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黒の集団3(戦闘回)

 少しずつだがムギは敵の動きに対応しはじめる。

 素早い連携攻撃は有効打を与える事をさせなかったが、ムギが押し負けることは次第になくなっていった。


 攻撃は最大の防御とばかり連続攻撃でもってこちらの攻撃力を殺ぐのは戦いのイロハを理解しているとは言えたが、一方でこれが組織の者達だというなら「事前の情報収集不足」なのが顕著だといえた。


 ムギは少しずつ余裕が出てきたものの、敵側は先ほどの攻撃から射撃武器を封じるためにインファイトを仕掛けてきたため、攻撃力不足で倒しきれないでいた。


 すると突如、ヒューンという風を切った音がしたかと思うと、何かがムギの真横を通り過ぎて地面に刺さる。


 鈍い金属音がしたので一瞬目を向けると、見慣れた片刃の大剣が地面に突き刺さっていた。


 投擲された方角は先ほどムギが凄まじい威力の射撃を放った方向からである。

 まるでお返しとばかりに剣が高速で飛んできていた。


 その地面に斜めに突き刺さった剣の姿を見た黒い集団は何かを恐れたように散らばっていき、撤退を開始する。


 ムギはそれを一旦追おうとするものの、何者かが遠くから近づく気配を感じてその場に留まった。

 しばらくすると遠くに人影らしきものが見えたと思うと一瞬のうちにそれは移動して目の前に現れる。


『相変わらず無粋な武器だな……そいつは……』


『≪カヤッ!≫』


『お前が撃ちだした弾丸は処理しておいたぞ。またつまらんものを斬った』


 現れたのはやや青みがかった背中にまで到達する黒の長髪をポニーテールのごとく結んだ170cmはあろうかという少々長身の女性である。


 外見年齢は成人年齢に達したかどうか。


 名をカヤという自称「剣術士」を名乗る剣士であった。


『≪エクセル≫はどうした? というかお前、用心棒だっていうならもうちょっと早く登場をして――』


『安全な所にいる』


 カヤは無愛想にそう応えると、地面より愛剣を引き抜いてサッと剣を上下に振って土を落とし、背中に背負った鞘に収める。


 その鞘はバカッと中心線を境に両サイドに2つに割れて抜刀しやすいような構造となっていたが、

 剣を収めるとガションという音と共に封印されるがごとく接合状態となった。


 この状態だとこの剣は引き抜くことが出来ない。


 それは彼女なりに剣に対する誇りを持っている証であり、剣を安易に抜かないという剣術士としての心のありようを体現するもの。


『……負ける要素がないと思って遠くから見ていたんだが勝てる様子がなかったから助太刀した。……エル、貴様遊んでいたな?』


『ふん、遊んで何が悪い。ムギと旅をしてから今の今まで人とまともに戦うことはなかったのだぞ。確かにあの程度の防具なら容易に貫けたであろうが、魔物や魔獣だけでは面白くないのでな!』


 エルはイーッと子悪魔的な表情を見せて自己を正当化するものの、エルのそういった性格を理解していたカヤはやれやれといった様子でムギの方を向いた。


『な、なんだよ……』


 不満げな表情でカヤが見つめてくるため、ムギはたじろいだ。


『あの砲弾……HVPと言ったか? あれを使わずとも奴らは貫けたはずだ。あれの使いどころはもっと考えたほうがいい……つまらんものを私に斬らせないでくれ』


 HVP

 High Velocity Projectileの略。


 地球の現実世界にも新世代の弾頭として注目されつつある超高速弾頭である。

 別名「21世紀の砲弾」


 メディアンと呼ばれるこの世界ではすでに枯れた技術で割とポピュラーな砲弾であり、様々な方法によって射出できる極めて汎用性の高い弾頭ゆえの万能さが買われている。


 地球では元々レールガン用に開発された弾頭を火薬でも飛ばせるようにと改良して生まれた存在だったりするが、


 メディアンでは弾頭射出の方法はいくつもあり、むしろ火薬の方が消耗するエネルギーの割に威力が低いので射出方法としては好まれていなかった。


 ムギの持つランチャーは「様々な弾頭を大気と干渉する魔力という存在でもって押し出す」投射機であり、身につけた衣服と同じくロランが開発したもの。


 そしてHVPは最大威力を発揮させるためにロランが諸外国の公開された技術を参考に手作りしたものであるが、


 パーティ帽を引き伸ばしたようなソレは口径125mmの大型砲弾であり、現実世界に存在する5インチHVP砲弾と同等威力のもの。


 これを大量の魔力を消費して音速の10倍強という凄まじい弾速によって、ほぼ無反動で射出する。

 当然人に命中すれば地球人ならば塵となって消滅するが、元々対人用の砲弾ではない。


 そればかりか元々この大きさの砲弾は携行兵器のためのものではなく、固定砲台や浮遊砲台、自走砲といった類のためのもの。


 地球のとある有名なアニメの言葉を借りるなら「イージス艦の主砲並のものを携帯している」状態だった。


 これによってムギは極一部の者から「歩く自走砲」などと呼ばれて恐れられていたが、


 ガストラフェテスと名づけた投射機は射出時の魔力量を制御することが出来、また鉄粉やらそこら中に転がっている石やらを再精製して弾頭を構成する機構が組み込まれている。


 これによってHVPに拘らずとももっとエネルギー量を減らして敵に有効打を与える攻撃は出来たのだが、ムギはなぜかHVPを黒づくめの集団に用いようとしていた。


『悪かったよ。ああいう集団は俺のことを知っていてあえて挑んできていると思ったんだ。剣で有効打が与えられなかったから防御力に自信を持っていたのかと思ってさ』


 長大な射程を誇るHVPによってもたらされる二次的被害は洒落にならないものであり、HVPを用いた射撃は慎重にならければいけないわけであるが、


 ムギは一応二次的被害を考慮していたものの「使わない」という選択肢を選ばなかった事をカヤに詫びた。


――はぁ……なんで俺が金で雇っている用心棒に謝らなきゃいけないんだろうか……この関係おかしいよなぁ……。


 ムギは過去のミスによってカヤとの上下関係が曖昧で逆転すらしている事に空しさを感じつつも、一行は街へと戻る事へ決めた。


 すでに街には灯りが戻ってきており、彼らが立ち去って安全である可能性が高かったためである。


『ところでお前、普段、剣は雑に扱うなと言ってたが何で投げた?』


『そうすれば敵が逃げると思ったからそうした。不本意ではあるが切り刻んで力のありようを示すよりマシだ。ああいう奴らは私が何者をかを知っているから、剣の形を見せれば引き下がるものさ……事実、引いたろ?』


 ムギはガストラフェテスを見せても引き下がらないのになぜかカヤの大剣を見て引き下がった敵集団に違和感を感じつつも、


 「これが長年メディアンで活動するそこそこ有名な人間と、旅に出てから2年にも満たない人間の差か……」と肩を落としたのだった。

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