彼とサトウ
「それでも、君は私を救おうとするのか? 私は君を憎み、恨み、呪い、妬み、嫌悪まで抱いた。そして……最終的には君を殺害しようとまでしていた。だというのに、君はどうして私を救える? ただの自己犠牲の為か? 己の良心の為か? 自己満足の為か?」
彼の言葉にキオリは、一瞬だけ答えを出すのに躊躇いを感じた。
キオリは、トウヤを自分の目の前で死亡してしまったのが切っ掛けでキオリ自身を犠牲にしてでも他人を救おうと東奔西走していた。
しかし、この世界に来てからその信念が崩れようとしていた。果たしてそれが正解なのかどうかキオリの中で大きな課題となっていたのだ。
両手を握りしめて顔を伏せるキオリを見た彼は肩を竦めた。
「私が発動させたあの空間で、何があったかは全く見当がつかない。こんなのは初めてだ。だが、君は私の姿を見たのだろう? その私に何を論され、何を納得させたのだ? 私に分かるように説明してくれ」
サトウが言ったように彼には、あの閉鎖的空間の内容は全く覚えていないというよりサトウと彼の記憶は共有されていないように見えた。
キオリは、サトウと話した内容を明かすべきかどうか悩むはめになった。