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郊外での戦闘(戦闘回)

 名前も不明な唯一の人間を追跡するエルは閑静な住宅街に到着する。

 そこで敵の男が制止したためであった。


 そのまま一撃を繰り出そうとした所、またも体が動かなくなる。


 背を向けていた男は一瞬の間に間合いを詰め、そしてエルに強烈な拳による一撃を浴びせた。

 エルは攻撃を食らった瞬間に吹き飛び、そして付近の2本のポールによって支えられた道路標識のポール部分に激突する。


 道路標識は非常に頑強な金属製のポールに支えられていたが、それがぐにゃりと簡単に曲がってしまうほどの威力であり、あまりの力に耐え切れず破断。


 そこで運動エネルギーを使い切った状態となり、エルは巨大な道路標識の下敷きになった。


『終わったな……案外時間がかからなくて正直言ってホッとしている……あまり時間をかけるとまた状況が変わってくるからな……』


 しかし、しばらくするとガラガラと瓦礫が崩れる音がした。


『なにっ!?』


 そこにはほぼ無傷で立ち上がるエルの姿。

 まるで事態が飲み込めない男は戦慄。


『馬鹿な……間違いなく手ごたえはあった……一体なぜだ!?』


 立ち上がったエルはそろーりそろーりとゆっくり近づいてくるので、男は再び何らかの力を発揮し、エルの動きを止める。


 止まったのを確認した男は再び間合いを一気に詰めた。


 その刹那、エルは待ってましたとばかりに動き出し、強烈な蹴りを腹部に食らわせて男と吹き飛ばした。


 その力は先ほど男が放った一撃よりも重く、男は路上駐車されていた車まで吹き飛ばされ、何台も巻き込みながら運動エネルギーを消耗していく。


 エルは余裕のそぶりを見せ、再びスタスタと歩き出した。


『なんてことだ……』


 男も何とかダメージを最小限に食い止めた様子であり、自身にのしかかった車を吹き飛ばすと、立ち上がった。


『まさか……この私に与えられし神の加護を突破できる者がメディアンにいたとは……』


『大した事ではない。魂と肉体の接続を弱めて行動を制限する。驚くほどの技術ではないのう』


『ほう……仕組みを理解できるのか……』


『(もう少しであやうく神力を使ってしまうところであったが……)なに、仕組みさえわかればちょっとした魔力制御の応用だけでどうにかなるものだ……もうその手は使えぬなあ?』


 エルはニヤリを笑いつつも、「まさか与えられた神の加護はこれだけではあるまい?」とばかりに相手の出方を伺った。



『ならば……ぐおっ』


 先ほどから行っていた高速移動により一瞬で背後を取った男であったがエルのほうが先に行動しており、エルは座標移動を用いてさらに相手の背後をとって空中から強烈な飛び回し蹴りを頭部に食らわせて地面に叩きつけた。


『ふふ……』


『今のは効いた。だがどうやって……この私にも詠唱や印を作る様子はまるで見えなかったぞ……』


『神の加護というやつだ』


 エルは腕を組みながら速攻魔法について自慢する。

 それだけでなく自身の持つ気配を探知する力も併用したことで相手の攻撃を先読みしていたのだが、そちらについてはあえて言わなかった。


『何……お前も似たようなことができるのか』


『我も?』


 男はそう言うと何らかの方法でもって一瞬で移動し、エルの顔に拳による一撃を放つ。


『うぐっ……貴様もか!』


 スリッピングアウェーにてダメージを最小限としたことで脳震盪を回避したエルであったが、

 すぐさま敵が再び背後に回って蹴りの一撃を食らう。


 吹き飛ばされた一瞬を突いて追撃を食らわす男であったが、エルは座標移動で攻撃を回避。

 その後は互いに連続して高速移動をしながら攻撃を繰り出すも、どちらも攻撃を当てられずに魔力を消耗していく。


 しかし高速移動している間に人の多い繁華街にまで来てしまったエルは、それを気にして隙を見せてしまい、男の蹴りによって空中から路面電車へと吹き飛ばされた。


 強烈な音と共に脱線する路面電車。

 エルは外板を突き破って内部にまで押し込まれ、そこでエネルギーを消耗して座席に押しつぶされるような状態で停止した。


 幸いにも時間帯が時間帯だったために乗客は少なく、エルが吹き飛んできたことで直接負傷した者は出なかったものの、車内は脱線したことで頭や足をぶつけた乗客がその部分を押さえつつも痛みに喘いでいた。


