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サメが出てるやつはだいたい好きですね

<1>



 翌朝。何だかすげえよく眠れた。

 起き上がってあくびをすると、金鞠は壁に背を預けて、朝から格ゲーのムック本を読んでいた。昨夜のことなんて何とも思ってなさそうである。


「おはよう、何読んでんだ?」

「おはよう、旦那さま。ああ、すっきりした顔になってるね。よく眠れたみたいでよかった」


 金鞠は読んでいた本の表紙を俺に見せた。……月華の剣○の二幕か。アレだな。管理人さんは容赦なく斬鉄でハメてきそうだな。


「そういえば、また廊下に本が積んでると思うよ。今日は二人も旦那さまの部屋の前に来てたみたい」

「二人?」


 ああ、そうか、管理人さんと孝塚さんか。

 ドアを開けると、そこにはやはり本が積まれていた。それから管理人さんのメモも。


「うっ、重たい……」


 管理人さんはムック本をそのまま積んでいたが、孝塚さんが置いていったであろう漫画はア○メイトの袋に入っていた。返す時は信○書店の袋に入れておこう。

 俺が部屋に戻ると、金鞠が嬉しそうな顔になる。


「やるじゃないか旦那さま。そっちの袋のは?」

「こっちは漫画だよ。お前が文字が多いのがいいって言うから借りてきた」


 金鞠は無言だったがご機嫌のご様子。俺は管理人さんに指示された時間になったのでラウンジに向かった。



<2>



 ラウンジに降りると、もういい匂いがしていた。管理人さんは調理のラストスパートに差し掛かっているようで忙しそうにしており、声をかけるのは躊躇われた。

 大人しく席について待っていると、孝塚さんが当然の権利を主張するかのようにして俺の斜め前の席に座った。


「……おはよう?」


 声をかけてみるが、孝塚さんはつんとおすましさんだった。


「顔に何かついてるよ」

「えっ」と孝塚さんは自分の顔に指を当てたり、手鏡を取り出そうとしていた。

「何もついてないじゃない」

「いや、目が二つと鼻が一つ、それから口が二つ」


 からかわれたことに気づいたのか、孝塚さんはきっと俺を睨みつける。


「孝塚さんはからかわれ上手だなあ」

「もう今日は絶対無視する」


 絶対無理だと思うけどな。


「おはようございますー」とお皿を持ってきたのは管理人さんである。俺は、どうして孝塚さんがここにいるのかを尋ねてみた。もしや要らぬ気をまわされてしまったのか。

 管理人さんは小首を傾げた。


「お誘いはしていませんでしたが、孝塚さんにもこの時間に朝食をお願いされましたので」

「ふーん。……なあ」


 孝塚さんはそっぽを向いていた。


「管理人さんのメモ、勝手に読んだだろ」

「何が? そんなの知らないんだけど?」


 まあいいけどさ。ちょっとびみょい気持ちになったが、漫画を貸してくれたことは有り難い。素直にお礼を言っておこう。


「さすがにアニメショップの袋に入れるのはどうかと思うけど、ありがとうな」

「べっ……別にいいじゃない。もう話しかけないで」


 だったら違うテーブルに行けよとは言えず、俺は管理人さんの愛情がたらふくこもった朝食を口の中に突っ込み始めた。


「ところで管理人さん。月華だったら持ちキャラなんすか。やっぱり斬鉄ですか」

「違います―。使ったとしてもハメません。私は天野ですね。一生ジャンプC振ってます。里見さんは?」

「俺は、あんまりやったことないんですよね。月華面白いですか?」

「いいですよー。弾きが決まると気持ちいいんですよ」

「よかったら今度教えてくださいよ」

「いいですけど、私の教えはガチで厳しいですよ。天空闘技場でのウイ○グさんばりにキレますよ」


 孝塚さんの肩がぴくりと震えた。こいつ、漫画のワードに反応するんだな。


「師匠だったら、ウイングさんよりビスケのがいいな。ほら、管理人さんと背丈近いですし」

「それって私のことを五十路って言ってるんですか」

「俺の中のロリババア枠、空いてますよ」

「斬鉄でハメ殺します」


 ハメ殺すならせめてあかりにしといて!


