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初めての座標移動とリッテルダムの秘密兵器

 翌日早朝。

 ムギ達はブライアンに連れられる形でガンドラからスタンダールへと向かった。

 ここでムギは初めて「印」という存在を目にすることになる。


『航空機でもいいんですけどね、今は時間が惜しいので……500km規模になるとこの人数だとものすごい出費になるのですが致し方ありません』


 ブライアンはリスクなども考慮して座標移動を選択。


 座標移動。

 莫大な量の魔力を消費するため移動距離にはある程度限界がある。

 仕組み上距離が伸びれば伸びるほどに、運ぶ体積が増えれば増えるほど魔力消費量が増大した。


 座標移動に重量はさほど関係ないらしく、重要なのは体積。

 体積が大きければ大きいほど消費魔力は増大し魔力制御も困難となるが、基本的に人のサイズを越えると座標移動の移動可能距離は大きく減退する。


 メディアンにおける座標移動は人換算すら一度に1000km前後が限界と言われ、それを越える超長距離座標移動を行える者は極限られているという。


 一般的に座標移動は「呪文」「印」「魔導具」「魔術」全て可能となっているが、

 魔導具は消費魔力が高いため携帯できるタイプでは短距離移動しか行えず、一時的な攻撃回避や戦闘回避などに使うような存在であり、


 街中には有料で他の街へと結ぶ魔導具による座標移動サービスならびにスポットがあったが非常に高額で常用などまるで出来ない代物であった。


 今回はリスク考慮の観点からそちらを利用する事は避け、ブライアンは印による座標移動を行う事にしたのだ。


 印の使い手の中でも「最も稼げる」と言われるのがこの座標移動の仕事であり、魔力は外部からの供給を受ける形としながらも、他者や荷物を転送するだけで冒険者などやらずとも3年もすれば家を買ってどこかに永住できるほどの富を得ることが出来る。


 ただしそれは「人間換算1人」ならば500km~700km程度の座標移動が連続で可能な魔力制御に長けた者の事であり、各国ではこれを可能とする者に国家資格を与えて業務に従事させることで業態の品質管理を行っている。


 なまじ失敗すると死ぬ可能性もある事から、資格を持たぬ者が国家が定めた地域内で「業として」金銭享受を受けて活動することは禁じられている。


 座標移動の魔法を使うだけなら問題はなく、資格を得た者だけが定められた場所にてまるでタクシーや宅配便のごとく人や物を転送する仕事に従事することが出来るわけだ。


 魔導具よりも印の方が各種処理における魔力消費量が少ない事から、金額的には印を用いた座標移動の方が現状では安くポピュラーである。


 複雑な処理が行えるようになってきた魔導具だが、あまりにも膨大な魔力を消耗しつつ複雑な処理の場合は人の手による方が早く魔力消費量も低いというケースがあり、座標移動はその典型例である。


 ブライアンが準備したのは当然正規の職についた者による転送。

 ガンドラにて働く「転送屋」などと言われる印の使い手による座標移動。


 ブライアンに連れられた先は巨大な魔力タンクとも言うべきものがある小さな空港のような場所であり、税関チェックなどを経てから印の使い手によって移動することが出来るようになっていた。


 ムギは事前にブライアンにエクセルについて話をつけていたが、元来エクセルは身分を隠しているのでこういったサービスを受けることは出来ない。(徒歩での入国自体は出来なくもない)


 しかしVIP待遇という形で出国の手続きや入国の手続きを回避することになった。

 これにはムギ達を狙う者をかく乱させる狙いもあった。


 ブライアンによって裏手の方から建物に入ったムギは印の使い手のいる「出発点」と呼ばれる場所に到着する。

 そこは何もない空間で、周囲には大小様々な空中に浮かぶ光る石が漂う場所。


 ムギは事前に説明を聞いていたが、これらは1000km圏内にある別の地域の到着点から座標点を取得して出力し、術者に転送するシステムなのだという。


 転送先の場所が1箇所ではないのでこのような大型のものとなっているらしい。


 印の使い手は出力されてきた情報を使って座標点を自動指定、後はあくまで「座標移動」を行うだけであるが、1日に何度も座標移動させるので極めて高い精神力をもっていないと身が保たない。


