ストゥルフの鎧(戦闘回)
ムギが地面に埋まってしばらく何も起こらなかったため、トラウトは要塞へ向けて戻ろうとする。
その時であった、地面の方から衝撃音が聞こえると、巨大な土煙が立ち上がって何かが飛び出してくる。
空中に飛び上がったそれは、太陽に照らされて強烈なまでの輝きを放ち……そして着地した。
その姿を見たトラウトは目をまん丸に見開いて硬直してしまう。
それは毛皮のマントに衣服やその他を包み込み、風呂敷のように片方の肩にかけた妙な姿ではあったが、
剣を腰に下げ、まるで勇者のごとく屈強で気品のある豪傑であった。
『ストゥルフの鎧……だと……』
『アンタが怯えるってことはストゥルフは俺を見放さなかったらしい。お前らがなにをもって行動して世界の裏に潜む天秤を動かそうとしたかは知らん……だが、天秤を無理に動かそうとすれば揺れ、安定を取り戻そうと反対側へと一旦傾く……つまりはこれがそうだ……これがお前らの……宿命だ』
その声は合成音声のようになっており、ムギとは思えぬ声色であったが、
トラウトは構えなどからムギであることを見抜いていた。
バリアブルアーマー。
ムギが身に着けた衣服も同じような技術を用いて作り出されたものだが、金属や複合素材を用いて防御力を確保した上で、その重さを相殺するために内部に人の動きに合わせて可動する第二の筋肉とも言えるフレームを設けたパワードスーツ。
あまりにも製造コストがかかり、エネルギーの消耗量が高い事から列強の先進国などを中心にしか利用されないが、かつてのストゥルフにも極少数が配備されていた。
ムギが着込んだソレはナクルロが探していたストゥルフの秘宝の1つであり、そしてトラウトはその鎧がただの精鋭部隊用の量産型の鎧でない事を知っていた。
『キサマが! キサマガッ! そんなものを! 皇帝が認めた者だけが着ることを許されるストゥルフの勇者の鎧を待とうなァァァァ!』
トラウトが激高した様子で拳を振るうと、ムギは一気に詰め寄る。
『気道……柔ッ!』
先ほどよりも数段上昇した威力の影響でトラウトは吹き飛び、そして融解した瓦礫の山を滑っていった。
『バリアブルアーマーを身に着けるのは二度目だけど……こりゃ凄い、気道の魔力の流れを読み込んで鎧内のエネルギーを制御して威力を増幅させられるのか……』
――だが時間が無い……今ので使い捨て魔力カートリッジを1個消耗した……ガストラフェテスを使うのと変わらんか……。
本来ならバリアブルアーマーは鎧内部に魔力を蓄える機構が備えられていたのだが、残念ながら長年地面に埋まっていたのか完全に消耗しつくしていた。
ムギは充填方法がわからないので、使い捨ての魔導カートリッジを用いて外部から魔力を供給させている。
緊急時のためにそういう機構が用意されているというのはロランの店で働いている際に教えてもらっていた。
バリアブルアーマーはロランの店にも安価な中古品が置いてあったが、ムギは「エネルギー消耗さえどうにかなればなあ」と欲しがった上、
1度着込んだ事があり使い方は大体わかっていたのだが、トラウトが「ストゥルフの鎧」と呼んだそれは操作方法が国際規格であり、特殊な使い方は必要ないものであった。
おかげでムギはその鎧の力を100%発揮できる状態にある。
それを理解したムギはザ・ウーを収刀していた所から再び抜刀すると、トラウトめがけて飛び込んだ。
動きが鈍いトラウトの素手による攻撃を回避しながらザ・ウーを鎧によって大幅に増幅した力でもって地面に突き刺すと、有り余るパワーでもって切り上げながら、彼の胴体を切り裂く。
そこで初めてトラウトはダメージを受け、胴体には刃物でえぐった大きな傷が出来た。
だがその程度ではビクともしないとばかりに再び構える。