「そういや管理人さんは漫画だと何が好きですか」

「キリング○イツ好きですね。格ゲーは残念でしたけど。ブラッデ○ロアの再来だと喜んでいたのに……」

「アラ○ニド、アニメ化しないかなあ」


 失禁シーン増やしてくれないかなあ。アニメ化するんならカブトムシちゃんの声は根○美智子がいい。


「孝塚さんは何の漫画が好きー?」


 俺はへらへらしながら話しかけた。孝塚さんはこっちを向きかけたが、腕を抓ってそれを我慢していた。


「き、汚いよ里見くん。そうやって私の心を揺さぶって……!」

「えー、何が?」

「うううぅううう……」



<3>



 大学に着いてもなお孝塚さんは俺を見ていた。雑踏に紛れても彼女の視線は俺をとらえ続けている。自分から言い出したこととはいえさすがにうんざりしてきたぞ。

 昼休みになり、俺は食堂に入った。人混みをかき分けるようにして二階に上がり、別の出入り口から食堂を出た。向かう先は駅前のコンビニである。学食に比べれば値段が高くて量も少ないが、俺だってゆっくり誰の視線を気にすることもなく孤独にグルメを楽しみたい。

 コンビニに着くころには背中にビシバシと突き刺さる視線が消えていた。思わず安堵の息を漏らした。……さて、飯を買ったはいいがどこで食おうかな。芳流閣のラウンジに戻ってもいいけど歩くのも息するのもめんどくせえ。幸いにしてここいらには座れる場所がアホほどある。外回りのサラリーマンや学生たちに倣って、俺もこの辺で食べるとするか。

 適当なベンチを見つけてサンドイッチを貪っていたら、俺の前を背の高い人が横切った。帽子を被った線の細い人だ。遠目で見ると男かと思ったが、そのマニッシュな格好には見覚えがあった。じっとその人を見ていたら、


「……?」


 振り返ったその人と目が合った。


「梯さん?」

「……え」


 そうだ。この人、俺が芳流閣に来た初日に出会った人だ。はわわとか言ってた人だ。

 梯さんは、俺がどうして自分の名前を知っているのか不思議そうにしていたが、彼女もまた俺に気がついたらしい。


「里見、八総くん?」


 梯さんの目には警戒心が宿っていた。


「もしかして、『里見八総を追い出す会』の会員?」

「……え? ううん、ぼくは違うよ。でも、みんなが『変な人が入ってきた』って」


 さいですか。


「里見くんはここでお昼ご飯?」

「うん。食堂は落ち着かなくて」

「人が多いもんね」


 ストーカーがいるからだとは言えなかった。

 梯さんはコンビニの袋を提げている。


「梯さんも?」

「うん、空いてるとこ探してた」

「あ。よかったら一緒に食う?」

「ぼくと?」

「同じマンションに住んでるよしみでさ」

「……いいのかな」と梯さんは逡巡している。

「いいんじゃない?」


 梯さんは、それじゃあと俺の隣に座った。こうやって並ぶと俺より背が高くてスラっとしている。足が長くてスタイルがいい。近くで見るとまつげ長いし、髪の毛にも女性ならではの艶がある。


「宝塚って感じ!」

「え、何が……?」

「いや、別に何でもないよ。俺、脳みそと口が直結してるんだ」

「やっぱり変な人だ」


 ショック!


「でも、明るくていいね」


 梯さんはキャスケットを被りなおした。居心地悪そうにしておにぎりを少しずつ口に運んでいる。背は高いけど小動物みたい。ここはアレだ。明るい話題を提供してみよう。


「俺さー、芳流閣に来る前はボロいアパートに住んでたんだ。で、そこが燃えちゃってさー」


 ええ……という困惑顔で、梯さんはこっちを見てきた。


「火事?」

「そう。ゲームとか漫画とか、ラノベとか全部燃えちゃった」

「…………そ、そう」


 場が静まり返った。


「そ、そういえば、里見くんも同じ大学なんだよね。孝塚さんがそんなことを話してたのを、その、聞いたんだけど」

「あれ、梯さんも学校同じなの?」

「う、うん。ぼく、あまり目立たないから、気づかれなかったと思うんだけど」


 いや、そんだけでかいとさすがに目立つと思うけどな。


「とってる講義が被らなかったんじゃね? 学部違うと全くすれ違わなかったりするじゃんか」

「あ、うん、それはそうかも」

「ちなみに何学部?」

「文学部だよ」


 文学! すげえ頭よさそう。


「本好きなの?」

「うん、いつも、ご飯のあとに本を読むのが好きかも」

「あぁー、だったら悪いことしたかな。わざわざ呼び止めちゃったからさ」

「ぜ、全然、気にしないでいいよ」


 梯さんはぶんぶんと手を振った。


「どんなの読むの?」

「い、色々かな。結構、何でも読むよ」

「はえー……俺はさ、本と言えば心残りなことがあるんだ。ラノベの新刊買ってたんだけど、読むのがめんどくなって積んでたんだよ。でも火事で全部焼けちまったから、もったいなかったなーって」

「里見くんもラノベとか読むんだ」


 超読むよ。ビブリア古書堂にいる人には負けるけど。どうでもいいけどビブリオマニアって腸炎ビブリオのマニアのことかと思って、菌好きとかやべー。あ、でもも○しもんってあったし、世界は広いよなーとか衝撃を受けたことがある。


