プライベートバンカーの裏に潜む者達
『≪ソル・トープ≫……≪コンラッド・ゾルゲン≫……段々何かが繋がってきた…か?』
『ふむぅ……?』
倉庫内でディエス・トゥルーマン関係の情報を洗い出していたムギは、ソル・トープという軍事商社とコンラッド・ゾルゲンという人物について情報を得た。
空間上に展開されたモニターにはなにやらまるで軍隊のごとく装備を取り揃えた者達の写真と、
かつて政治家として活動していた髭をたくわえた男が映し出されている。
隣にはエルがおり、ムギにくっつくような状態でモニターを覗き込んでいた。
この2つはほぼ確実にディエス・トゥルーマンとの繋がりがあるようであり、ゾルゲンという人物がもしかすると裏で暗躍する重要人物ではないかとムギは導き出した。
リッキーやロンがまとめた情報に前述する自身が調べた情報を足して資料を作ると、ムギは大急ぎでブライアンと連絡をとり、再び飛行船にて会談に臨むことになった。
ムギはエルと二人で再び飛行船の停泊地となっているビルへと向かったのだった――
『――ブライアンさん、12連隊の取引に関する資料はそれで以上です。こちらからだと秘密口座の持ち主を特定できる術がない。その件はそちらにお任せします』
『これだけの事がわかっただけでも十分です。ダミー企業に関わる人間などへの調査も期待できます。やはりPATOLISの能力は素晴らしいですね』
資料の内容を斜め読みする形で読み取ったブライアンはPATOLISの能力に太鼓判を押す。
PATOLISの場合、簡単な検索能力なら非常に高速に出来るが、それ以外でも命令を打ち込むことでかなりの速度で答えを導く力があった。
だが見つけることが出来るのは「表側に情報があった」場合のみ。
情報がないものを見つけることは出来ない。所詮はシステムであって神様ではないのだから。
『それで聞きたいことがあったんですよ。先日ドゥームの領事館で逮捕された人間いましたよね。それについて何か知ってる事ってあります?』
ムギはなんの前置きもなく突如としてその話を切り出したが、ネットワーク情報検索を利用してなんとなくだがブライアンの組織も詳細な情報を把握しているだろうと予想していた。
『ああ、彼ですか。ムギさんは広範囲で調べててなにか違和感を感じていらっしゃるのかな? 知ってますとも。彼はウィルガンドの工作員ですよ。公安が数年前からずっとマークしていた重要人物です。結局テロは防げませんでしたが……所謂扇動屋って所ですかね。テロリストの中には多かれ少なかれそういう人物がいるみたいなんですよ』
『…………ブライアンさん、そいつなんでドゥームの領事館に行こうとしたのかわかりますか?』
『公安の報告書が正しいならばの話ですが……奴はドゥームへの亡命を画策していたようです。まあドゥームに裏切られて逮捕に至ったんですがね。奴の情報を漏らしたのは他でもないドゥームなんですよ。連絡を取ってきている危険人物はそちらが指名手配している人間じゃないのかって言ってきてね……』
『ほう……実に妙な動きをしておるな。規定路線だったところにメスが入れられたような……そういう感覚がするのう』
ブライアンはドゥームの背後に何か裏があるのではないかと思いつつも、自身が記憶している公安がまとめた情報をムギに話す。
エルはその状況になにやら違和感を感じていた。
ムギはニュースなどからマスコミが「ドゥームがテロに関与か?」とか「工作員の可能性」といった情報を見つけていたが、どうやらその話はどこからか漏れ出したものでほぼほぼ事実ということを理解した。
『実はその資料の中にはもう1つ別件のものを追加したいのがありましてね……その前に聞いてください。もしその男にスタンダールのプライベートバンカーが多額の金を送金していた事実があったとしたら、ブライアンさん……どう思います?』
『なんですと!?』
さすがのブライアンも突拍子もない発言に動揺して反応し、かけていたメガネがズレてしまう。
すぐさまメガネをかけなおしたブライアンはムギを問いただした。
『どうやって調べたんです!?』
『まずはこれを。ちょっといろいろ調べてみましてね』
ムギはリッキーから受け取り、さらに自分が調べた情報を追加したものをブライアンに渡した。
その上でムギはブライアンに1つの提案をしてみることにする。
事前にある人物と話して考え出していた。
――ブライアンに会う2時間半ほど前。
『ディエス・トゥルーマン? さあなぁ……バンカー同士って案外交流ないんだよ。お互いノウハウは隠そうとするし、ましてやウチは信託銀行だからね。顧客奪おうってんじゃないかって相手側は余計に警戒するだろうさ』
ムギはいつもお世話になっている信託銀行のバンカーに連絡を取り、彼からディエル・トゥルーマンについての情報を引き出そうとしていた。
彼は先日ガンドラに来ていたバンカーであり、一連のスタンダールによる事件の被害者の債権を買い取った男でもある。
G.Wのメインバンクというだけでなく、ムギの大量の個人資産の管理を任されているセンターズサークルでは非常に評価の高いバンカーの一人であった。
彼はプライベートバンカーではなく、あくまで信託銀行所属のバンカー。
メインの顧客は大中小の企業と、ムギのような企業に所属しつつも個人事業主でもあるようなタイプも顧客としている。
『そもそもプライベートバンカーというのがいまいちよくわからない。地球との差異がないなら王族とか貴族などの客を中心とした個人銀行家ということになるが……合ってるかい?』
『企業系と関わってんのもいるよ。創業者なら莫大な資産もってる場合もあるからさあ。それと金貸しから成長してそこそこの資産しかないような個人とやってるのもいるよ。センターズサークルはまだしも辺境は貧弱な都市国家ばかりでさあ。信用できないような銀行が多いだけじゃなくて国が滅ぶとか侵略されるとか平気であるから、個人の方が信用できてしまうんだよ。ワタシにわかるのはこれぐらいかねー』