 そういう意味でも資格制度が存在しなければならない理由と、さらに彼らの報酬が非常に高額なのも頷けるというものだった。


『特に緊張する事はありませんよ。目を瞑ればすぐスタンダールですから』


『は、はいぃ……』


 ムギの転送担当は女性であった。

 身なりは転送者として定められた制服であり、なぜかサングラスをかけている。

 話によると魔導具などが稼動時に非常に強い光が周囲にきらめくので目の保護のためだそうだ。


 ムギ自身も目を覆う使い捨てのサングラスのようなものを受け取っており、後は転送されるだけだったのだが、なにぶん「瞬間移動」とか「ワープ」の類は初体験。


 地球にそんなものはない。

 アークより受け取った真のアークの印は地球関係の情報をいつでも抜き出せるようなことができる面白い仕掛けが施されていたが、そんなものは現時点で存在しなかった。


 ミレニアムファルコンとか、エンタープライズ号のようなものは無いのだ。

 当然緊張しっぱなしであり、体温はいつにもまして低くなっていた。


『では、出発時刻が迫ってまいりましたので準備に入ります』


 女性の印の使い手が静かにつぶやくと、彼女の手が光りだす。

 魔力を放出していた。

 そこから彼女は空中へ向けて手を動かし光のうねりのようなものを発生させ、うねった光は文字のようなものを形成する。


 これが「印」である。

 周囲の座標出力用魔導具が光りだすとまばゆい光が彼女に向かって照射される。


 ――これが座標転送か。後はこの人は座標移動だけすればいいんだよな……。


 ムギはその光景を目を見開いたまま見ていたが、

 印の使い手はものの数十秒で印を構成する。


 浮き上がった古代文字のようなものはそれらが「魔術回路」となっており、後は魔力を注ぎ込んで発動するだけで転送できる状態となった。


 女性は空間に投影された時計らしきものを見ながら定刻どおりの出発を試みる。

 到着点では盛んに他の人も到着してくる為、世界単位で時刻を調整して転送を行うのだ。

 この辺りは航空機や電車といった存在となんら変わらない。


 物品は物品専用の出発点と到着点があり、人との混同はしない。


 この事業が開始された頃まだ印という存在はなかったのだが、人と物も混同して出発点と到着点を用意していて同時に同じ場所に転送されたことで事故が起き、


 小さい物品が到着者の体内に転送されてしまったとか、大きな物の中に人が転送されてしまったというような事が起きた。


 この頃は現在のように「転送先に風の魔法による強風」を発生させて障害物を排除するという発想がなかったのも影響したが、現在はそれによってさすがに上記のような悲惨な事故はある程度回避できるようになってきている。


 それでも当然そんなお粗末な事になって事故などを発生させられないため、各地の転送地点はネットワークを介して出発時刻などを設定、印の使い手にその時刻通りに転送するようにさせている。


