ある一種の考え
「で? そのオート博士の前世がサトウなのか?」
自分語りのように語ったサトウにキオリは、眉間に皺を寄せつつ尋ねた。
「いいや、オート博士は、私が自我意識がない時に殺しているから無理な話だ。話はそこじゃなく、私が語りたかったのは、そう言うことではないんだよ。オート博士は、周りからの評判も気にせずに自分の意思で研究を続けたということだ。当時の研究のリスクは、クローズ博士が公開処刑により斬首されたことにより、研究者全員に監視の目が付いているぞという暗示でもあった。しかし、オート博士はその真実に知っていながらも研究を続けた。初代魔王と初代平和組には何かしらの問題があると、初代魔王が現れたその時から、彼の興味はそっちに向かったのさ。それにオート博士が住んでいた場所は人里離れた山小屋。監視の目も行かない場所でもあったからある意味彼は、幸運と言えよう」
サトウは肩を竦めてから、右手の指で鳴らすと同時に大量の束が上空から落ちてきた。
「この世界に来た際に、最初に逢ったのがオート博士さ。彼の資料を分けてもらったよ。もちろん自我意識が無くて人間を憎んでいた存在でもあったからすぐにでも殺そうかと思ったけれど初代魔王と初代平和組について調べているということに興味をそそられ話を訊いて、殺した」
「無慈悲だな!? いや、俺の首を絞めて殺そうとした奴だからなぁ…………」
サトウが正気でいられるのは、サトウが魔界での禁忌魔術と呼ばれている内の一つである幻惑閉鎖空間である。これによってサトウの正気に戻ったのだがこれを解除すればサトウは再びキオリを殺すことになる。正気になる前のサトウは、キオリを憎みキオリを天涯孤独にさせることを目的として動いていた。