外族
前回あらすじ
メル・マグ管理図書の地下空洞なんて存在しないぞっと言われる
アキベエルさんに、管理図書の地下空洞がないと言われた時に思わず
「は?」
と俺でも驚くぐらい普段では考えられない怒りの声が一言で出た。
そのことで、アキベエルさんは少しだけ顔を青ざめてしまったのだが、直ぐに呆れた表情を浮かべた。
「昨日も言ったと思うけど、ここに地下空洞なんてものは存在しないよ。同じようなことを繰り返すようだけど、疲れが溜まっていて幻覚でも見ているんじゃないのか?」
昨日も何もそんなことは一度も言ってはいない。昨日はここから地下空洞に向かって行ったじゃないか。
そう口に出そうとしたが、言っている事が矛盾している以上、暖簾に腕押しでしかならないと考えた俺はアキベエルさんに謝罪した後、その場から離れる前にアキベエルさんは俺に声を掛けた。
俺を呼び止めたアキベエルさんは、俺に着いて来るように言われて、そのまま着いて行くと、管理図書の2階に上がって突き当りに本を読むテーブルと椅子が幾つかあったのだが、特に使われていないのであろう埃が被った机の上に本が2,3冊ぐらい積まれていた状態で置かれていたのだがそれを俺に渡してきた。
「なんですか? これは?」
俺はそれを受け取りながらアキベエルさんに尋ねると、何故か腕を組んでから首を傾げはじめた。
「………………? そういえば何でだ? この本をキオリに渡した方がいいと何故思ったんだ? しかも、この本をだなんて…………」
などとぶつぶつと呟いたのち意を決したらしいアキベエルさんは俺を見てから
「すまん。これはだな、魔族や天族などのあらゆる種族がいる中でもっとも恐れられている種族に書かれている本なんだ。誰がどういう目的でこの本を作成したのかは、不明だが、俺たちはこの種族に逢うと死に至るとまで言わされている種族だ。俺たち天族と魔族は、そいつらを総称で外族と呼んでいる」
「外族?」
訊いたことのない種族に俺は困惑しながらも首を傾げれば、アキベエルさんは真面目な顔つきのまま
「ああ。今も何処かに住んでいるとされる種族で、それを見たものは精神崩壊はもちろんの事、恐怖して自殺してしまうこと可能性も十分に高い。その本は外族の種類からどのような固有能力を所持しているかなどが詳しく書かれてある。キオリは魔界に来てから知らないことが多すぎるからな。知っていて損はないだろう。これは誰も読まない……というより読みたがらないからな。これを特別に上げよう。魔王城に戻ってから自室でじっくり読むと言い」
そう説明した後、さらに2階と3階と1階から外族に関する本を10冊以上持ってきてそれを俺に渡してきた。
在庫処分扱いされてないかと俺は呆れながらも心の中で思いっていると顔に出ていたらしく
「キオリが思っている通り、在庫処分したいんだ。許してくれ」
アキベエルさんはそう言って左目でウィンクを飛ばしてからそう言ったのだが、ウィンクを飛ばす相手間違ってんじゃないかと思っているぐらいの爽やかさがあった。
あの後、ティアマトとさんと一緒に魔王城に戻って報告する前に大量の本を一旦部屋に置いてから報告を済ませた後、再び部屋に戻ってから10冊以上ある本の内の1つである本を読むことにした。
『外族に関する対処法』
「対処法まであるのかよ…………」
最初の2ページ目の冒頭に対処法に関することが書かれてあった。見たら逃げろ。見ても死ぬ。対処法が対処法になっていない文章で時折、支離滅裂の内容もあるあと前後の話が矛盾している。大丈夫か? この作者?
