胡蝶蘭の訪問
今日も少し短いです。
3000文字って難しい!
夕食は、昼食に食べる予定だったサンドイッチのようなものだ。昼食を食べ忘れたというわけではないが、コーカス質が住む胡蝶蘭のこととかいろいろ訊いていたら、食べ損ねたのだ。おかげで腹の虫がぐうぐうと鳴り始めていてうるさいのなんの。
すっかり冷めきったサンドイッチのようなものは、冷めきっても味の品質を落とさずとても美味しい。暖かさは失っているものの、中はまだ暖かさが残っており、少し火傷してしまうぐらい美味しかった。
夕食も食べ終えて、今いる場所を地図を広げて確認した。
「今、いるのが、ここでいいのかな?」
とソフィさんが黒くて長い爪でコーカスに尋ねれば、彼は首を横に振ってから
「惜シイ。少シ左ダ」
と反応を示した。
「と、いうと、こっちかい? 地図には載っていないようだけど」
「小屋を建てられたのは200万年前だと訊いているけど、それが認知されたのは、つい最近なんだ。1年前ぐらいだな。だからその地図には、この小屋の存在がないんだ」
ソフィさんの言う通り、地図には小屋らしきものは見当たらないのだが、コーカスが小屋がまず周りに認知されていなかったのが原因でその前に造られた地図には載っていないのだという。
「地図の制作って誰が作っているんですか? 王国で見た地図は結構大雑把に書かれてましたけど」
俺は気になって尋ねるとコーカスは
「王国ニアルノハ、一番古イ。原初ニ造ラレタ、ト訊イテイル。ダガ、地図ハ誰ガ作ッタハ、ワタシハ分カラナイ。長[おさ]ナラ知ッテイルハズダ」
お手上げだという感じで、羽をバサバサさせてから、今日の寝床である奥の方に積まれてあった藁の上に乗り羽を再びバサバサしたのち、
「ワタシハ、眠ル」
そう宣言してそのまま首がどこにあるか分からいような姿勢で寝てしまった。
作戦もそこそこにして俺たちも眠ることにした。
翌日の早朝。コーカスの鳴き声で目を覚ました。
「スマナイ。発声練習ダ」
「は、はぁ…………」
それで納得しろという顔をしていたので、それ以上は言わなかった。
朝食は、北の街で購入したパン、チーズ、と若干まずい牛乳だ。なんというか、社会科見学で脱脂粉乳を飲んだことがあるが、あれと同じだ。美味しくない。
ちなみに牛乳瓶に粉末の粉の苺とか入れてストローで混ぜるというのも体験したのだが、よく混ぜていなかったせいかまずく感じた。
小屋を奇麗に掃除してから、靴を履き、外に出て、再び北北東へと目指すことに。
進むごとに足場は少し悪くなる一方でモンスターも容赦なく襲ってくる。
そして、数時間後。少し木々が生い茂っている場所が一ヶ所あった。
「アソコダ」
どうやら、あそこが胡蝶蘭というところらしい。
胡蝶蘭に辿り着いた俺たちは、外で見張りをしていたラーシュとは違う獣人がいた。
ラーシュは、手と足だけ人間の手で掌が肉球のように柔らかくそれ以外は狼特性が強いのが、こっちの獣人は、手も足も獣で二足歩行している感じだ。見張りは2人おり、1人が狼、もう1人は白熊のようだ。
「コーカス殿! ゴ無事デ!」
毛がふわふわしている白熊の1人が敬礼をして声を掛けたのち、視線をソフィさんへ向けその後、ラーシュ、平和組へと視線を向けたのち
「コチラノ方々ハ?」
と尋ねて来た。
「あ。えーっと、魔物のトカゲの人にぜひ、遊びに来てくれっといわれまして」
「トカゲ…………。グリーバスノ事カ?」
白熊は腕を組んで悩んだのち、そう言った。
「名前は、訊いてないんですけど、西の街方面にいたトカゲです」
申し訳ないという顔を浮かべつつそう言えば
「グリーバスダナ。成程。グリーバス。客人ガ来テイルゾ」
見張りの近くにあったらしい少し細い筒状に向かって白熊がそう言えば、西の街で見かけた魔物のトカゲが上からやってきた。
「! オオ! 平和組ト獣人ニドラゴン。ヨク来テクレタ」