「にわかだから、アニメで知ってラノベに入るんだけどな。『お、こんなのあんのかー』って。され竜とか軽い気持ちで読んだらゲェ吐きそうになった」

「暗黒だから、心を抉られるよね」

「魔法少女が殺し合うやつもきつかった。あれは困る」


 俺だったらまわりをエッチな雰囲気に変えるやつがいい。でもなぜか男ばかり寄ってきて『お、おのれー』と嘆く。


「ちょっと意外だな。梯さんもラノベ読むんだ」

「うん。あ、えっとね」


 梯さんは肩掛け鞄からブックカバーのかかった本を取り出した。そのカバーをちらりとめくると、そこには18年ぶりの新刊で話題をさらったラノベの表紙が。


「あっ、俺もそれ持ってた! まあ焼けたんだけどな。黄昏よりも暗くて血の流れより赤い火の海に呑まれて」

「あ、ああっ、ごめんね、思い出させちゃって、そんなつもりはなかったんだけど」

「どうだった、面白かった?」

「別枠って感じ。懐かしいから、新しいのが読めただけで嬉しいかなって」


 どうなんだろうな。俺は別に気にしちゃいないが、古い作品の続編が出たり、リメイクされたりするのって。


「よかったら読む?」

「え、いいの? でも俺、代わりに差し出せるものといったら、もはや自分自身しか……」

「い、いいよ、そういうの大丈夫だから。もっと自分を大切にしないとだめだよ」


 普通に諭されてしまった。


「読み終わったら感想聞かせてね」

「おー、ありがとう。返す時はどうしたらいい?」

「ぼくを見かけた時に返してくれれば大丈夫だよ」

「分かった。でも、梯さんってラウンジとかで見かけないよな」


 俺がそう言うと、梯さんは申し訳なさげに顔を伏せた。


「ぼく、人と話したり、にぎやかにするのってあんまり得意じゃなくて」

「あー、分かる。俺もそうなんだ。超人見知り」

「……そ、そうは見えないけど」

「だったらライン的なやつ交換しようぜ」


 俺はスマホをポケットから出した。


「ああっ、凄い、スマホが焦げてる……ホントに火事に遭ったんだね」

「ところで、ラインってこれ、IDとかどうやって交換するんだ。自慢じゃないけどラインとか使ったことほとんどない」

「え、ご、ごめん、ぼくもよく分かんない」


 俺たちは二人してああでもこうでもないと互い(のスマホ)を触りあったりした。


「しようがない。じゃあ、何号室に住んでるか教えてくれ」

「ぼく? 五〇五だけど、どうして?」

「管理人さんか、孝塚さんにラインのやり方を教えてもらうか、設定をやってもらおうぜ。そん時になったら俺が部屋まで呼びに行くから、一緒にラウンジまで来てくれよ」

「……? え、あの、それだったらもう直接……」

「というわけでよろしくな! それじゃあ、また今度!」


 俺はベンチから立ち上がり、大学へとダッシュで向かった。



<4>



 俺は本を借りてばっかりだ。そんな自分に嫌気がさしたのでアルバイトをしようと決意した。少しでも金を稼いで、俺も管理人さんや梯さんに何か返さなくては。お手伝いの梓さんも言っていた。貸し借りとは等価交換。ウィンウィンでなくてはならないと。


『だからあれほど無駄遣いはいけませんよと言ったのに。坊ちゃま。私がお小遣いをお貸ししてもよろしいのですが、返す当てはございますか』

『あんまりない。その代わりにお手伝いとかして返すとかじゃ、だめ?』

『梓のお手伝いを? クソほど高くつきますがよろしいですか』


 当時の俺は何か不穏なものを感じて借りることは止めたのだった。


「というわけでバイトさせてください」

「シフトってものがあるのを知っているかな?」


 ナイスミドル店長は遠回しに俺を拒絶していた。


「追い込まれた俺はジャッカルより凶暴ですよ」

「脅迫も板についてきたね。うわあ、マジで困ったなあ」

「お困りでしたら何なりとこの里見めにおっしゃってください」

「俺はこの後、ちょっと出なきゃいけないんだよね」


 すげえ都合がいいじゃないか。留守番が必要になるってことだろ。


「いや、もう留守番はお願いしてるんだよ。そろそろアルバイトの子が来るはずだから」


 俺は自分を指差した。店長はゆっくりと首を振った。


「ちゃんとしたバイトの子だよ」

「俺がちゃんとしてないみたいじゃないですか」

「どの口で言うんだよ! その口か! いいかい、君はどうにも奇行が目立つんだよね。いや、確かに一通りのことはこなしてるけど、ホームラン級のポカをやらかすじゃないか」

「身に覚えがないです」

「魔導書ォ! あれを買い取ったじゃないか! あんな怪しげなものを買い取るのは君か本物の魔法使いだけだよ!」


 俺が本物の魔法使いである可能性が微粒子レベルで存在している……?


