天族による外族の宗教者
前回のあらすじ
キオリの信者には外族の信者でもあった。
信仰会は、特定の場所は決まっていないが、月に1回で開かれているらしい。と設立者であるシャプシュは、俺に向かって崇める動作をしつつも
「念の為に言っておきますが、キオリ様。信仰会は、キオリ様を崇める為だけの場です。偶然にもキオリ様を信仰している者全員が外族を信仰していらっしゃいましたけど、これは、奇跡的なことなのです。ですから信仰会でくる天族全員が外族の信者ではないのを頭の隅にでも追いやってもいいので覚えておいてください」
と申し訳なさそうな表情でそう言った。
俺はそこで、はっとした。確かに、今までは順調に入っているが、これは偶然が偶然を呼んだに過ぎない。信仰会にくる天族の中に外族の信者がいるとは限らないのだ。
言われなければその考えに行きつくことは無かった。だが、俺はあることに気づいた。
「天族は宗教関係に厳しくはないのか?」
その疑問にシャプシュは、首を横に振ってから
「いいえ、そこに関しては問題はありません。ティル・ナ・ノーグ周辺では、宗教を好き勝手に設立したりしていますし、それに関与することはありません。外で口外したりしなければいいだけの話ですから」
その言葉に俺は腕を組んでから
「その宗教の名前だけで外族との繋がりが分かりづらくしている可能性はあるか?」
周囲の様子を伺うようにしつつそう言えば、周りは騒めきだした。
「確かに、その発想はなかったな」
「しかし、表向きがそれだとしても実際に調べてみない限りでは…………」
「では、調べてみますか?」
「それで天族に外族の信者が分かるはずだ」
などと聞こえる範囲内で、どうやら天族にある宗教を調べるのがどうのこうのと言っているんだが、あ。挙手した。
「キオリ様失礼しました。我々はキオリ様の思い付きである名前だけ偽っている可能性があるものを調べようかと思いまして、どうか時間を下さいませんか?」
真面目な顔つきで男性はそう言うので、俺は頷いた。
「だが、あんまり無理はするなよ」
心配なので、彼の手を握りながらそう言えば彼は、
「き、キオリ様が私めの手を…………はわわ」
男が言うと以外と気持ち悪いワードだよな、はわわ。
それを見た信者たちは、次は私がと名乗り出てきたので、俺は苦笑しながら
「順番に並んでくれたら握手ぐらいは普通にするぞ」
と言えば、一瞬で並んだ。どんだけ俺と握手したいんだよ…………。と俺は遠い目になりながらそう思ったのであった。
「キオリは信者とか素直に受け入れるタイプなのか?」
信者たちは俺に握手に神よとか崇めながら解散になったらしくあのグラマー魔族の部屋から出て行ったので、全員分の握手を終えた俺は、グラマー魔族さんに長いこと居座ったことを謝罪してから部屋を出て廊下をぶらぶらと歩いていると、トウヤ…………じゃなかった。トールは少し呆れた顔をしながら俺に話しかけてきた。
ここ最近トールも戦闘部隊に参加することになったらしく話すことは激減していたのだが、トールは相変わらず元気そうだと俺は心の中で思いつつ
「まぁ、好き勝手にはいるな。逆に受け入れないと生活圏内入ってきそうだったからな、ほどよく受け入れている」
「それで、さっきのか…………」
トールはそう言って遠い目をする。
「さっき? 信者の1人に握手をしたら他の信者が握手したいっていうから握手したんだが………それと関係があるのか?」
俺は首を傾げながらそう言えば、トールは
「それだ。それ。その手を見つめながら、保存してしまいたいといっていたぐらいだ」
「そ、そうなのか…………」
流石にそれは引くのだが…………。
それからトールと何気ない会話を繰り広げ、トールが別の戦闘部隊の人に呼ばれるまでの10分間、楽しく語り合った。
「魔族では、こういうのを造らないのかい?」
「ええ。まぁ…………。人間の想像通りにならないとすぐに苦情が来ますから…………」
「それは大変だね。手続きは終わったよ。宗教を見て回るのもいい気分転換になるだろうからね。楽しんでおいで」
「はい!」
