噂の出処
検問により引っ掛かっていたティアマトさんは、慌てながら俺を発見するやいなや足早に俺のところへ走って近づいてから
「ご、ごめんなさい。お待たせしたわ」
と若干息切れをしながらそう言ってから、マルティニエルさんを見て、
「え…………っと。それで、この子は、誰かしら?」
息が整えないままティアマトさんはそう言った後、深呼吸を繰り返した。
「ああ、貴方が魔族で洗脳系の固有能力を持つとされるティアマトですね? 初めまして。あたしは、ティル・タルンギレに住んでいるマルティニエルです」
マルティニエルさんは、そう言って俺に逢った時と同じようにスカートをたくし上げてから軽くお辞儀をした。
「育ちがいいのね」
息切れもようやく落ち着いたティアマトさんは、俺がマルティニエルさんと初めて逢った時と同じ感想を漏らした。
「いいえ、育ちの問題ではなく。ティル・タルンギレでは、女性の挨拶は、これで統一されているのです」
マルティニエルさんの淡々とした表情をしながらの答えに俺は内心驚きつつ
「そうなのか? てっきり育ちがいいとばかり思ったんだが」
と驚きを隠せない表情でそう言えば
「育ちがいいと思わせる作戦ですよ。ティル・タルンギレは農業の街ですから」
ふふんと少しドヤ顔気味にマルティニエルさんはそう言った。
中央広場から移動してマルティニエルさんが住む二十三階建てのマンションに赴いた。
マルティニエルさんの部屋はニ〇一号室のようで、広さは7LDK。トイレと風呂は別バルコニー付きである。
俺とティアマトさんは中央に位置するリビングに通された。
「それで、ティアマトさん。何用でこのティル・タルンギレに?」
お茶菓子を出しながらマルティニエルさんは尋ねた。
「ゴヴニュの饗応があるという噂を耳にして、それが事実かどうかの確認をしに来たのよ。マルティニエルは、ゴヴニュの饗応という果実なのだけれど、聞いたことがないかしら?」
真剣な表情でティアマトさんはマルティニエルさんに尋ねれば、マルティニエルさんは右手を顎に当ててから
「ゴヴニュの饗応ですか? 昔、廃止されたという。あの果実?」
マルティニエルさんは、しつこく尋ねてきたので、それだけ意外なことなのだろうと思っていたら
「ゴヴニュの饗応の噂なら、二ヶ月程前に黒色のローブを包んだ男が、売れない商人に売ったというのを聞いたことがあります」
と衝撃の真実を口にした。
「二ヶ月にその男を見かけたという天族は誰か知っているかしら?」
ティアマトさんの真剣な表情にマルティニエルさんは、驚愕しつつも
「そ、れなら、ここのマンションの三〇四号室に住む住民が知っているはずよ。目撃者だというのは確かなようだから」