 男はさらに追撃するために路面電車に近づき、外板をグニャリを曲げながら侵入する。

 そこには様子を見かねた運転手がエルに近づいて「大丈夫ですか!」と声をかけていたが、


 そうなった原因と見られる男が侵入してきたため、運転手は「何をやってるんだアンタ!」と果敢にも立ち向かってしまった。


『そやつに近づくでない!』


『ウルサイぞ。スタンダールの負け犬共……』


 エルの叫びも空しく、運転手は男の拳による突きによって胴体を貫かれてしまう。


 さすがのエルもこれには立腹したのかすぐさま立ち上がって男を吹き飛ばしたが、復元魔法はムギと自分にしか使えない誓約を誓っていたので、周囲に対し――


『はよう傷を塞げ! 回復魔法が使える者を見つけよ!』


 と言って車内から飛び出していった。


 吹き飛ばされた男は商店の壁に捕まってエネルギーを相殺するとクルリと鉄棒競技選手のごとく腕の力でもって回転しながら飛び上がって屋根の上に登り、エルの接近に備える。


 お互いに魔力を消耗していた影響かどちらも瞬間移動の類は使わず、その身体能力を活かした方法によって接近するとインファイトに興じた。


『信じられん…エルフの小娘ごときが、この私とパワーが互角だと!?』


 エルはもはやかける言葉無しとばかりに拳による連撃を繰り出すが、魔力で身体能力をさらに向上させているとはいえその力は完全にその男と同等以上であった。


 二人は互いに攻撃を繰り出し、お互いにその肉体に攻撃を受ける。


 そして互いに一瞬力を溜め、お互いに拳による攻撃を繰り出したことで二人とも吹き飛ばされ、エルはすでに人が住んでいない廃墟となった空き家の屋根の上に着地した。


 男は教会と見られる場所の鐘のある小さな塔の上に着地する。

 男がそこからエルの方向へ向けて塔の壁を蹴って飛び掛ると、エルは信じられない行動を起こした。


 一旦地面に着地したエルはレンガ製の煙突の根元を破壊すると、煙突を持ち上げて敵に向かって投げる。


 『空中で体勢は変えられまい!』


 先ほどから空中を浮遊するようなそぶりを見せなかった事を見抜いていたエルは渾身の力でもって煙突を投げ、さらに空中に飛び上がって煙突に手を触れたまま男に接近した。


 男はその煙突を蹴って自身の軌道を変更しようと試みるも、煙突の側面に取り付いたエルは魔力を用いて煙突を吹き飛ばし、野球のバットでスイングするがごとく男を吹き飛ばす。


 しかし吹き飛ばされた男はその場からどこかへと消えてしまった。


 吹き飛ばされた方向に向かって一気に移動したエルはそこで地面に手を当て、感知の力を発揮して男を追おうとするが、男はなにやら周囲を駆け回っていて何かを探している様子があった。


 エルは「まだ攻撃をしてくるか……ならば……」と小声で呟きつつ、誰もいないゴーストタウンと貸した住宅街の広場にて留まった。


 しばらくすると周囲が暗くなる。

 エルが見上げると、どこからか路面電車を抱えて空中から落下させてくる男の姿があった。

 

 それも路面電車がまるでおもちゃのごとく小さく見えるほどの高さに男はいる。


『押しつぶれろお!』


 エルはその路面電車の中に人がいないのを見定めた上で、手からなにやらエネルギーを放出し白熱に発光するエネルギー球を作るとそれを地面に落としつつ、一気に蹴り上げた。


 ミニマムノヴァの速攻魔法である。


 この魔法は手から放出すると動きが遅いので、エルは蹴って飛ばす癖があったが。、

 エルの強烈な蹴りによって加速したエネルギー球は空中で路面電車にぶつかると、凄まじい大爆発を引き起こした。


 その爆発はガンドラで確認されたものよりも大きく、ムギからも見えるほどのもので、

 それを見たムギは「ああ、間違いなく死んだなアイツ」と思えるほどの白い閃光であった。


 エルは街に被害を与えないためにミニマムノヴァの使用を控えていたが、最後の最後で油断した男が空中に飛び上がって自由落下による質量攻撃を試みた事で使用可能となり、街の空を白い光が覆うぐらいの凄まじい爆発による攻撃を繰り出したのである。


 当然男はその凄まじいエネルギーによって路面電車ごと消失し、その日は曇りであったが、爆発後は雲が吹き飛ばされて街の周囲は青空となっていた。


 ポッカリと円の形に切り開かれた雲の隙間から覗く天使の階段の中心に、美しいエルフの姿がいたのだった……


『もう少々弱い魔法を選択しておくべきであったかのう……』


 エルは最小エネルギーで攻撃を放ったわけではなかったが、

 少しでも感情的になって魔力を込めると街1つ吹き飛ばしかねない使い勝手の悪さに、唯一の攻撃魔法にミニマムノヴァを選んだ事を後悔しながらも、ムギのいる場所へと戻っていくのだった。

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