違う、そうじゃない
えっと、なんて声をかけたらいいのだろう。
屋上に来た僕らはお互いに黙ってしまって。……さっきまであんなに喋ってたのに。
「神木、さん」
「……は、はい」
「ん、んん?」
「なんで、しょう……」
さっきの勢いは何処へやら。おどおどと僕の表情を伺い、髪を指先で遊ぶようにずっとくるくると巻いていた。
「さっきは、すいません。緊張すると、あぁなっちゃって」
「……なんだか、大変だね」
「まだ丸くなった方……です。それで、その日生君」
「は、はい」
緊張したら厨二っぽくなるって……恥ずかしいから大袈裟にって感じなのかな。今が素なわけだ。
「アレ、なんだったんですか?」
「……へ?」
「あの、化物たち……みんな、気付かないから」
呪霊が、見えていた!?
僕の驚いた顔にビビったのか少し距離を取られた。そんなに物騒な顔してるのか僕は。
「えーと。アレは」
「マコちゃんっ!!」
屋上の扉が大きく音を立てて開かれる。
そこには何故か少しご立腹な双葉が居た。一瞬で強張る僕と、目の前の神木さんも目が座る。
「何者だ。我は片翼の彼と闇より出でし者の正体を暴き、夜を開けようとしてたのだぞ」
……化物の正体を知ってすっきりしたい。みたいなニュアンスであっているのだろうか。
双葉には全く伝わってないようで、首を傾げながら神木さん……ではなく僕に突き進んでくる。
「マコちゃん?なんでえっと……「我が名は神木「神木さんと2人きりなのかな!!」
「僕は連れて来られた方なんだけど……」
「へ?……あ、そうなんだ」
「わかったぞ!!汝さては我が片翼の、あの。本妻だな!!」
浮かばなかったのか……って、本妻?
「違うよっ!!!!」
「そ、そんなに強く否定しなくて、も」
膝の力が抜ける。すでに去ってしまった双葉に見られなかったのが幸いだが、まさかの流れ弾で信じられないくらいの精神ダメージを負っていた。
「あ、ご、ごめんなさい。あんな、綺麗な人と話すの、は緊張しちゃって」
「大丈夫大丈夫。気にしないで」
「すごい泣いてる……けど」
「気のせい、だよ」
結局、この日は神木さんに話すことはなかった。
その代わりなのかずっと泣く僕を優しく、神木さんは撫でていてくれたのだ。