才より力
ある日、天槻家に呼び出された。
……いい予感は微塵もしないけど。従うしかない。
「日生真実。参りました」
「来たか」
僕の目の前で腕を組んで高圧的な態度を取っているのは双葉のお父さんで天槻家の当主、天槻臥竜だ。
正直めちゃくちゃ苦手だし。いい思い出もゼロ。
「お前も、双葉ももう高校生か」
そう言えば、今まで学校の類には通ってなかった僕も来月からは双葉と美海と一緒に『箱庭学園』という所に行くとこの前言われてたっけ。
「わかっているな。真実」
「はい。僕は、双葉を守ります」
「そう。守り抜けよ、何があろうと。何を捨てようと」
「はい」
……それだけ?
話は終わりだと言われ、後にした僕だったがなんで今更そんなことを確認したのだろうと疑問が拭えなくて。
「……箱庭学園。なんか、あるっていう事なのかな」
「あ。マコちゃーん!!」
「はっ!?ふ、双葉?」
「珍しいねぇ。こっちのお屋敷で会うなんて」
「そう。だな。へへ、はは……」
我ながら気持ち悪い。
好きな子に見せる態度じゃあないだろう。
でも、双葉は変わりない。いつも通りの、双葉だ。
「楽しみだねぇ。一緒の学校っ」
「僕は、覚えてる限り初めて、だか、ら。楽しみでは、ある」
「うんっ!!わたしも楽しみだよぉー」
近いから近いから!!呼吸もままならないくらいに動揺する僕をからかっているのだろうか。
……まぁ、ないよね。
「じゃ、じゃあね。双葉」
「それじゃあね。マコちゃん」
手を振る双葉に、手を振り返す。
もう。今日は良いことないと思ってたけど。あったわ。もう、幸せだ。
天槻家は、呪霊を成仏させる為の『呪禁』と呼ばれる技の才能がずば抜けている人が多く、だからこそ美海も引き抜かれた訳だが。
双葉には、才能がこれっぽっちもなかった。
簡易的な術も使えないし、まず呪霊が見えない。
それほど才能がなくとも、何故天槻なのか。
答えは簡単だ。
才能の無さに目をつぶれる程に力があるから。
呪禁を使う為に必要な『呪力』という言わばゲームのMPのようなものが桁外れなのだ。
僕が10だとするのならば、双葉は軽々と1000を超える。むしろ、それ以上かもしれない。
見えずとも使えずとも、その呪力で天槻家でいられる。
だからこそ、僕が盾になるんだけどね。
見えるし使えるけれど、天槻家でない僕が。
双葉を守る盾になる。
臥竜さんに言われずとも。
僕はもう、すでに覚悟は出来ていた。