魔力測定の前に
復帰祝い早々に連れてこられた場所は、魔王城内にある魔術研究所で場所は、ティアマトさんとアラルさんが会議していた場所の10m下にある。
魔術研究所は、最初の頃は物置部屋として使われいたのだが、1万年前に魔力制御を見誤って死ぬところだった魔族がいるらしく、それに伴って魔力を図るために測定器が作られることになりそれに合わせて魔術研究所も現れたのである。
「いや~~! ようこそ! ようこそ! 魔術研究所へ!」
とティアマトさんに連れられて魔術研究所の部屋に入り込むなりそう言って来た人物は伊達メガネを着用し目の下には隈をこしらえており、ここ何日か部屋に立てこもっていたのか、髪も髭も伸び放題の男性がいた。
「フハハハハッ! 我が研究所ですぞぉ!? すごいだろぉう!?」
徹夜明けなのかやたらテンションが高い、男性は高笑いしながら両手を広げてくるくると回っていた。
「コシャル・ハシス。何徹目のかしら?」
「一週間超えたあたりから数えてないよ」
ティアマトさんは大きな溜息をついてから、彼の名前を呼んで徹夜した回数を尋ねればコシャル・ハシスと呼ばれた男性は急に真顔になりそう答えた。
「睡眠時間を十分に取りなさい。日を改めて又来るわ」
ティアマトさんは呆れるような顔をしながら右手人差し指をコシャル・ハシスさんに向けてビシッと言えば
「そ、そんな!? そんな命令口調で僕に命令するなんてッ! 寝ます!!」
なぜか急に恍惚そうな顔を浮かべながら奥に部屋でもあったのかそこに入っていった。
「コシャル・ハシスは、わたしに対してマゾヒストなのよ。……それにしても1週間以上過ぎているならしばらく起きないわね」
魔術研究所のドアを閉めてからティアマトさんは俺にそう説明してから、しばらく悩みつつ
「そうだわ。流石に今週は難しいから来週あたりにヘルヘイムにあるユグドラシル大樹があるのだけれど、そこの水を汲んできてくれないかしら? 外の外出はティル・ナ・ノーグ以来だから久しぶりでしょう?」
と言って来た。確かに魔王城に戻ってから魔王城内では歩いていた李するが遠出はティル・ナ・ノーグ以来外出を控えていた。
「1人での外出はしないでね。キオリが気絶しているときに首のあざを見た時は驚愕したわ。首を隠す服をくれるように要求したのは、そのことだったのね」
俺が5日間も飲まず食わずで気絶していた際に、服を着替えさせたトールから最高上位幹部とトールとティアマトだけにしか知れ渡っていなかった。現魔王であるアフラ・マズダーさんが、トールと最高上位幹部とティアマトさんを招集させて、俺が話した内部の者がいるかも知れないということを教えたのだ。何かあった時の為にという念押しがある。
そして俺はその3組に外族から救世主と呼ばれていることを明かした。
明かす理由には、幾つかあるのだが単純的に言えば
「救える者も救世主も、どちらも意味は同じだ。ただ言い方が違うだけだ。俺自身は大それたことを魔界に来てから何もしていない。大きな山場を2回しか潜り抜けていない。過去に魔族を救った人物と同等であるから救える者。過去に外族を守ったことがあるから救世主。どれもこれも、過去に縋ってばっかじゃないのかよ。今まで何もなかったところに、俺が出てみろ。そしたら羨望の人達の中で一人や二人…………もしかしたら、大勢いるかもしれない。そうじゃない奴がいたはずだ。そいつは、俺を殺そうとする意志がある、その覚悟もある。だから俺の首を絞めに掛かった。その他にリグレット洞窟やメル・マグ管理図書の件もあると思うが…………。そんな奴が俺を殺す覚悟があるってのに、魔族や天族、外族が不仲でどうするよ」
俺を殺そうとした奴の怒りの矛先が、俺という存在を憎んでいる。いきなり現れた人物が救える者とか救世主とか言われてみろ。妬まれても仕方がないと思う。
そんな奴が俺を殺す覚悟があるというのに、未だに天族や魔族は比較的に同盟を結んでいるのにもかかわらず、外族は外見上で怖れられているというのもあるが不仲なのかというのが疑問に残ったわけだ。
「まぁ、あくまでそれは、俺の個人的な意見だ。今更自分の意見を変えるのは難しいからな」
その部分にティアマトさん達は安堵の表情を見せた。
ほんのちょっぴり願望を言えば、出来れば外族と歩み寄って欲しいなとは思うが、先ほど言った話と矛盾してしまう可能性も否定できないので俺の心の中で留めておこう。
それから数日経ってから最高上位幹部であるエリゴスさんが部屋に訪れて
「突然の訪問に済まない。我々、最高上位幹部の意見を君に訊かせようと思ってね。話を訊いてくれるかい?」