「ああ、駄目だ、もう時間がない。断腸の思いとはまさにこのことだよ。いいかい、バイトの子が来ても妙なことはしないで、二人で仲良く留守番をやっててくれよ?」

「任せてください。生意気な新人なんてシメてやりますよ、こう、帯をキュッとね」

「君を雇った昔の自分をぶん殴ってやりたいよ!」

「そんな、店長、自分を責めないでください」

「君がいると退屈はしないけどね! いいさもう、毒を食らわば皿までだよ!」


 そんな捨て台詞を残して店長は去っていった。めちゃめちゃ焦っていた様子だったが、いったい何の用事なんだろう。

 しばらくの間、ほとんど客の来ない店で留守番をしていると、酷く慌てた様子の女の子が入ってきた。そんなに急いでもここにはクソ映画しかないよ。


「あの、遅れちゃってすみません……あれ?」


 カウンターの俺を見て不思議そうにするのは、どこかの高校のものらしき制服を着た少女である。管理人さんほどではないが背が低く、癖っ毛でもじゃっとした感じの子だった。その子はくりっとした垂れ目で俺を不安そうに見つめている。


「らっしゃい! 今日は何をお探しで!」

「えっ、あ、あのー、私は、ここのアルバイトなんですけど」


 何、この子が。


「名乗りたまえ」

「は、はいっ、角村雛衣つのむら ひなぎぬと言います。あの、あなたは?」

「俺は店長にこの店の留守を任された、いわば俺こそがこの店の長だ。つまり俺こそが王であり、この店は俺の国ということになる。ようこそ、里見王国へ」

「あ、里見さんって言うんですね」

「初めまして」


 俺は立ち上がって頭を下げた。


「高校生?」

「はい、近くの女子高で」

「女子高!?」


 魔法の言葉だ。俺の島では女子高どころか学校が一つしかなかったぞ。のんの○びよりみたいな感じ。ただしあんなに仲良くはない。それってとっても地獄だなって。


「マジか……入国を許可します」

「あ、ありがとうございます。あの、着替えたいんですけど」

「どうぞどうぞ」


 俺は椅子に座りなおす。まだ心臓が高鳴っていた。すげえな女子高の響きって。破壊力半端ねえわ。今なら何でもできそうだ。


「あのー」と奥から角村さんが姿を見せた。彼女は、制服の上からお店のロゴが入ったエプロンをつけている。

「すみません、ズボンを忘れちゃったんですけど」

「あらら」


 それは困った。プリーツスカートでアルバイトとはけしからんからな。


「一回、家に取りに帰った方がいいですかね……」

「まあ別にいいんじゃないかな。レジだけやってくれればいいよ。そしたら気にならないだろうし」

「いいんですかぁ?」

「そっちのがお客さんも喜ぶことだろう」

「私なんかのスカートで喜ぶ人いますか?」


 いるさっ、ここにひとりな!!

 俺は近くに立てかけてあったパイプ椅子を組み立てて、角村さんにすすめた。


「ありがとうございます。あの、先輩は」

「えっ」

「あ、はい、なんでしょう」

「い、いや、ごめん、何でもない。ちょっと動揺しただけだから」


 角村さんは困ったように笑った。『先輩』という呼ばれ方は生まれて初めてだったりする。なんかこう、いいな!


「先輩は大学生なんですよね」


 俺はいかにもといった風に頷く。


「大人ですよねー」

「……いや、特に何も変わらないと思う」


 大学生になったからって特別なことは起こらないし成長もしない。恋愛遍歴で言えばその辺の小学生の方が進んでいるはずだ。


「そうなんですか?」

「まあ、人によるかな。角村さんこそ」

「あっ、『さん』はいらないですよ。何だか年上の方に『さん』づけされるとくすぐったくなってきちゃいます」

「じゃあ、何とお呼びすれば……」

「呼び捨てで大丈夫ですよ」

「ええっ、なんかそれってDVの彼氏みたいで嫌じゃない?」

「あの、そんな風にとらえる人っていないと思いますが」


 呼び捨ては個人的に抵抗あるな。


「何かあだ名とかないの?」

「そうですねー、学校だと仲のいい子からはクソオタとか呼ばれてます」

「悪口じゃないのそれ」

「どうなんでしょう?」


 ええ、最近の子って分かんない。


「ところでアレだよね。女子高生がこんな寂れたビデオ屋でバイトするのって珍しい気がする」


 もっとこう、明るいところでバイトするべきなんじゃないのか。


「あ、私、映画が好きなんです」

「だったらツ○ヤとかのがよくない?」

「いえ、ああいう店には私の好きなものが少ないので」

「ふーん。好きなのってどんなの?」

「サメが出てるやつはだいたい好きですね」


 あっ。俺は察した。


「というかおっきいモンスターが出たり、ガンガン死にまくってるやつは好きですよ」

「なるほど……」

「も、もしかして引いちゃいましたあ……?」

「いや、俺もそういうの見るよ」


 その時、店内に中年のおっさんが入ってきた。

 角山さんは声を潜めて言った。


「今の人、ムカ○人間2のマーティンに似てないですか?」

「なんだその例え!? いや、確かにちょっと似てるけどさ」


 失礼過ぎひん?