『トラウト、アンタ実は近接攻撃苦手だろ? 本来お前らは連携して戦うタイプの人間だな。お前の攻撃の威力は確かに高いが、どれもこれも発生動作がトロいからよほどの事がない限り避けられる。エルが名前もわからん人間を追い詰めた時点で、お前と俺が勝つか負けるかは五分五分だ……』
ムギは時間さえ稼げればエルという援軍が来ることはわかっていたので、実際の勝負はエルが最も危険な能力を持つ者を追い詰めた時点でどちらに勝敗が傾くのか不明だったと言いつつも、
ザ・ウーを用いた連続攻撃でもってトラウトの足を切り裂く。
さすがのトラウトもバランスを崩して地面に膝をついた。
『おい、あれって!』
『間違いない! ストゥルフの英雄が復活して、化け物を追い詰めているぞ!』
『やれえ! やっちまえそんなヤツ!』
『ストゥルフの英雄は生きてたんだ!』
白金に光り輝くその鎧はスタンダール国民すら知る伝説の代物であったらしく、
静かに状況を見守っていた者達がムギへむけてエールを送り始める。
『ぬうぅ……このストゥルフ三従士たる私よりも……勇者の鎧を纏うただの移民者を応援するというのか……』
その状況にトラウトは苦しみながらも不満を露にする。
『……無害の市民を平気で巻き込むような奴が、ストゥルフの国を語るもんじゃない……』
ムギはあえて英雄を演じる。
このままだと英雄らしくないと考えたムギは、ザ・ウーを収めると……静かに光の剣ことロランの剣を抜き出した。
――一応、説明書を読んだけど、威力最大の状態の消耗半端ないらしいな……持ってる魔導カートリッジを全部開放して一気にケリつけるしかないか……
ムギは光の刃を出すと、刃の長さを最大の状態で固定した。
消耗の激しい光の剣は普段、敵の攻撃に合わせて長さを変化させながら攻撃するエネルギーセーブ機能が施されている。
斬るまたは受ける瞬間だけ刃が出るようにしているが、ムギはあえてその機能をオフにした。
その上で、新機能を発動させる。
するとみるみるうちに魔導カートリッジが消耗して大量の魔力が手に持つロランの剣へと注ぎ込まれる感覚をムギは掴んだ。
ムギは脇構えにて構えると、トラウトも身構える。
勝負は一瞬であった。
衝撃波を繰り出して距離をとろうとしたトラウトであったが、突然空中で発生した閃光によって目がくらみ、一瞬躊躇してしまう。
ムギもその光を横目に目撃したが、逆光となる形であった上にストゥルフの鎧によって良好な視界を保っており、そのまま突撃してトラウトの胴体を泣き別れさせた。
切断面は黒ずみ、まるで高熱で溶断されたような状態となっている。
これこそロランが考えた新機能。
ザ・ウーと異なって剣としての誇りを捨て去り、攻撃武器として特化させた機能。
一部の魔力を気体に変化させ、さらに高熱にして刃の外側に高速で循環させる。
これによって切断能力を大幅に向上させるが、それは完全に「剣」と言えるものではなかった。
だがロランはザ・ウーが求めた高貴なる姿を保つ剣の道ではなく、どんな剣術素人でも相手を切断できる力に拘り、気品のある見た目だけ残した邪の道を自身の作った光の剣に歩ませたのだ。
ザ・ウーを持つムギだからこそ、ザ・ウーと相反するもう1つの武器があってもいいと考え、光の剣を昇華させたのだった。
無残にも胴体が泣き別れしたトラウトはしばらくの間は息があったものの、最後までムギを睨みつけたまま絶命し、
ムギは先ほどの閃光によってエルの方も決着がついたなと考えつつも、要塞の方へと戻っていった。
魔導カートリッジは残りも少なく、これ以上の戦闘は不可能に近かったものの、鎧はあえて捨てず、そのままの格好で素早く戻っていく。
これこそ後にスタンダールで語られる「ストゥルフの英雄の裁き」であった。