元気そうなグリーバスさんに挨拶を交わすとグリーバスさんはソフィさんとアイコンタクトらしきものを取ったのち、こちらを見て
「デハ、オレガ案内シヨウ! 既ニ、ドラゴンカラ許可ハ得テイル」
さっきのアイコンタクトらしきものは、俺たちと別行動してもいいかというアイコンタクトだったのか…………などと思いつつ、白熊の見張りに名前を書くよう言われて、名前を書いたのち、グリーバスさんに連れられてその場を離れた。
胡蝶蘭の内部は木々で造られている。細い木の枝を何重にも重ねて作った感じで、それを細い糸で先端と両端に結んでいる。簾[すだれ]のような作りだ。
地面は整地されており、ランダムに並べられた石にその両隣には鉢植えに植えられた草花が均等に並んでいる。
しばらく歩いていると、ある一軒家に通された。どうやらここがグリーバスさんの家のようだ。
「少シ狭イガ、中ヘドウゾ。靴ハ脱イデクレヨ」
と言われたので、平和組は靴を脱いでから入口付近に靴を並べて、そこの座布団らしきものに座った。
「あの、グリーバスさん?」
「アア! ソウイエバ、名前ヲ教エテイナカッタナ! オレハ、グリーバス。ヨロシク!」
魔物のトカゲのグリーバスさんは腰に手を当てて得意気な顔をする。
「それにしても、前に逢った時より、発音が滑らかになりましたね」
スズカがそう言えば、グリーバスさんは、そうだろうと頷いたのち
「平和組ト別レテカラ、猛練習シタカラナ! エーット…………コレダコレ! 【ヨク分カル日本語】」
色、文字の色、フォントの色も全て同じのをどこかで見たことがあるような…………。
「これって、あたしたちが持っている【よく分かる異世界語】と同じじゃない?」
四次元麻袋に仕舞い込んであった【よく分かる異世界語】を取り出してみると確かに同じだ
「オオ! 小人ノ仕事ハ早イナ」
ん?
「すみません、この本を造った人を知っているんですか?」
「アア! 本ノ修復作業ヤ、此処ニアル本、ソシテ、今、手ニシテイル本ノ製作者ハ、小人ダゾ。大体平和組ノ腰下辺リの身長ダ。ワープト言ウ。特殊ナ魔術デ、本ヲ転送シタノダロウ」
グリーバスさんは不思議そうに首を傾げたのち何かを納得した。
「成程。突然、置カレテイタ事ニ驚イタノダロウ? 安心シロ。コレハ、役ニ立ツゾ。平和組ノ思考ハ、コウダ。突然現レテ、最初…………ト言ウヨリ3週間グライハ、怪シイカラ手ヲ出サナカッタケド、ツイ最近ニナッテ使イ始メテイルトカ?」
全くその通りである。
「ちなみに、なんですけど、小人はどこに住んでます?」
「ン? 確カ、東北東辺リダト思ウガ、トントン族ト一緒ニイルノハ、確カダ」
トントン族…………って確か
「ええと、確か時計を作っていた種族ですよね? なんで一緒に?」
カズキは尋ねるとグリーバスさんは、俺たちに果物を渡しながら
「詳シイ事ハ不明ダガ、君タチガ、コノ異世界ニ召喚サレル前日ニハ、既ニ一緒ダッタト噂デ訊イタ」
【脱脂粉乳】
粉末状にした牛乳のことで、現在だと1950年代半ばころから一般的な牛乳に変わっており、早いところでは1963年から遅いところで1970年代前半まで提供されている。現在では飲用に耐えうるものになっているが、当時は、かなりまずく、牛乳嫌いを発生させるほど。
【牛乳瓶に粉末の粉の苺とか入れてストローで混ぜる】
粉末状の苺、珈琲、バナナの3種類あり、それに付属する長いストローがあるのだが、それを混ぜないと粉末が口に残って非常にまずい。牛乳単品ならまだいいが、粉末状とストローがあると作者的に絶望的だった。2006年から、牛乳瓶からパックに変わってから救われた。
【グリーバス】
グリーンバジリスクというトカゲの種類の名前から取っているぞ。
グリーン色で瞳の色は黄色。グリーバスさんもそんな感じだぞ。詳しくはグーグル先生に調べてくれ。
【よく分かる日本語】
異世界版の日本語の教科書。製作者は小人。