 あれ、俺は途中で見るのやめちゃったよ。超えぐいじゃん。その後で見るごちうさのなんと素晴らしいことか。一生分くらい見たわ。そうでもないと釣り合いとれねえ。ああ、3期が待ち遠しいよな!


「先輩は武器人間だとどれが好きでした?」

「どれ……? あの映画に好きになるやつって出てたっけ?」

「やっぱりモスキートですか? でもポッドマンもチマチマ動いてて可愛いですよね。でもでもやっぱりプロペラヘッドが……はあっ、すいません、やっぱり引いちゃいましたか?」

「武器人間が好きなことはよく分かった」


 俺はアレ、吹き替え目当てで見たたちである。新旧のキャストがほとんど揃ってるんだもんなあ。夢の共演ですわ。


「吹き替えだとアタックザマミ○も豪華でしたよね!」

「また古いのを。そういや、角村さんは字幕派じゃないの?」

「英語が苦手なので……字幕しかないのは字幕で見ますけど、基本的には吹き替えですよ。そっちに慣れ過ぎちゃって本人の声に違和感を覚えちゃうくらいで」


 分かる。ジャッキーは石丸だしアーノルドは玄田だよな。


「今は便利ですよねえ。わざわざ映画館に行かなくても、レンタルをしなくてもネットで過去の名作が観られるんですから。ネトフリとかフールーとか」

「だからわざわざこんな店に来るのは物好きくらいだよな」

「配信すらされない作品を置いてるのは近くではここくらいですからね」

「お、物好き発見」


 俺は角村さんを指差した。彼女は照れ臭そうにはにかんでいた。


「えへへー、ほめても何も出ないですよう」


 褒め言葉ではなかったんだけど、まあいいか。喜んでるし。

 そうやって喋っているとバイトが終わるのはあっという間だった。



<5>



「おや」


 バイト終わり、それじゃあねと角村さんに手を振りかけたが、彼女は店の近くに停めてあった可愛らしい原付に跨っていた。


「それ、角村さんの?」

「はい、そうなんです。えへへ、本当は世界最速のインディアンに出てたようなのに憧れてるんですけど」

「好きだなあ、映画」

「先輩はここから近いんですか、おうち」

「うん、駅前の芳流閣ってマンション」


 角村さんのテンションが目に見えて上がるのが分かった。


「あそこの人なんですかっ。わー、先輩すごいですね。すごいですよ! うちの学校じゃあ、ああいうところに住みたいって子がいっぱいいるんですよ」

「そうなの?」

「おしゃれだし、シアタールームもあるって聞いたことあります! 都市伝説で!」


 都市伝説になってるのか……。


「実際あるよ。シアター。俺は使ったことないけどね」

「はあああ、すごいですねえ。そこでサメ映画観られたら私もう死んでもいいです」


 大げさだなあ。


「あっ、それでは先輩、失礼します! ……次までに『さん』づけで呼ぶの、直しといてくださいね」

「え」

「ではー! あいるびーばー……」


 後半、何言ってるか聞き取れなかったな。

(クソ)映画好きの角村さんか、いい子そうでよかった。あのクソヒゲ面のおっさん店長しかいないアルバイトにささやかな潤いができたような気がする。オアシス角村と名付けよう。

 スキップでもして帰ってやろうか、がははというテンションで帰り道を歩いていると、前方から走ってくる少女が見えた。もう暗いってのに、何をそんなに急いでいるのかね。

 少女の姿が近づくにつれ、ランニングウェアらしきものを着ているのが分かった。なるほど、部活のトレーニングか、ジョギング中ってことか。女子は大変だなあ。


「あっ」


 走っていた子が立ち止まり、俺を指差した。


「不審者」

「誰が不審者やねん」


 道を歩いていただけで不審者呼ばわりとは何事か。謝罪を要求する。責任者はどこか。

 俺を指差したのはポニーテールの少女だ。健康的に伸びた手足が夜闇でも眩しい。……ていうかこの子、俺の腹をメチャメチャにしたやつじゃないか。


「ひっ」と俺は咄嗟にお腹を抱えた。

「ここで会ったが百年目。里見八総追い出す会の会員として見過ごせないぞ!」

「ちょっと! ちょっとウェイト! 勘違いだって何度も説明したじゃん! 俺は不審者じゃない!」

「不審者はみんなそう言う」


 そうかもしれないけどさあ!


