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部屋にいた少女は

 一行は宿屋に戻り、ムギ、エル、カヤの3名はムギとエルが宿泊していた二人部屋に一旦戻って今後について話し合う事になった。


 宿屋の主人は存命であったが、ムギはとりあえず突き破って破壊した窓の件は後回しにすることにし、部屋へと戻る。


 しかしそこで不思議なことが起こった。

 ムギが部屋の中に入ると、荒らされたはずの室内は元通りになっているばかりか窓まで元の状態となっている。


 ぽかんとして突っ立っている目線の先には金髪の9歳前後と見られる金髪碧眼の少女がいた。


『エクセル……お前、これ直したのか!?』


『ええ、時間がありましたから……』


『呪文ってこんなにも万能なものだったのか……知らなかった』


『魔法で物を直すのと人の怪我を回復させる事は同じです。物質を生成して補填して紡ぐだけ……窓はシンプルな合わせ複層ガラスでしたから、飛び散ったガラス片から組成状況を読み取って窓枠に形状を整えて生成すれば良かっただけです』


『良かっただけって……』


 彼女が話したのは元来は錬金に関する領域の話であるが、この世界において錬金とは文字通り何らかの方法でもって金属などを生成することを言い、その方法は問われない。


 それらは元々回復と呼ばれる治癒魔法を編み出す過程で生まれたもので、たんぱく質から人や動物の細胞を生成して治療を施す方法が発展し、錬金へと進化していった。


 人の場合、細胞組成は細胞自体に染色体こと設計図があるからこそ、一旦万能細胞のようなものを生成してから傷ついた部位を修復していくことが可能だが、


 金属などで構成される構造物には特段、特殊な加工を施さない限り内部に染色体のような設計図などない。(設計図のようなものをナノレベルのサイズで封入する方法は地球文化には遥か先の話であり、メディアンのような発展した世界にしか存在しないが、窓など単純構造物にそのような加工は施していない)


 錬金とは、まずは自然界に存在する物質の組成表を見つけていくことから始まり、そこから医学的な分野を参考に合金精製や複合素材などの金属加工へと発展していき、今日のメディアンにおける加工業の礎となっていったわけだが、


 設計図に類するモノがない場合その修復は容易ではなく、エクセルは割れた破片を拾い集めて組成状況を掴むと、ある程度までは分子レベルで繋ぎ合わせて一気に修復し、


 足りない部分は「窓枠に合わせて」各種物質を適当なガラスや樹脂などのガラクタを道端から拾い集めてきてより近い組成に物質変換しながら合わせ複合ガラスを生成して修復を行っていた。


 傷ついたテーブルや壁なども、分子レベルで再接合を施したり形状を整えることで見事に一見すると壊れたように見えないよう整えていた。


 このような小器用な真似はそう簡単に出来るものではないのだが、彼女にはそれが可能な技術と才能があったのである。


 彼女がもっぱら用いるのは呪文。


 呪文はこの世界においては「既に時代遅れの産物」とされたもので、技術発展著しいメディアンの魔法事情においては、


 300年ほど前に魔導具と触媒を用いて発動する魔術の魔術触媒の双方にブレイクスルーが起き、両者共一気に高性能化したことで、


 魔力を体から放出しながら、声でもって大気中に魔術回路を組成して何らかの現象を発生させる呪文は、「いちいち一から魔術回路やら魔力変換機構パーサやら作り出すので効果を発揮させるために時間がかかる」と次第に廃れていった。


 現在、手放しの状態で魔法を発揮する上では呪文に代わって「印」と呼ばれる魔力を用いて手や指など、体を使って空中に上記のものを作り出して魔法とするものが主流となってきており、


 これは元々とある貧乏魔術士がコストがかかる触媒を減らそうと魔術の研究していた所、魔導具の強烈な進化速度に不安を抱いていた呪文師が目をつけ二人で協力して新たな魔法の形として誕生させたもの。


 誕生当時はまだ触媒を一切使わないという呪文の地位が不動のものだったので、昔からプライドの高さだけが自慢などと嘲笑される呪文師からは「邪道」「邪法」などと批判されたが、


 魔導が「ローコスト」「ハイパワー」「高速処理」と進化していき、魔導の技術を触媒に応用できる魔術もそれにつられて大幅に進化していくと、


 呪文師達はこぞって「印の使い手」になることを強いられ、今日へと至っている。

 印は魔導や魔術的な技術をフィードバックして高速処理などが行えるためだった。


 いわばTASに対するTASと同じ事をするRTAさんのようなことが才能さえあれば可能なので、当然にして高速化に難がある呪文は「浪漫」「格好付け」「過去の栄光」と笑われてしまう存在に。


 エクセルは印を使おうと思えば使うだけの才能はあるものの、「賢者」と呼ばれた偉大なる祖父にあやかり、声を用いた魔法、つまり「呪文」の進化系を見出そうと呪文に強く拘っていた。


 しかしこの呪文、例えば法や条約で禁止されているが天候を変える呪文であれば超一流の呪文師でも15分や20分平然とかかるので、これまでムギの旅にエクセルが活躍する機会は全くなかったのである。


 エクセルは才能こそあれどまだ未熟な部分もあり、上記呪文なら35分程度詠唱に時間がかかるわけだが、


 例えば大雨の中の戦闘時に天候を変更すると敵を倒すのに大幅に優位に働くと仮定してエクセルが唱えている間に、


 ムギがガストラフェテスでHVPを撃ち込むか、エルが一撃を加えるか、カヤが一刀両断してしまえばどうにかなってしまっていたので、ムギは彼女の能力の凄さをさほどよく理解できていなかった。


 これにはムギの戦闘力の要となっている魔導具と、それを生み出す職人「ロラン」の存在も影響していた。


 本人は「呪文書さえあればどんな呪文でも唱えてみせる」と主張していたものの、ムギから言わせれば「またの機会に……ね」と、今までは控えさせていたので彼女の能力に気づかなかったのである。

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