『出発時刻まで後8秒。7、6、5……』


 いよいよその時刻が迫ってきたのでムギは歯を食いしばりながら両手に力を込めた。

 散々「力を抜いてください」と言われたのにまるでそんなことを忘れてしまうほど「怖い初体験」だったのである。


 一方の印の使い手の女性は左手で何かを握っていた。

 取っ手のようなものであるが、その先にはパイプのようなものがあって地面に接続されている。


 魔力を外部から取り寄せているのである。

 基本的に膨大な魔力を消費する座標移動は外部からの魔力の供給なくしては発動できるものではない。

 ましてや1日に彼女が転送する回数は10回や20回どころではないので自前の魔力では足りない。


 女性は右手で印が崩れないよう維持し、左手より魔力を取り寄せながら発動の時を待つ。


『3、2、1、GO it!!』


 目の前が青い光に覆われたかと思うと、次の瞬間どこかに到着していた。

 周囲には到着時に障害物を吹き飛ばすための風が吹いた影響でグオオオと空調が稼動して気圧を整えている。


『A70821便 ムギ・リーンフィールドの到着を確認。出口が開くまでしばらくお待ちください』


 空中からアナウンスが聞こえたのだが、それは本当に一瞬だった。

 考える間も与えないほど一瞬でムギは500kmもの距離を移動してきたのだった。


 係員によって扉が開かれると外に出る。


『ようこそ、スタンダールへ!』


 男性の係員にかけられた声によってようやく己が移動してきたことを自覚する。


 普段ずっと旅をしてきたムギはこれまでの旅の中で1つの都市における滞在が最長とも言える期間の間ガンドラで過ごしたが、


 ついにスタンダール王国最大級の都市にして首都であるスタンダールに到着したのだった。


 ~~~~~~~~~~~ 


 10分もしないうちにブライアン含めた一行も合流。

 この500kmの一瞬の旅の費用は地球で言えばコンコルドを使うのと同額クラスである。


 500kmでの移動は1人あたり地球の日本円換算で70万円。

 スタンダールの平均月給の4倍近くの額であった。

 無論全ての費用は国家安全保障調査室持ちである。


 ムギはこの場所で別にある品を取り寄せる予定になっていた。


 ロランからの送り物「ロランの剣改」こと光の剣である。

 ガストラフェテスは1から組み立て中のためまだしばらく時間がかかるとの事だがこっちは完成しており、ロランが手配してセンターズサークルから何度も転送を繰り返して先に到着していた。


 小物のため消費魔力は大幅に低く日本円換算で20万円程度。

 それでも十分高額であるが、4000km近くの距離をわずか20分で移動してきたことを考えると破格とも言える。


 物が小さければ小さいほど「空輸」より安くなるのが座標移動による転送の利点であった。


 ムギはそれを受け取るとロランに対して連絡をとった。

 お礼を述べるとロランは「調査が終わったので連絡しようと思っていた」と伝えてくる。


 ヒトデの残骸は空輸という形でセンターズサークルまで到着していたが、特に強奪される事などはなかった様子であった。


『例のお前がヒトデとか言ってた兵器のことだが、とりあえず口の堅い専門家の力も借りて調べてみた』


『何がわかった?』


『内部に生物由来と思われるたんぱく質などが確認できたが、熱で融解しちまってよくわからん。生卵が目玉焼き状態になったようなもんだ。ただ間違いなくそういった類のヤバげな兵器だわな。条約じゃ禁止されてるからメディアンじゃ殆どの国が加入してて表向きは開発すら許されていない』


 ――エヴァとか使徒とかそんな類かな……それぐらいの技術はこの世界なら普通にありそうだが……。


『わかったのは複合装甲だ。これは先進国でしか採用されてない最新鋭のもんだ。しかもその形状はリッテルダムの主要兵器と酷似している点がある……』


『リッテルダム? 永世中立国を謡う列強かつ先進国の? 馬鹿な……なんでそんな国が』


 ムギの疑念は深まった。

 表向き「戦争に関与しない」と言われているリッテルダムがストゥルフ地方を混乱させるためにそのような兵器を送り込む可能性は低いばかりか、それが判明したら国際問題となるのは必至である。


『リッテルダムはさっき言った条約に非加盟で昔から倫理観ガン無視の兵器を開発しているが、永世中立国のせいで実戦運用が出来ないからな……各地にそういう兵器を売り込んでデータ収集に勤しんでるってのは有名だ。代理戦争をやる気はないとの事だが実際はどうやら……まあ割と公平にどこの国にでも自国の兵器はうっぱらってるから同じ兵器が異なる国同士で衝突したケースもある』


『争え…もっと争え…みたいな感じ?』


『まあ最終的には自国の防衛が主だから、そういう傾向が強い兵器が中心で案外使いにくかったりする事が多いんだがな』


『なら恐らくリッテルダムで合ってるはず。俺はヒトデの武装構成から拠点防衛用兵器だと思うんだ。戦闘時の記録も添付してたけど見たか?』


 ムギは手紙と一緒に仕込んだ戦闘時の映像データをロランに転送していた。

 これにより、ロランはヒトデの現物もムギ視点という形で見ることが出来た。


『ああ、間違いなくそうだと俺も思う。対魔獣用の拠点防衛用兵器……これが正解だろう。リッテルダムがそれっぽいモン開発してるってニュースも出てるから現物だろこれは』


『なるほど……大体わかった。一連のブツは指定した場所に全部運んでくれ』


 ムギは調査が終わった後はブライアンを通してスタンダール軍に引き渡す取引をしているため、ロランにそちらへ運ぶよう指示する。


 盗聴の可能性などからあえて「スタンダール」とは言わなかったが、送り先はロランにすでに手渡していた。


『あいよ。じゃ、またな…おっとそうだ。わかってるとは思うが光の剣がどう強化されたかは同封した簡易説明書を見といてくれ』


『おう、後でみておくよ。いつもありがとうな』


 通信を切ったムギはブライアン達と再び合流。

 いよいよ本丸へと突撃するための情報を探りに尋問の場へと向かうのだった。 

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