ナ? ツマラナイダロウ?」
「いえいえ、今までどういう風に調理するか異世界に来てから見たことなくて」
グリーバスさん問いにスズカが、そう言えばグリーバスさんは、どこか納得した表情を浮かべながら
「成程。コノ異世界ハ、料理工程ヲ見レルノハ、結納シタ相手ダケノナノダ。ダカラ、他人デモ、家族デモ、料理工程ハ見セナイノガ決マリナノダ」
という言葉に思わず平和組は驚愕する。だから、最初に渋っていたのかと同時に納得した。
「平和組ノ世界ハ、コノ習ワシガナイノダナ。成程」
グリーバスさんは寛大のようで、納得してくれた。
ワサビに似ている薄黄緑と緑のちょびっと辛い調味料とマヨネーズを分厚い何かの肉の上に垂らして出来逢ったもの。
これが、魔物の中では一般的に有名な料理だという。ただ焼いただけなのだが。これが、意外と美味しい。生臭さもなく、弾力もあるのに直ぐに口の中へ消えていく。ピリ辛いのも合わさって美味しさを引き立てていた。
「キオリハ、美味シソウニ食ベルカラ、作リ甲斐ガアル」
俺たちがグリーバスさんの名前を知っていても、グリーバスさんは、俺たちの名前を知らないので、いただきますをする前に、俺たちの名前を教えたら、かなり嬉しそうにニンマリとさせていた。よほど、嬉しかったのだろうと俺たちは心の中で留めておいた。
「そうですか?」
美味しそうな顔と言われてから、意識しつつ食べているのだが、習慣的な癖なのか、ふと我に返った時に美味しそうな顔をしている。スズカ曰く、一瞬で空気が和む。カズキ曰く、懐いてくれる野良猫のようだという。よく分からないが、そういう顔をしているのだろう。と勝手に自己解決しつつ2口目を食べる。うん、やっぱり美味しい。
昼食を食べ終えると同時に、
「グリーバス! 貴様、またアレを」
何となく聞こえた日本語で振り向くと、喋っているのは異世界語のようだ。何度訊いても良く分からない。最初らへん、日本語に聞こえたような気がしたが気のせいか?
グリーバスさんに逢いに来たのは、茶色の熊だ。
親しい中だろうなとか思いつつ、よく分かる異世界語の本を開いて読むことにする。言葉は分からないし、割り込んでも、突き飛ばれるのがオチのような気がするからな。
10分後
「平和組! 邪魔ヲシタナ!」
茶熊の男性は、そう言って去って行った。グリーバスさんさんは項垂れていた。
「グリーバスさん。大丈夫ですか?」
「ハハハ。家賃ノ滞納デ怒ラレタダケダ。オレハ、家賃ヲ払ッテクル。ソレマデハ、自由ニシテクレテ構ワナイゾ。胡蝶蘭ノ案内ハオレガシタイカラ、家ニハ出ナイデクレヨ」
グリーバスさんは、そう言ってから外へ出て行った。
「…………暇になったね」
「そうだな。まだ、尋ねたいこともあったんだが…………」
スズカの言葉に俺はそう同意しておく。
「ソフィさんとラーシュは何をしてるんだろう?」
「グリーバスさんアイコンタクトをしていたからね。この街の探索でもしているんじゃないの?」
「確かに。ま、俺たちは気長にグリーバスさんの帰りを待とうぜ。このよく分かる異世界語もマスターしたいからな」
俺がそう言えば、カズキとスズカは笑いながら
「確かに!」
笑顔でそう言った。
平和組がよく分かる異世界語を呼んでいる間、グリーバスは何をしていたのかというと…………
「はぁ…………まさか、家賃を半年以上も払われていなかったとは…………」
平和組で言っていた家賃を払いに行っていた。
茶熊こと、ツワマがグリーバスが住んでいる家の大家で、家賃滞納で散々怒られてしまった。支払っているつもりだったのだが、ツワマの所に来ていないとなると、どこかで停滞していたのだろうかとグリーバスは考えつつもツワマに半年分の家賃を支払って夕食の買い物も済ませてていると、平和組の連れであるドラゴンと獣人がいた。
「やあ、ドラゴンに獣人」
「おや、グリーバスさんだったかな? さっきぶりです」
「おう。2人は門番の2人からようやく解放されたのか?」
「ええ、まぁ。特にラーシュと同じ獣人の彼は、ラーシュをかなり気に入ったみたいで、ラーシュはそこに泊まることになったんだよな?」
ドラゴンの投げかけに獣人のラーシュと呼ばれる女人は
「まぁ。うん。そうだよ。随分積極的で、断れなかったよ」
と悩ませていた。
「ソフィさんはどうするの? キオリ達は、グリーバスさんが泊めるみたいだし」
そのままラーシュは、ドラゴンのソフィに質問をした。
「そうだね。どこか受け入れられる場所があればと思うよ。ここは、宿屋などないのだろう?」
「そうだぞ。魔物のドラゴンなら1人いるな。そこに案内しよう。彼女も了承するはずだ」
というわけで、グリーバスはソフィを連れてやってきたのは、グリーバスより3回り大きい家だ。
「カノン。いるか?」
「はいはい。おや、グリーバス。どうしたんだい?」
カノンは魔物の赤いドラゴンだ。首が長く大きい翼が特徴的だ。
「実は、彼を数日間の間泊めて欲しいのだが」
「君は?」
「俺はラーガルフリョゥツオルムル・トルムリン・ワーム。愛称はソフィだ」
「ラーガル…………ああ、あの伝説の」
カノンは少し納得したのち
「いいですよ。部屋は有り余ってますし」
「ありがとう。ああ、そうだグリーバスさん。平和組の滞在はどのくらいの予定で? 俺も合わせないといけないんで」
「東の街が少し霧が出ているからな。明後日には出発しても問題ないだろう」
グリーバスがそう言えば、ソフィは頷いた。
「では、キオリ君たちには、僕たちのいる場所は伝えてくれると嬉しいです」
「ああ。いいぞ。ではな。ソフィにカノン」
カノンに同意を得られたことで、グリーバスは自分の家へ帰宅した。
グリーバスさんが出て3時間経って、グリーバスさんは戻って来た。
「只今」
「おかえりなさい」
「ソフィトラーシュニ逢ッタゾ。ラーシュハ、門番ノ1人ニ気ニ入ラレ、ソコニ泊マルソウダ。ソフィハ、魔物ノドラゴンノ所ニ世話ニナル」
グリーバスさんの言葉にソフィさんとラーシュの居場所が分かり少しほっとする。
「東ノ街ニ行クノダロウ? 今、東ノ街ハ霧ガ濃クナッテイル。霧ガ晴レルノハ、明後日ダカラ、ソレマデハ此処ニ滞在シテクレ」
今日から明後日までの俺たちは胡蝶蘭へ一時期滞在することになった。
【ツキマ】
ツキノワグマのこと。
グリーバスさんが住んでいる家の大家さんで支払いに厳しい。
【カノン】
ガルグイユと呼ばれる英語でガーゴイルともいう詳しいことはウィキペディアで調べてくれ。