と俺に爽やかな笑顔を見せつけながら尋ねてきた。
断る理由もないし暇を持て余していたこともあり俺は、エリゴスさんを部屋に招き入れて椅子に座るように促せば、軽くお辞儀をして座った。
お茶を出そうと思ったのだがそこは、断られた。
「君の意見を訊いたその日の夜に我々は話し合いをし、その中でも多数決で決めたのが、外族の動きを傍観するというものだ。我々を含めた魔族や天族は、外族に対して恐怖していた。外見の話ではなく、噂もあるからだ。噂の内容は外族に暴力を振るわれるなど言った内容が殆どだ。我々はそれを確かめもせずに信じてしまった。それには、絶対に裏があるはずだと我々は確信している。だが、動くことは出来ない。一度信じてしまった噂やそれに関する記憶を忘れるということは難しいからだ。他の上位幹部も同じ意見であった。だから傍観することにしたのだ。そしてすまない。外族に関する問題に我々は行動を共にすることは難しと頭の隅にでも思っていてくれ」
最高上位幹部の代表としてエリゴスさんは、最後にそう言って頭を深く、約三十秒ほど下げた後、申し訳なさそうな表情を浮かべてから
「すまない。期待を裏切るようなことをしてしまって」
と独り言のようにそう呟いた後、明るい表情に変えてから
「では、また会おう」
そう言って部屋から去っていた。その時の背中は少し寂しそうな感じがした。
それから数時間後ぐらいにトールが訪れた。
「キオリ。今、大丈夫か?」
エリゴスさんが気難しい顔だったのに対して、トールはどこか晴れやかであった。対照的である。
呆気にとられながらも俺は頷けば、トールは部屋に入った。
「俺の意見は、キオリに何かあったら手伝うことにするということだ。ただ外族に関することだけは難しいと考えてくれ。どうもイメージが強すぎるんだ」
イメージというとエリゴスさんが話した噂に関することだろうかと思っていると
「俺は一度だけ外族に逢っている。その時に発狂をしていてそれが拭えないんだ。あれは俺にとって悪夢のようなものなんだ。それ以外なら手伝えるとだけ頭に入れてくれ」
「いや、無理をしなくていいぞ。トール。トラウマを植え付けたいわけじゃないからな」
俺はサディストでもなんでもないからな。マゾヒストでもないぞ。
俺の言葉にトールは安堵の表情を見せたもののすぐに表情を元に戻してから
「ありがとうな。キオリ」
そう言って子供のように俺の頭を優しく撫でた後、じゃあまたなと笑顔で部屋を出て行った。
昼食を食べ終えて日課になりつつある食後の運動を行っているとティアマトさんがやってきた。
「こんにちは。キオリくん。食後の運動かしら?」
「こんにちは。ティアマトさん。体力作りをしておかないと、次に倒れてもいいようにな」
その次があるのかは知らないがな……と心の中で嘲笑いながら
「それで、ティアマトさん。俺に何か用か?」
「そのことなのだけれど、体力作りが終わってからでいいわ。そうね……私の部屋まで来てくれる?」
俺が了承する前にティアマトさんを呼ぶ女性の声に返事をした後、軽く手を振ってその場を後にした。
それから二時間経って俺はティアマトさんの部屋の前で軽くノックをすれば、返事をされてそのまま扉を開けた。
「いらっしゃい。キオリくん。どうぞ、自由に座って」
笑顔で出迎えてくれたティアマトさんに挨拶を交わしてから扉を閉めてから近くにあるロッキングチェアに腰を下ろした。
ティアマトさんは、深呼吸を数回ほど繰り返してから
「キオリの個人的な意見を訊いてから、凄く悩んでいたの。外族の恐怖もあるし、メル・マグ管理図書の関係で、私は外族に関して発狂をしているとキオリくんは話してくれたでしょう? その発狂した記憶を消して、守ろうとしていたことを思い出してそれで思ったの。私個人としての意見は、外族に関しては恐怖の対象でしかないのだけれど、助けてくれた恩義もあるから歩み寄ってみようかなって思ったの。トールや最高上位幹部たちもあなたに意見を話したと訊いて、今の気持ちをいてもたってもいられなくて。ありがとう。キオリくん」
【コシャル・ハシス】
夢中になると徹夜をも辞さない男性。ティアマトは虐めてくれる女神様として崇めている。
ティアマトのみマゾヒストになるが、それ以外の罵りは基本的に無視している。
【外族の噂】
魔族では、外族に関する噂が数多くあり、その中でも食べる関係が多く、魔族や天族でもそれに対処することは難しいとされている為、恐れられている。
真実かどうかは今のところ不明。
【最高上位幹部とトールとティアマトの共通点】
外族の噂があるので、それに対する恐怖対象ではあるけど、キオリがやることは全力で支援する。