ユグドラシル大樹の守護者
「な、なんなんだ!? なんだよッ! これは!?」
ユグドラシル大樹を中心に大きな黒い穴が空いていたそれは馬車を止めている場所まで広がった。だが、それは馬車やキオリ達を巻き込むわけでもなく、殺意むき出しでルシファーを付き落とした本人でもある男だけが何故かその穴に沼のように入った。暗くて底が視ない穴なのに、沼地のようであるとキオリは思った。男以外の人物は、その沼地のようなものには浸からず、透明の固いものが敷かれているのが、いくら足で強く叩いてもガンガンという強い音が帰ってくるだけである。
だから男はそう言った。
「君はユグドラシル大樹から見放されたんだ。必要のない人物として。ユグドラシル大樹は僕を管理者として認定して今まで僕を生かしてくれたんだ。まぁ、今はこんな成りだけれど。けれど、そんな僕を井戸に付き落としたのは、間違いなく君だ。目撃者は誰もいないだって? いるじゃないか。このユグドラシル大樹と動物たちが」
ルシファーはそう言って両手を広げれば、男は
「んなわけあるか!! お前が死ねば俺は俺は天族になるはずだったんだぞ!!! そんな言い訳通用できるか!!」
男は大声でルシファーに向けて叫びながらそう言うと同時に男は驚愕した顔を浮かべた。
「な、なんだ!? なんだよ!? 足首に手の感触がっ……!!」
男はそれを払うように身動きが激しくなるが、より沼に深くなっていくだけで、男がそれに気が付いた時には既に首まで浸かっていた時だった。
「!! おい! 助けろよ!! 管理者なんだろ!!」
それは、あまりにも無責任な言い訳だった。ルシファーを井戸から突き落とした本人が助けをこうなんていったい誰が想像できたのだろうか。
≪非常な人間よ。我が認めた管理者に対してそんな愚弄を吐くのか。情けない。一度入ったら二度と抜けぬ沼地へようこそ。そしてさようなら人間よ≫
脳内に響き渡る声は重なっているかのように響き渡った。
「ッチ」
キオリは、人を目の前に死ぬということに対して恐怖していた。それは、キオリが喧嘩別れになってしまったトウヤを見殺しにしてしまった過去があったからである。
トールとルシファーは、まるで当然だというように受け入れているのに、納得しなかったキオリは、懐から取り出した小型ナイフを無理矢理、右手に突き刺した。
ドシュッ
効果音で表せばこんなのだろうかとキオリは思った。だが、これでその男を助けることが出来る。