第1彼女候補 2
「ただいま〜」
気の抜けた声で言った。いやー疲れた。身体的な方ではなく精神的な方だ。多分だけどいやほとんど真鳥先輩のせいだ。綺麗な人だが、厄介な人と知り合いになってしまった。
そんな、今日の日を振り返りながら今のドアを開けると、
「あ、おかえりあき」
と母が先に帰っていた。おお、いっつも遅いのに早いのな今日は。
「ん、ただいま母さん。今日は早いんだな」
「うん。今日は早く帰ることが出来たのよ、あのハゲ上司、たまにいいとこがあるのよね。いっつもうるさいくせに」
おぅ…いつもお疲れ様です母上…社会人恐ろしや。
「今日は麻婆豆腐作るから。先、お風呂入ってなさい。」
「あいよ〜」
今日は麻婆豆腐か、好物である、大好きである。楽しみに待っておこう、うん。
まぁ、風呂に入ってしまおう。
そんなこんなで風呂に入り、麻婆豆腐を食べ、部屋に入り少しゲームをし、今日は寝た。おやすも。
6月4日木曜日。6時半起床。天気、曇り。
うーん、眠たし。とりあえず準備準備。
まだ目が覚めきっていない状態でリビングに行って準備し始めた。徐々に目を覚まして行き、ご飯を食べ、歯を磨き、制服を着て学校へゴー。今日は徒歩で行こうかな。
ひとりぼっちでぼちぼち校門前まで歩いてきたところで声をかけられた。
「おはよー明くん。やー曇りだねー」
橘さんのようだ。「ふわぁ」と可愛いあくびをしながら近づいてきた。朝、弱いのかな?可愛い。
「おはよう橘さん。雨、降り出すかもね」
そんなことを言うとカバンの方をぽんぽんと叩き、「折りたたみあるから大丈夫!」と元気よく言った。まぁ、天気予報では降らないと言っていたが。
そのまま、2人で学校に入りクラスが違うので教室の前で別れた。
俺が教室に入り自分の席に着くと、
「よう明」
と朝からハリのある声で呼ばれた。声がした方を見るとユニークデブこと、近藤が立ってた。
「ん?あぁ、おはよう近藤。なんか用か?」
「おいおい、用事がないと話しちゃいけないのかよ、まぁ用はあるけど」
あるんかい。
「今日、雲雀のやつ珍しく休みらしいぜ?風邪で。いっつも俺らより早く来てうるさいくせにな」
雲雀の席を見れば確かに雲雀の席には誰も来ていなかった。
「ほんとだ、来てないな。でも、あいつのことだからすぐ来るだろ」
「ははは、そうかもな。じゃっ」
「えっ、それだけ?」
「ん?それだけなんだけどなんかあった?」
そんなことなら朝の出席でわかるじゃねえかよ。
「…なんでもない」
「?そうか、んじゃ」
そう言って近藤は自分の席の方へ帰って行った。俺はそのまま自分の椅子に座ってカバンを横にかけた。
そして俺は昨日、話に出た綿橋さんの方をガン見しない程度に見た。うん、確かに『砂漠に咲く一輪の花』という表現は案外間違いではないと思った。ふわふわとしていてどこか周りとは少し違う空気がそこにはありそうな神秘的な感じがする。だけどなんか、気の所為かもしれないけど少し寂しそうな感じがした。いや、いつも見てるわけではないからきっと気の所為だろうな。そんな所で担任が入ってきて、「席に着け〜」と気だるげな声を出し、ホームルームが始まった。
適当に授業を受けあっという間に放課後。特に残る理由もないのでサッと教室をでた。
いつもの足取りであの教室に行き、扉を開けるとそこには誰もいなかった、今日は俺が一番乗りのようだ。
適当な椅子に座りスマホをポチポチしてると、扉が開き橘さんが入ってきた
「お、私が一番だと思ったけど、早いな明くん」
「いっつもこんな感じだ」
「そっか」
と言い、橘さんは近くの椅子に座った。
「あ、真鳥先輩はちょっと遅れるってさ」
「そうなのか。あ、今日、雲雀は休みだ。なんか風邪引いたらしい」
「そなの!?えー、早く治るといいな」
そんな業務連絡をした後は会話することも無く時間が過ぎそのうち真鳥先輩がやってきた。
「ふっふーん♪お、二人とも来て…ありゃ?凪くんは?」
「雲雀は今日、風邪で休みです」
「あ、そうなの?残念ね。」
そう言って「よいしょ」と椅子に座り、
「分かったわ、じゃあ早速、話始めましょうか」
俺と橘さんはスマホを置き真鳥先輩の方に体を向ける。
「それじゃあ、まず明日。りんなちゃんには「後輩と明日行くね〜」って言ったら快く了承してくれたから問題ないわ。あきくん明日予定ないわよね?」
その聞き方はまるでないことはわかってるみたいな聞き方だな。まぁ無いけど。
「はい。特に予定は」
「じゃあ決まりね。それで時間は放課後ちょっと経ってからね。りんなちゃんが来てからじゃないと図書室開かないのよ。図書室に行く前に集まる場所はここでいいかしら?図書室からあまり離れてないし。」
着々と流れるように話を進めていく真鳥先輩。しっかり考えてくれてるみたいです。すごいなこの人。旅行とかの計画頼んだら次の日には決めてくれそう。強い。
「ここまでで質問あるかしら?」
「いや、何も特には」
「そう。胡桃は?」
橘さんは少し考える素振りを見せて
「それって私いっちゃいけない感じですか?」
「ん、全然、来ても大丈夫だよ」
「わかりました。じゃあ行きます!」
「うん、じゃあ次行くね?