メル・マグの門を通り抜ければ、淡い色を外壁とした爽やかな街並。
こんにちは、シャプシュです。キオリ様の信者第1号にして信仰会の設立者でもあります。
キオリ様の疑問を解決するべく、このシャプシュが天族で表側で認識されている宗教で外族に関する手がかりを探す役割です。わたしの他に信者の代表者20名と共に宗教を調べることとなりました。
「では、先ほど伝えた通り、今回の任務は天族が造った宗教を探します。いいですね?」
「はい!」
20名の魔族は元気よく返事をした。
「では夕方に宿屋で解散」
「了解!」
シャプシュがそう言えば、20名は全員散らばったのを見てシャプシュがも気合を入れて事前に調べた13件の宗教を全て探すことにしたのだ。
「最後はここね! 失礼しまーす」
13件中12件は文字通りの宗教だったのだが、最後の香料会に足を踏み入れるとその中は薄暗く、黒いカーテンのようなもので窓を遮断していた。
「ま、禍々しいわね…………」
シャプシュは、あまりにも静かすぎる場所に思わず、小声でそういう感想をもらしつつ突き当りの廊下の右手にこげ茶色の扉に貼り付けるように白いテープで何かが書いてあった。
「これは…………外族に関する文章だわ」
魔族と天族は同じ文字を書くのに対して、外族だけは異なる言語と文章を書くことが多いのだが救世主だけはそれらを読み解くことが出来ると言われている。
もしかするとここが外族の宗教かとシャプシュは、思い気合を入れてドアノブに手をかけて扉を開けた。
独特な曲、黒いローブを羽織った21人前後の男女。中には子供が数名ほどいるが、大人しく両親の真似をしている。そして中央には魔界でも見たことがない術式。その中心に誰かの写真が置かれていた。
シャプシュは覗きこむとそこにはキオリの隠し撮りだと思われる写真が映ってあった。
「! 待ちなさい! キオリ様は外族の救世主よ。彼に何かをしたら!!」
シャプシュは思わず声を上げると、全員がシャプシュを見た。
アプロディーテの部屋を後にする前にキオリは、外族から救世主であると言われたことを話していたのを思い出して思わず大声を上げたシャプシュなのだが、それを訊いていた1人の男性が、立ち上がりシャプシュを見てから
「それは、本当の事か?」
「ええ。キオリ様本人が、ニャルラトホテプ様、クトゥルフ様、ヨグ=ソトース様、ティンダロス様と出会っています」
鋭い目つきでシャプシュを見る男に少し怯みそうになったシャプシュだが、それを悟らせないようにシャプシュは真面目な顔つきでそう答えれば、その場にいた人物が騒ぎ出した。
「……偽りはなさそうだ。失礼。君は魔族の者か? 名を何という?」
「シャプシュですわ。あなたは?」
「アルスヤラルユルだ。愛称はアルスだ。好きに呼んでくれ」
シャプシュは、探索に出ていた20名を呼ぶと言えば、アルスヤラルユルはその下に通じる階段にある100人は入れそうな広場で話そうと提案した。
その広場も薄暗い雰囲気を漂わせて入るが、あの場所に比べたらまだ明るい方だなとシャプシュは思った。シャプシュの連れがその部屋に入ったところでアルスヤラルユルは、シャプシュに尋ねることにした。
「しかし、魔族にも外族の宗教者がいると訊いたが、その程度なのか?」
その言葉にシャプシュは否定した。
「いいえ。選抜して20名よ。魔族の約半数が外族の信者でもありキオリ様の信者でもあるのよ」
【表向きの宗教】
ティル・ナ・ノーグでは、外族に関する口外を禁止されており、それに関する宗教を設立するのも禁じているところもある。メル・マグはそれらを禁止している為、表向き宗教をする必要がある。
【香料会】
表向きの名前で香料に関する普及活動としているが実態は外族の召喚をしたりしている集団。
キオリを魔術陣の中心に置いた理由は危険人物であると判断されたため
【アルスヤラルユル】
男性の天族で香料会の設立者。目つきが鋭く怯えられていることが度々あるが根はやさしい人物。
名前が長いので愛称でアルスと呼ばれている。
【アプロディーテ】
グラマーな魔族の女性の名前。キオリを部屋に呼んだのは、この人である。