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黒の集団1(戦闘回)

『――そう、PATOLISとは直接関係がないわけじゃない。被害者のうち6社と9名は利用者だった。開発部門……≪リッキー≫や≪ロン≫にも調べさせているが、原因はわかってない。そうだ。何か仕込まれたわけじゃない。単純に先を読めなかったんだ……ああ、そうだ。開発者のプライドとして、俺がケツを拭こうってわけだ。後の手続きや方法は任せる。頼んだ』


 通話を切るとムギはふぅと息を吐いた。


『今のがソナタがいつも話すゴードンという男か?』


 そこへエルが近づいてくる。

 風呂に入っていたため、バスローブ姿でほこほこと全身から湯気を漂わせながら濡れた髪をタオルで拭いていた。


『ああ、うちのCFOだ。……内心不安があったけどおかんむりってわけじゃなかったな。きちんと訳を話したら理解してもらえた。まぁ、最悪俺の資産による補填ありきだからだとは思うけど……特損は絶対に許さないからな!――だってさ』


『会社経営というものはよくわからぬなぁ……我には』


 エルはそう呟きながら、なぜか天井の方へとやや顔を横に向けながら視線を送る。


『いいのいいの。気にしないで。エルがいてくれるだけで俺は体が軽くなるんだから――……ッ!?』


 ムギはその様子に特に気にかけていなかったが、

 突然、室内の明かりが消え、辺りが暗くなる。


 すかさず窓の外に目を向けたムギは周囲一帯が地球でいう停電状態のようなものを起こしていることに気づき、すぐさま装備を整えた。


 エルはバスローブ姿から一瞬のうちにムギには理解できぬ謎の力によって衣服を転送する形で身につけ、そして「フフッ」と唇を緩ませながら素早い動作でホテルの個室のドアへと向かっていった。