「とにかく、ぼ、暴力はいけない。お互いのことをよく知り合って話し合おう」

「ふふん、私の名前を知りたいんだな」

「あー、確か忠山節華ただやま せつかちゃんだっけ」

「愛ある限り戦うぞ。命、燃え尽きるまでお前をボコる。美少女仮面、忠山節華!」

「仮面もつけてないし、自分で美少女とかよう言うわ」

「ちっ、違う! これは名乗りの口上であって」


 忠山さんは恥ずかしそうに腕を振り回していたが素振りで風圧が起こっていて怖い。


「だいたいその、俺を追い出す会ってなんだよ」

組織ソースは明かせない」

「俺が何したって言うんだ」

「マンションに勝手に入ってきたじゃん」

「だから、そういう誤解については説明しただろ」


 忠山さんは目元をこすった。


「私はそういう話はよく聞いてない。よく分かんないからな!」

「何を偉そうに」

「悪いやつを追い出すのに理由なんかいらないだろ。私が正義なんだからな」

「ははん、正義ときたか」

「な、何がおかしいんだよう」


 俺は腕を組み、忠山さんを見下ろした。


「一人を寄ってたかっていじめるのが正義か。くっくっく、ヒーローが聞いてあきれるぜ」

「ち、ちが……」

「本当に悪いのはどっちかな。本当に正しいのはどっちかな。俺は説明したはずだし、犬飼さんや管理人さんたちは納得、してるんだよなあ。それを承服できずに異議を唱えているのはどうかと思うよ。だって世の中には法があるんだ。その法を破ろうとしているのはそっちじゃないのかな」

「うう、難しい言葉を使わないで」

「戦隊もののヒーローは複数で寄ってたかって悪いやつと戦うよな」


 忠山さんはハッとして、きりっとした顔で俺を指差した。人を指差すのが好きな子だな。


「そ、そう! 私たちはヒーローだから寄ってたかってもおかしくない!」

「でもそれは相手が強大だからだよな」

「え」

「悪いやつが強いし大きいからみんなで協力して戦うんだよな。じゃあ一つ聞くけどさ。俺はそんなに強いか? 大きいか? 世界を征服しようって企んでたり、町を破壊したり、罪なき人を襲ったりするか?」

