アフラ・マズダー
前回のあらすじ
キオリは謎の人物と邂逅した。
気づいたら100話を越えていました。
シャプシュは、何故か俺の周りを回転しながら一緒に歩いていた。頼むから普通に歩いてくれと懇願はしたのだが、
「そんな、お隣に歩くなんて恐れ多いです」
と言って断ってきたので
「俺としては、俺の周りをまわらないで歩いて貰いたいのだが…………」
演技のつもりで悲しい表情を浮かばせつつそういえば、シャプシュは、うっ!? とは言ったものの
「いいえ! 譲れません! 譲れません!」
意志が固いシャプシュに、俺は落胆しつつ諦めた状態が今である。
で、そんなシャプシュと俺が向かう場所は、魔王城の最上階にある現魔王を務めているアフラ・マズダーである。魔族では知らない人物はいないというほど有名な人物で、一部では外族を生み出した人物とまで言われているのだが、これに関してはシャプシュが否定していた。
「マズダーはそういうことはしないと思いますよ?」
小さく、知りませんけどと言っているのが聞こえたんだが、それを無視しつつ
「で? なんでその人が、俺とシャプシュを呼ぶんだ?」
「あたしが設立した宗教に関することじゃないですか?」
2度めの小さく、知らないけど。
「推測で話してないか?」
「……………………」
俺がジト目でいつまでも回るシャプシュを見れば、シャプシュは黙ってニッコリ笑顔を俺に向けるだけであった。
約4000年ぶりの魔王がいる謁見の間だ。始めてきた時は、まだ明るい雰囲気を纏っていたのだが、それとは打って変わって銀色の大きい燭台に青い炎が幾つも存在しており、青紫色の絨毯、黒いカーテンと、暗い雰囲気に一変していた。
アトゥムさんだった時は、穏やかな雰囲気だったと印象にあるが、あの頃と比べると雲泥の差である。あの頃が懐かしい。
あ、そうそう。ついでに4000年も月日がたったわけだが、この魔界は年を取ると言う概念が全く存在しないのだ。異世界に呼ばれた時に王様が言っていた。
『何故2000年に一度の召喚なのに、14万年ぶりかというと、魔王の子供が誕生したのが丁度14万年前だからだ。魔王の成長が長寿と言われるエルフでも周期が違うほどゆっくりなのだ。1万年で丁度、俺たちの世界の年齢で20歳のようだ。この世界の魔王の年齢は1万年で17歳だと加えて教えてくれた』
上記のこれは、大いに予想を外していたということである。俺は、これで納得してたってのに。
閑話休題。
話は戻ってアフラ・マズダーさんの恰好は、黒っぽい衣装と黒いマントと背広が黒よりの赤という黒色を好んで来ているという印象があった。
「シャプシュとキオリが来ました。アフラ・マズダー様。私たちに何の御用がありますでしょうか?」
謁見の間に入るまでは俺の周りを回りながら歩いていたシャプシュだったが、謁見の間の扉が開くと同時に俺の左隣の位置にピタッと止まり、左脚を曲げ右足を浮かせ顔を床に伏せるようにしたので俺もそうすれば、小声で
「キオリ様。反対です。女性は右足なのですが男性は左足を上げなければなりません」
と教えてくれたので、そのようにする。魔界ではそういう礼儀があると言うことを少し学んだ。ヘルモーズだったころは謁見の間に行く事すらなかったからな。
「顔を上げるがいい」
アフラ・マズダーさんの声は、どちらかと言うと女性よりの声であった。中性的な声音なのかと納得しつつ顔を上げた。
改めてアフラ・マズダーさんの顔を観察する。漆黒の黒い髪、赤紫色の瞳。そして黒よりの青の口紅をしていた。ティアマトさんや最高上位幹部たちとは違う出で立ちであった。アフラ・マズダーさんは、咳払いを何回すれば、アフラ・マズダーさんの側近らしい魔族たちはアフラ・マズダーさんに敬礼をしたのち部屋を出て行った。
「その姿勢では、疲れるだろう。そこに使わない未使用の椅子がある。それに座ってくれ」
俺は立ち上がり椅子に座るが、シャプシュは頭を下げたまま動いていない。
「やはり、貴様。時間停止の中だというのに、動けるようだな」