 そこに敵の気配を感じ取っていたのである。


 商談などに全く興味がない少女だが、原初の神の一人だけあって争いごとは大好きなのである。


 ――まずいな……あいつら2人にまだ何も説明していないのに奇襲を受けるだなんて……相手の方が動きが速かったぞ……。


 ムギがそのような事を考えて一瞬のスキを見せたその時である。

 宵闇の星の輝きに照らされた室内のテーブルの影から、一瞬のうちに何者かが飛び出してきた。


 その黒い見た目の何かは、篭手に内臓された爪のような武器でもってムギを突こうとするものの、

 ムギは反応良く腰に帯刀していた片手両手兼用の剣を左手で抜刀。


 鞘から半分出した状態で敵の突きを防ぐ。

 防いだ瞬間、火花が散った。


『ムっ、影移動の魔術……魔導具か!? 我を出し抜くとは……やるのう!』


 その光景を見たエルは「喧嘩じゃ喧嘩ぁー」とばかりに嬉しそうな表情を浮かべながら、すぐさまムギと交戦中の敵と見られる者を背後から攻撃しようと飛び掛ろうとしたが、


 1歩前へと体を進めた瞬間、エルの背後から4名の同じ格好をした者達がどこからともなく出現して飛び掛ってきた。


『後ろだッ!』


 ムギは敵の両手による攻撃をメインウェポンの1つである片手剣と、緊急用サブウェポンである光の剣で防いでいたが、すかさず注意を送る。


 その間、ムギは左手に保持する片手剣にて、敵の攻撃を弾いて敵の胴体めがけて斬りかかるものの、ガギッという鈍い音と共に攻撃は弾かれてしまう。


『チッ』


 そこで初めてムギは対敵した者が全身防具を身につけていることを理解した。


 一方のエルはムギが注意を送る前には反応しており、後ろ回し蹴りで4名に対応すると、そのまま突進してムギのいる方向へと進み、


 ムギに掴みかかる形でいる黒い謎の敵を腰に下げた短剣を逆手で素早く引き抜いて横なぎに攻撃して退かせると、ムギの肩を抱きかかえる形で窓を突き破って外に出た。


『ここは狭過ぎる。外で応戦だ。よいな?』


『窓代は俺が弁償することになりそうだ……宿屋のオーナーが生きていればの話だが……なんだあいつらッ、今までこんな奇怪な戦法をとる敵に遭遇したことがないぞッ』


 窓を突き破った二人は隣の家の屋根に飛び降り、そのまま屋根伝いに街中を駆け抜ける。

 町全体は暗く、何らかの魔術か何かを駆使して故意に暗くしている様子であった。


 ムギは後ろから非常に素早い速度で追いかけてくる集団の人数が8人であることに気づくと同時に、連携の取れた動きで挟み撃ちを狙っている様子から「間違いなく何かの組織に属している戦闘集団」と認識する。



 腰にぶら下げた水筒のような形状の魔導カートリッジと呼ばれる魔力を蓄えた電池のようなものに触れて魔力を開放して体内に魔力を注ぎ込む。


 注ぎ込まれた魔力によって身体能力を向上させ、必死で屋根を走って逃げるムギは急ぎながらも小型情報端末を展開。


 地図情報を見て、開けた場所まで最短で移動できるルートを探った。


 こういう時、魔物や山賊、盗賊の類ならばPATOLISは相手の情報に応じて生存率や回避ルート、有効な戦術などを探ることができるが、データ蓄積のない正体不明の何かに襲われていることから「緊急回避」だけを提案してきている。


 しかし生存率は「72.66%」と高めの表示。


 先ほどの戦闘でムギの動きと敵から受けた攻撃時の威力などを衣服内に内蔵された加速度センサーや筋力感知センサーなど様々な情報から読み取った複合的なデータから「現在の概算値」としてそれを表示している。


 特にその数値を引き上げている要因はエルが近くにいること。

 圧倒的身体能力を持つエルと出会ってから、ムギの生存率は非常に高く表示されるようになった。


 エルには同じような超小型端末を持たせていたのだが、それによってムギとの端末はリンクして演算されるようになっており、彼女は一定距離内にいる場合、時には70%以上も生存率を上乗せすることがある。


 とある事情により神としての力を一切行使することが許されていないエルは素の状態でもそれだけの実力を持っていたが、PATOLISは簡易的で局所的なデータから今回においても「エルなら負けない」と判定していたのである。


 屋根伝いに駆け抜けながら鬼ごっこの要領で「はっはっはっはっ」と可愛い笑顔を散らす少女の戦闘力は侮れなかった。


 死亡率の27.34%はムギが何かポカをやらかして死ぬ計算であり、彼女の生存率は100%を示していた。


 といっても数値はあくまで先ほどの奇襲時だけで算出したもの。

 彼らが100%の実力は出しているとは考えづらく、ムギはそれを参考としながらもそれだけを信じるわけではなかった。


『エル、こっちだ! こっちから街の外に出られる!』


 ムギはエルに声をかけて呼び寄せながら最短ルートで街を出ようと駆け抜けた。


 ――野郎共は外で決着を付けてやる……しっかりついて来いよネズミ共……。


 その動きを見た顔すら隠す8人の黒づくめの集団は、2人が両サイドからムギとエルの前方を塞ぐ形で挟み撃ちにしようとし、4人が後ろから追いかけ、残り2名が両サイドでムギとエルの進行方向を変えぬよう圧力をかけている。


 ムギはその様子を見ながら、街を構成する側壁へと屋根伝いから飛び乗ろうとした。

 エルも後に続く。


 その瞬間、前を走っていた2名は前方を塞ぐ形で左右から飛び掛ってくるものの、ムギもエルも一旦滑り込む形で前方にいた者達からの攻撃を回避し、側壁へと飛び乗った後に城壁を滑り落ちながら着地し、街の外にでる。


 8名の者達は追跡を継続したのだった――

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