「わ、わからない」

「俺はそんなことしないし、できない。ただの人間だからな」

「に、にんげん」


 既に忠山さんはオウム返ししかできないようなレベルまで知能が落ちていた。


「俺は、人間。オッケー?」

「う、うん」

「じゃあさ、ヒーローが普通の人間とか一般人を寄ってたかって襲うか? アマゾ○ズだってそんなことするやついなかった……ような気がするぞ」

「あ、あれ? あれ? じゃ、じゃあ、もしかして、悪いのは私? 正しいのは、正しいのは……?」


 忠山さんはまたもやハッとして、きりっとした顔で俺を指差す。しかしその指は震えていた。


「普通の人間はマンションの壁を登ったりしないぞ!」

「そこはほら、火事場のクソ力ってやつ」


 実際俺、火事場にいたことあるし。


「しかもそれで言うと、忠山さんだって普通の人間じゃないことになる」

「あっ……!」

「気づいてなかったのか」

「うるさいうるさいっ、私はバカじゃないぞ! 気づいてて試したんだからな!」


 詰め寄ってくる忠山さん。さっきまで走っていたからだろう、彼女の肌には汗がにじんでいた。


「くっ、くそう、くそう、正義って何なんだ……」

「まるでヒーローみたいなことを」

「だって、ヒーローになりたいんだもん」


 おや。

 忠山さんはさっきまでの猛犬ぶりが嘘のように大人しくなっていた。


「よく分かんねえけど、ヒーロー好きなの?」

「好き!」


 目がきらきらとしておるわ。

 至近距離で『好き』とか言われてちょっとぐらりときてしまった。


「でも、私はだめだ。弱いやつだ」

「……弱いやつほど力の価値を知っている。そう言ったヒーローがいた」

「きゃ、キャップ……!」


 俺は訳知り顔で頷いた。まあこのセリフ言ったのキャップじゃなくて博士なんだけどな。


「パーフェクトソルジャーではなくグッドマンであれ、だ」

「分かった。里見もヒーローだったんだな。正義の心を持っていたんだな」

「えっ、ああ、うん」


 俺は今選択肢をミスったような気がする。バックログはどこか。


「もう少し、様子を見ることにする。お前が悪いやつかどうか、まだ分からないから」

「様子見って、どうすんの」

「そ、それは、その、どうすればいいかな? なあなあ」


 それを俺に聞くのか。


「えー? まあ、見張る、とか?」

「見張り! なんかいい! そういうの! じゃあそうするね! ご飯の時もお風呂の時も寝ている時も起きてる時も油断しない方がいいから!」


 えっ。


「あのー、それって」

「私の目の黒いうちはってやつね、よろしくね里見!」

「ああ、そんな爽やかにストーカー宣言されても……」


 じゃあね。そう言って、忠山さんは元気いっぱいに走り去っていった。



<6>



 ストーカーが増えた。

 俺はラウンジには行かず、自分の部屋に戻った。ふう。ここでならやっと安心できるぜ。


「おかえり旦那さま。今日は遅かったね」


 金鞠はコナ○君を読んでいた。


「ああ、今日は……」

「アルバイトでしょ? ふふ、あたしの推理はよく当たるんだ」


 推理も何もないような気がするが、よしとしよう。


「それより、ほら」と金鞠は折り畳まれた紙を見せてきた。

「旦那さまがいない間に差し込まれてたよ」


 管理人さんかな。


「『ラウンジ 21時』か。……もう過ぎてんじゃん」


 アルバイトが終わったのが22時だ。もう23時になろうとしている。忠山さんに捕まってたからな。

 とりあえず行ってみるしかねえか。俺はラウンジに向かった。さすがに遅くなったし、誰もいないだろうと思ってたら、ソファで舟をこいでいる管理人さんを見つけてしまった。ゆらゆらしてて可愛い。

 俺は何となく管理人さんの傍に近づこうとするが、足音で目が覚めたのか、彼女はソファから立ち上がって足を組み替えながらルチャドールのように軽やかなステップを踏んだ。


「はっ、里見さんでしたか。危うくタイガーネックチャンスリャアアを打つところでした」


 ラ○ンだったのかよ。


「どうして『2001』であんなに柄が悪い感じになっちゃったんですかね。……んー? それより里見さん。私の手紙、ご覧になりませんでしたか」

「あ。いえ、実はさっき帰ってきたばかりで。アルバイトしていたものですから」

「あやや、そうだったんですか」

「もしかしてずっと待ってくれてたんですか」


 管理人さんは何でもなさげに頷いた。もはやこれは無償の愛である。


「暇でしたし、格ゲーの対戦動画見てたら寝ちゃってました。里見さん。お腹空いてます? よかったら今から何かお作りしますけど」

「いいんですか?」

「構いませんよー。ちょっと待っててくださいねー」


 鼻歌交じりでキッチンに向かう管理人さん。その足取りは軽い。

 しばらくするとパスタとスープが完成して、俺はそれをずるずると食べ始める。管理人さんはやはり俺をガン見していた。


「美味いス」


 俺は、今日あったことを管理人さんに話した。彼女はうんうんと相槌を打ってくれる。


「よかったじゃないですか、お友達がたくさんできて」

「……友達なんですかね」


 梯さんはそうかもしれないが、角村さんはバイトの後輩だし、忠山さんはストーカー2号に近い。


「何にしても誰かとの交流はいいものですよ。里見さんの心を豊かにしてくれます」

「管理人さんとの出会いも俺の心の支えになってます」

「お上手! 里見さん、そういうことが言えると普通の方にしか見えないんですけど」


 まるで俺が普通じゃないみたいな言い方だ。


「里見さん。よかったらなんですけど、少し私に付き合ってくれないでしょうか」

「少しと言わずお付き合いしますよ」

「それはよかった」と管理人さんはにっこり微笑んだ。そしてテレビのある方へ視線を遣った。そこにはゲーム機がセットされている。プレステ4だ。

「ははーん、そういうことですか。よろしい、受けて立ちましょう」


 管理人さんと二人して大型テレビと向き合う形になる。彼女は慣れた手つきでゲーム機を操作し始めた。


「格ゲーですね。最新のやつですか? ストリート的なやつでも鉄の拳的なやつでも相手になりますよ」


 しかし画面に映し出されたのは侍の魂的な文字だった。


「ゼロスペて。古っ」

「あ、今古いとか言いました? でも最新作の発売が決定している、今世紀最もホットなタイトルなんですからね。ところで里見さん、このゲームは……」

「少しならやったことありますよ」


 ともちゃんと対戦した覚えがある。

 俺はコントローラを渡されると、迷わず弓を使う褐色の女の子を選択した。


「ふ。里見さんらしいキャラ選ですね」

「俺はデイズオブメモリ○ズでもミナ推しでしたからね」


 あれ、地味にシナリオがいいんだよ。小ネタがマニアックだし、シリーズの伏線拾ったりしていて。個人的には現代編のミナが最高。早く新作を出してくれ。もう待ちきれないよ!