アフラ・マズダーさんの目つきが鋭くなり思わず喉を鳴らすように唾を飲んだ。
アフラ・マズダーさんは、俺を睨み付けるような視線のまま俺の体内時間内で数十分にも及んだように思った。
「まぁいい。君と私の2人だけの会話がしたかったからな」
そう言ってから足を組むようにしてから、俺にこう尋ねた。
「リグレット洞窟やメル・マグ管理図書の地下空洞の件で、知らせたいことがあったのでな」
「!? 覚えているのか!?」
「? 覚えているのか。というのはどういうことだ?」
俺はアフラ・マズダーさんに、メル・マグ管理図書の地下空洞で起きたことを全て話せば、アフラ・マズダーさんは神妙な顔をしつつ
「メル・マグ管理図書の地下空洞。そのものの存在の消滅? もしかしたら…………」
と何かと呟いたあと
「君に話さなければならないことがある」
と真剣な表情で俺を見た。
アフラ・マズダーさんは、一度深呼吸を整えてから俺を見据えた。
「この魔王城内に裏切り者がいる」
たった一言だったが、それだけで俺は、恐怖を感じた。
魔王城内に裏切り者がいる。それは俺の首を絞めて殺そうとした人物がいるということからだ。異世界に勇者候補として召喚という形で転移したのだが、今まで自分が死ぬ場面は、西の街で、人間より二回りほど、大きい巨大な貝に食べられて以来だ。ただしそれはあくまでモンスターであり、人から殺されることは決してなかったからだ。
「おい。大丈夫か? 身体が震えているが」
アフラ・マズダーさんは、俺に近づいてから優しく肩に右手を添えるようにしてから俺の顔を除きこむようにして、そう言った。
俺は、息を深く吸い込んだ。
息をするのを忘れるぐらい恐怖していたのだ。その一言だけで、俺は恐怖しているのだ。
「だ、いじょうぶ、です」
声が震えていた。それは俺自身でも嫌に分かった。
「何があった? ここに来る前か? それとも前日か?」
その声音だけで、俺に何が遭ったのかを察知したようで、アフラ・マズダーさんは、慎重に地雷を踏み抜かないように尋ねてきた。
俺は、このことを話していいか一瞬だけ迷ったが、アフラ・マズダーさんにならと思い、それを口に出した。
俺の話を訊いて、アフラ・マズダーさんは、右手で顔を覆い隠すようにしてから
「なんてことだ…………。それで、君は、普段はしない首を隠す服を着ているのだな?」
俺の着ている服装に納得していた。
相変わらず、服を買うことは出来ない俺は、ティアマトさんが趣味で集めている少女趣味全開のフリフリが付いている女性用の服を着用しているのだが、首を絞められたその日の夜に何気なく鏡を見たら首に絞められたような痣があった為、それを隠さなければいけなくなり首が隠れる服を着ていた。
しかし、普段から着用しないので、物珍しさで見る人物も多かったのだが、特に不審がることもなく、そのまま見過ごしてくれたので安堵したし、隣で動いていないシャプシュさんも首を傾げてはいたが、追及はしなかった。アフラ・マズダーさんもその1人であったのだが、今は御覧の通りだ。
「ど、どうして、この魔王城の中に裏切り者がいると分かったんですか?」
まだ声は震えてはいたが、俺は裏切り者がいた理由をアフラ・マズダーさんに尋ねた。
アフラ・マズダーさんは、俺のその言葉に、一瞬だけ、躊躇したのだが、意を決して
「君には言っていなかったが、2000年前から魔王城に不穏な気配が漂うになった。嫉妬でも嫌悪でもないどす黒い波だ。それに触れるとありとあらゆるの負の感情が溢れ出てくる。最高上位幹部さえ知らないゾロアスターに所属する我々だからこそ感じるものが魔王城内から出ていたのだ。我々は、我が固有能力である時間停止の中を動けるであろうと予測して君を連れてきたのだ。
そして、切に願う。裏切り者を探してくれ」
【アフラ・マズダー】
新たな魔王の1人で外族を造ったのではないかと魔族からは思われているが真偽は不明。
【ゾロアスター】
アフラ・マズダーがいる所属のことで、分かりやすくいうと学校内にある部活動の内の1つ。国防省にある組織の1つと考えていい。