で、次は話す話題なんだけど、まずは自己紹介的な感じにしようと思ってるんだけどどうかな?」
うーん、自己紹介。特に悪くないと思う。綿橋さんの方は多少、俺の事知ってくれてるみたいだけど、俺の方は全くと言っていいほど知らないからなぁ。うん、別にいいと思う。
「俺はいいと思います。」
「うん。じゃあそこから適当に雑談なんかして解散って形になる。こんな感じでどうかな?」
なんか急に雑になってね?
「なんか最後、雑くありませんか?」
あ、橘さんが聞いてくれた。
「んー、私も頑張って考えたんだけどね?特に初日は…そんな急に距離を縮めてもって思っちゃって。それに流石にハードル高いかなって、ほぼ初対面の女子に対して距離を縮めるのは」
あっ、俺のレベルを考慮してくれての事だったのね。すみません、真鳥先輩。
「確かにそうですね。私も、流石に初対面の男子にすごいグイグイ来られたらちょっと…」
確かに…ん?待て待て橘さん、あなた先日、ほぼっていうか初対面の俺達にかなりグイグイ来てた気がしますけど?まぁ、なんかそういう空気でもなかったので言うのやめます。
「説明はこれで終わり。全体的な質問あるかな?二人とも」
少し気になることがある。雲雀のことである。
「あの、雲雀にはどうします?あいつ今日来てないから」
「そうね…明日、ここの教室に来たらその時に説明して、明日も来ないようなら月曜日とかに後日報告って感じかな?」
「あ、いやグループLINEあるからそっちの方がいいんじゃないかな?」
そうだった、作ってた。うん、そうだな、あるならそっちの方が楽だしそうしよう。
そう提案しようと思ったら真鳥先輩が言ってきた。
「え?グループLINEなんてあるの?なんで昨日言わなかったのよ〜!私も入れて!」
わがままを言うようにねだってきた。さっきまで説明していた感じはどこに行ったのかしら…
「い、いやだって杏先輩、急に塾あるからって先、帰っちゃったじゃないですか」
「あ、そうだった…んー!でも!とりあえず入れてよ!入れないと抱きついちゃうぞぉ!」
そう言って真鳥先輩は胡桃に抱きついた。いやもう抱きついとるやないかい。
「あっ、もう!離してくだい…!ひゃっ!ど、どこに手入れて…あ、や、やめ…グループ入れないって言ってないじゃないですか…ちょ、こちょばし…入れます!グループ入れますからぁ!やめ、やめてぇぇえ!」
そんな百合百合しい現場を遠くから見てるとピコンッとLINEの音が鳴った。
開いてみるとそこには「あんず」というアイコンが表示されていた。
「あきくん追加よろしく〜。私はもうちょい胡桃を...」
「い、いい加減やめてくださいっ!!」
と精一杯真鳥先輩を剥がそうとするが中々剥がせない。粘着性大のようだ。
そんな感じで遊んだり雑談をしたりして今日は解散となった。
学校から出ると真鳥先輩は西門の方に体を向け、
「あっ、私こっちだからお二人さん、じゃあね〜また明日〜」
と機嫌良さげに手を振りながら言っている。
俺達は手を振り返しながら真鳥先輩を見送った。
そして校門の方まで行き、
「じゃあまた」
「うん。また明日ね」
と別れ帰路に着いた。