「では私はー」


 管理人さんが選んだのは、内藤先生、漫画でもそんなやつばっかり書いてましたよね感溢れるクリーチャーだった(天草にそんなやつら出てこねえじゃねえか!)。


「ふはは、いいんですか管理人さん。そのキャラのことは知っていますよ。ミナの飛び道具で封殺ですわ」


 俺はげらげら笑っていたが、管理人さんは画面をじっと見つめていて無反応だった。なんだそのマーダーフェイスは。そして対戦がはじまるやいなや、俺のミナは腐れ外道に蹂躙されまくった。絵面的に一部の愛好家にしか刺さらないような、安いエロCG集にしか見えなかった。


「ば、馬鹿な」


 管理人さんは薄い笑みを浮かべている。


「里見さん。まだそこ(・・)なんですか?」

「何を……」

「確かに。稼働初期こそリーチの長いキャラに苦しめられていた外道ですが、先人が研究を進めたことでトップクラスのキャラクターにまで上り詰めたのがこの腐れ外道。私の前転烙印から逃れられますかね?」


 なんだそれ、初耳ファーストイヤーだ。


「ぐうう、次です、次」

「何度やっても無駄だと思いますけど」


 管理人さんの言葉通り、無駄だった。俺は途中でキャラを変えたり、管理人さんに告白したりして動揺を誘ったが付け焼刃とはまさにこのこと。しまいにはボタンを一つ封印した彼女にボコられ続けた。気づけば一時間以上も経過していた。


「あー、疲れた。それじゃあ今日はこの辺に」


 俺は立ち上がりかけたが、管理人さんは微動だにしない。こちらを見上げて無表情のまま、


「続けましょう」


 そう、告げた。


「えっ? あ、あの、でも……」

「続きを」


 俺は息を呑んだ。管理人さんからどす黒いオーラが漂っている。これは、ガチ勢じゃな?


「せ。せめて、せめて、外道は、もう……」


 諦めた。管理人さんの気が済むまで付き合うしかない。


「分かりました」と管理人さんはキャラを変えたが、その時の俺は、六道を全くミスらない人間がこの世にいるとは思いもしなかったんだ。



<7>



 疲れた。

 ただただ疲れた。もう格ゲーはこりごりである。


「死にてえ……」


 ラウンジから自室に戻ろうとしたところで、ケータイくんがぶるぶると震えているのに気づいた。着信アリ。『店長』と表示されている。こんな時間に髭面のおっさんと話したくなかったが、何か問題が起きたのかもしれない。


「もしもし里見です。お金なら貸せません。たとえ店長が死にかけていても躊躇しません」

「少しは考えて欲しいよ! そんな状況はまずないと思うけどね!」


 店長は元気そうだった。


「そういうことじゃないよ。魔導書を売った客について思い出したことがあったから連絡したんじゃないか」

「マジっすか」

「大マジだよ。あのね、君、確か駅前のマンションに住んでるとか言ってなかった?」

「はい。芳流閣ってとこです」

「あぁー、やっぱりか」


 何がやっぱりなんだ。


「例の客だけど、そこの住人かもしれない」


 ……俺に魔導書を売ったやつは、フードを被っていたし、身振り手振りだけで口を利かなかった。だから正体は判然としなかった。


「どうして、その客が俺が住んでるとこにいるんだと分かったんですか」

「いや、それが、その……ま、まあ、お得意さんがそこにいてさ」

「ええ? あのどうしようもないビデオ屋の?」

「なんてことを言うんだ! 違うよ。俺はサイドビジネスもやってて、まあ、別口のお客さんがいるんだよ。そっちからの情報で」


 何か怪しいことやってそうだな。裏的な。


「じゃあ、店長から所持しているだけでも逮捕されるブツを買い求めている人が芳流閣にいるわけですね」

「そんなヤバいのは売ってないよ! もっと合法的なものだから! ……その、芳流閣の人が言ってたんだ。君がそこに住むよりも以前にある騒動が起こったんだと」

「騒動ですか」

「何でも、本がなくなったんだとか」


 本。

 俺は、八階フロアの本棚を思い出した。


「何冊か貴重なものがなくなってて、住人総出で色々と探したそうだけど、結局見つからなかったんだと」


 そういや、俺がここに来た時にも誰かが言ってたっけ。確か『八階が狙いじゃないの』か、とか。犬飼さんも何かを探して欲しいと言ってたしな。


「ということは、そのなくなった本の中に」

「魔導書があったんじゃないかって。俺はそう思うね」


 つまり。

 誰かが芳流閣の八階にあった犬飼さんの魔導書を盗み、それを俺というか、店に売った。


「その、お得意さんは他に何か言ってませんでしたか?」

「いやあー、あくまで世間話だったからさ。それに、お客さんにそういうことを聞くのも怪しまれるし、今後のビジネスに影響を及ぼしかねないからね」


 マジでこのおっさん、何をやってるんだろう。


「分かりました。ちょっと、マンションの方で色々と探ってみます」

「ああ、まあ、実際のとこはどうか分からないからさ、頭っから人を犯人扱いにするのはやめておいた方がいいよ」

「オッケーです。ありがとうございました」


 俺は電話を切った。エレベータは八階フロアに到着していた。

 この、ずらりと並んだ本棚。この中に、本当に魔導書があったのか? あったとしたら、ここに住んでる誰かが、俺に呪いの魔導書を売りつけたのか……?


「ってことは」


 そいつは、俺のことを知っているんじゃないのか?

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