「最後は“あ”だけで締めくくれたぞ。逆に恐怖しか抱かん。これは本当に要らん」
“あ”だけで30ページ分羅列しているぐらいだ。これは駄目だな。次を読もう。
『外族と救世主。
外族には、救世主と呼ばれる存在がいる。それは、外族に恐怖を抱くことなく初対面時に少し警戒するだけの人物が外族にとっては救世主的存在である。外族に対して発狂もせず冷静で相手の目線に合わせてちゃんと話す。ことが可能であるかどうかが』
救世主か。そう言えばニャルラトホテプさんに救世主だと言われたが、救世主になる条件がそれって結構難しいことなのか? いや、待てよ。前の本は逃げるが基本中の基本であると書かれていたし、アキベエルさんも危険対象として見ていたから俺にとっては難易度は低くても他の奴らは難易度が難しいということか…………。
俺は再び本を読み進めてみた。
夕食と翌日の朝食、昼食、夕食を挟んで10冊以上の本を約1日と半日の時間を費やして、やっと読み終えた。
分かったことと言えば、ニャルラトホテプさん達は外族と呼ばれた種族だということ。記憶が改変されているのはニャルラトホテプさんとヨグ=ソトースさんの固有能力が関係していることなどだった。もう少し詳しいことが書いてあったのだが、必要なところだけは覚えて後は、ティアマトさんに買ってきて貰ったノートに書き留めて机の中に仕舞った。
だが、この本によって明らかになったのは、時間を正常に戻す際に記憶もある程度弄る必要があるらしく、その対象者はニャルラトホテプさん達と面識した人物も含まれるらしい。その可能性もあるのだとしたら、もしかしたら忘れる可能性も高かったのにも関わらず俺が記憶を保てているのは、ニャルラトホテプさん達がいう救世主という存在があるからだということだ。その本には救世主がどうのこうのというのは書かれていなかったけどな。これは、あくまで推測でしかない。
と思っていたのだが、別の本には救世主とはどういう存在かが書かれていた。救世主というは、外族の固有能力の約3割未満を防げると書いてあったが、約3割未満の()の部分に多分とかおそらくとか不安定要素しかなかった。確かな情報さえあやふやなのだが、これを書いた著者は、確信を持ってから書いていただきたいものである。
「はぁ…………。部屋が散らかってしまったな。片付けてからさっさと寝るか」
俺は本によって散乱してしまった部屋を見てから大きな声ため息を付いた後、本をティアマトさんが使わないからと言って持ってきた本棚を使用してから次々と並べて、綺麗に並び終えたのに満足してからパジャマに着替えて、ベッドに潜り込みそのまま寝たのであった。風呂に入り忘れたのだが、明日でいいかと片隅で思いながら。
その翌日。起きてから軽くシャワーだけ浴びてから、食堂に向かえば
「そういえば、訊いたか? あの噂」
「噂?」
食堂を通るための通路側のところで、俺とはあんまり面識がない魔族の男性が2人ほど話していたので、気にせず進もうと思ったのだが、次の言葉により足を止めざる終えなかった。
「ほら、キオリって人間の」
「ああ。あれだろう。救える者であるキオリが、外族の救世主だっていう噂か」
ここで、俺が通ったら気まずくなるのではないだろうか。かといって遠回りをするべきかどうかと悩んだが、2人に気づかれるぬように少し移動した。
「外族って見ただけで人生を狂わせるっていう恐ろしい種族なんだよな」
「そうなんだよ。その外族が救世主って崇めているのがキオリだって噂があるんだよ。ほら、この前の任務で外族に関する資料を大量に貰って来たのが原因だと」
それだけで噂が広まっているのかと思って気づかれないように小さなため息を付く前に
「流石に凄いよな! 流石救える者だぜ!」
思わず面食らう。えぇ……そこ!? 出て行くはずだったため息を戻すように息を飲んだ。
「確かにな。それが本当だったら素晴らしいな」
男たちはそう言って興奮気味に話しながら食堂の方へ向かったのか声が遠くなっていったのを見送ってからキオリは
「にしても、あの反応はどういうことだ? 本には魔族と外族はほぼ怖れられているはずと書かれていたんだが……」
と独り言を呟いても誰も返答しないのを分かって俺は首を傾げながら腹の虫の音で食堂へと向かった。
【外族】
ニャルラトホテプを含めた種族のことで、あったら発狂するか自殺するかしかない恐怖心的対象である。