ルシファー
モンスターにユグドラシル大樹まで行きたいと言えば、そこまで案内すると言われて頭を前に行くように促した。
「なんかよく分からんが、案内してくれるみたいだから、ついて行こうぜ」
俺がそう言えばトールは納得していない微妙な顔をしつつ頷いて馬車を動かした。
モンスターの先導のもと馬車に揺られて約3時間。ようやくユグドラシル大樹に辿り着いた。モンスターはユグドラシル大樹から半径百mの手まで立ち止まって見送っていた。俺とトールは、馬車をユグドラシル大樹の近くに止めて降りた後、勝手に何処かへ行かないように、名残であった鉄柱に垣根結びをして外れないかを確認してから馬車の荷台から大容量で三ℓぐらい入る容器を持ってきた三つ分全部降ろして近くにある井戸まで向かった。
ユグドラシル大樹は、ヘルヘイムとティル・ナ・ノーグの取り決めでユグドラシル大樹にある水を持っていけるのは五ヶ月に一回だけ三ℓ分のみというのが決まっている。野生動物が住んでいるからというのが一番な理由らしい。
井戸があるのは、稀に動物が落ちていることがあるので、近くに管理人がいない場合は、井戸へ向かうことが決められている。と言っても、トールはユグドラシル大樹に三回ほど訪れているのだが、ユグドラシル大樹の管理人逢ったことが今まで一度もなかった。
井戸に辿り着き、三ℓ入る容器を地面に置いたのち、まずは桶を引き上げるため縄を引っ張る。その理由として中に野生動物が入っていないかの確認をするためである。過去に桶の中で小さな野生動物が死んでいるのを発見して以来、確認する作業を行っている。
「ん? 以外に重いな……キオリ。悪いが手伝ってくれ」
「あ、ああ」
本来なら1人でも軽く持ち上げられる桶なのだが、今日だけは何故かやたらと重かったらしくトールは顔をしかめながらキオリを呼んで手伝うように指示を出した。
キオリは、トールの横に並んでトールが持っている縄より下の方を力強く持って思いっ切り掛け声を合わせながら引っ張り出した。
「いやぁ! 出られなくて助かったよ」
そこにいたのはお尻がすっぽりと桶にはまった服を着た成人男性の全身骨で構成された。
いわゆる骸骨である。
「骨がッ!?」
「あ!? トール! いきなりを外すなよ!!」
「あ」
再び引き上げてから桶と骸骨の男を引っ張り出してスポンと良い音が鳴ったところで、
「いやー。どうも助かりました。わたしは、このユグドラシル大樹の管理を任されていますルシファーと申します」
「ルシファーって、ティル・ナ・ノーグでは最高上位天使の第一位じゃなかったか?」
「そのルシファーです。いやぁ、実は十五万年前にユグドラシル大樹でいつも通り小動物が落ちていないか確認したらそのまま落ちてしまってそこで、朽ち果てたと言いますか。あ、どうやって喋っているのかといいますとね。練習したら喋れたんですよ。すごいですよね」
悲壮感を漂わせてぶっ壊すタイプのルシファーである。
ルシファーは、そんな俺たちの反応を気にせずに明るく振舞いながら周りをみて
「ユグドラシル大樹に変化はないようですね。加護も十分に働いています。ただ野生動物が減っているのが気になりますが、これは、わたしの努力不足ですね」
と言った後、残念そうに肩を竦めた。
加護というのは、ユグドラシル大樹にモンスターが近づかないようにするための防護壁を果たす役割のことで、それがあるとユグドラシル大樹から半径百m以内からモンスターは近づけないようになっている。透明の防護壁なので魔族や天族は無害であると野生動物が認知しなければユグドラシル大樹すらたどり着けないのである。過去にそう言った事例が幾つかあるというのを俺とトールはアスモデウスから出かける前にそう言われていた。
他にもいろいろとあるのだが、詳細は後ほど。
「野生動物の数も覚えているのか? 管理者って結構大変なんだな……」
トールは関心するようにそう言ってから立ち上がり、サンダーとサンダー二世の餌をやる時間だとか俺に言った後、その場から離れた。
「ところで、お名前伺っても?」
ルシファーさんに言われてから俺はハッとした。ここに来てから一度も名乗っていなかったからうっかりしていた。
「あ、すみません。俺は、キオリっていいます。で向こうに行ったのがトールです」
俺は頭を一度下げてから自己紹介をした
「ん? キオリ? キオリってあの救える者の?」
「え? あ、はい。と言っても精神だけです。この身体はヘルモーズの身体でして」
「精神………ふむ。なるほど」
ルシファーさんは、俺を観察するようにじっくりみたあとそう呟くようにそう言った。
ユグドラシル大樹の管理者であるルシファーの話をしよう。
彼は、ティル・ナ・ノーグでは有名な天族であり、天族からも魔族からも知名度が非常に高い偶像的存在であったのだが、ティル・ナ・ノーグの天罰に記されている禁忌魔術を使用したことによってティル・ナ・ノーグを二度と跨ぐことは出来なくなったのだ。
しかし、ルシファーの魔力量は他の天族と比べれば雲泥の差が生じるほど莫大であった。当時魔王を務めていたセクメトは、ヘルヘイムで長年放置されていたユグドラシル大樹の管理を任せたいという要望を出した。
天族や魔族など多種多様に行き来することが多く、いたずらによりユグドラシル大樹が傷つくことを知っていた為、天族はそれに同意して以来、ルシファーがユグドラシル大樹の管理者となっているのだ。
「
【ルシファー】
最高上位天使の第一位、熾天使に君臨している天族。