――うーんダメか……何かわかるかなと思って期待したんだが……
ムギはこれ以上の情報は無いと判断し、最後の質問を彼に投げつけることにした。
『ディエス・トゥルーマンについて調べたいと思ったらどうやればいい?』
『そりゃあワタシの口から大きな声で言えない方法以外だとしたら直接取引するしかないっしょ。一度会ってみればいいんだ。ワタシの名を出してアイツ信用できないから資産そっちに預けたいんだがって相談してみるのは?』
『……こちらの資産を餌に突撃するって手があったか!』
『ムギさんの資産ならまず商談には乗るんじゃない? リーンフィールドの名もあることだし門前払いには出来ないよ。ネット上に情報出てないなら間違いなくそれが一番早い。それ以外はソイツの顧客から聞き出すしかないね……顧客は王族や貴族だから敷居が高いと思うけどね……』
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『――ブライアンさん。こちらも部下の力を借りていろいろ調べては見たが、このディエス・トゥルーマンという男、非常に怪しい。表向きではスタンダール王国の一部の……ストゥルフ時代の貴族だった有識者とつながりがあるらしく、どうも彼を通してかつて武器取引を行った形跡がある。スタンダールの軍事商社ソル・トープという企業のCEOと商談しているのをソル・トープ側がSNSに公開している』
『ソル・トープですって!?』
『そこの資料がそのSNS情報のコピーだ。そしてそのすぐ後だよ……旧ストゥルフの貴族家系の現在の当主。コンラッド・ゾルゲンが対テロリスト用PMC団体を設立して各地で活動を始めたのは。各地で活動するゾルゲンのPMC団体の兵装、みんなスタンダール製だ。まるでもう1つのスタンダール軍だ。こういったスタンダール製の兵器は……』
『ソル・トープを通してでしか民間への販売は行えない……』
ブライアンは何やら悪寒がしているのか顔に汗を浮かばせている。
エルとムギはそこを見逃さなかった。
恐らく「これまで立ち向かうことがなかった強大な何か」がそこにいるのだろうと予想できる。
『そう、軍も使う兵器の予期せぬ拡散を恐れて基本的に軍事兵器を売りさばけるのは国指定企業の軍事商社だけだ。そこを通して販売してもいいと国から認可された武装だけをPMCなどに販売する。これらは1つの国に対して片方の掌の指の数あるかないかというのが世界の常識。売った後の兵器の状況も常に監視するのが仕事。メディアンでもこれは変わらない……これがスタンダールについては一社しかない』
ムギは右の掌を差し出してもう片方の手で指し示した。
『……コンラッド卿はかつて財務大臣なども勤めたことがある人物です……』
ブライアンは少々力が抜けたような表情をしながら口を開く。
『知ってる。wikiすら記事があるような著名人でしょう』
『彼は政界にも財界にも多くのパイプがあって、かつてのストゥルフをとても愛している方で……』
『ブライアンさん、憧れの人物が全ての黒幕かも知れないと思ってるならまだ早いぞ』
ムギはゾルゲンがブライアンにとっての憧れか尊敬する人物であることを見抜くと、釘を刺した。
『こちらが今わかってるのはディエス・トゥルーマンが不透明な多額の金をドゥームに送金し、そしてドゥーム経由で先日のテロリストがほぼ同額を受け取っている話だ。同時刻にね。地球と同じでメディアンもこういうのはシステムによる自動決済。即時反映される。だからPATOLISはトゥルーマンの可能性が極めて高いと導きだした』
『……調べてみる価値はありますね』
ブライアンはポケットよりハンカチを取り出すと顔を拭った。
『そう、そのためにまずは奴と接触を試みる。コンラッド・ゾルゲンについてはこれ以上何かわかることはないからそちらに任せたいが……出来るよな?』
ムギはブライアンが緊張しっぱなしの様子だったため、渇を入れる目的でやや強い口調で念を押した。
『ムギさん。1つ言わせてください。先日逮捕された工作員に関してです。ディエス・トゥルーマンと接触する前に彼と話してみるのはどうでしょう? 何か得られるのでは?』
『そっちの権限で面会とかさせてもらえる感じ? そういう方向性では全く考えてなかったけど』
『我々は黒と断定したら割となんでも介入できるもんで……早ければ明日面会させられます。まずはそちらから攻めませんか』
少々ショッキングな可能性を提示されたとはいえ国家安全保障調査室に所属する身として自分を見失わなかったブライアンは、
手元の資料を見て証拠が足りないことから、このまま攻めても逃げられるかかわされるかのどちらかだと考え、ムギにディエス・トゥルーマンに会う前にウィルガンドの工作員に会うべきだと主張した。
彼が何か重要なカギを握っている可能性があったのと、
いきなり敵の領域に入るのは危険と判断したためである。
『わかった。そうしよう。トゥルーマンと会うのはその後だ。明日……頼めるよね?』
『任せてください。これだけの資料があれば上を説得してみますよ』
ブライアンはまだ動揺しているのを隠しきれていなかったものの、ムギに強い返事でもって応えた。
『ああそれとムギさん。いざとなったら司法取引も考えましょう。 我々そういう権限もありますし……』
『テロリストを買収してトゥルーマン含めた情報を引き出すわけか……そのあたりも任せますよ。自分は情報さえ聞ければいい』
ムギは国家安全保障調査室の権力を信用し、ブライアンにそのあたりの手続きについて任せる事にした。
明日にはロランの剣こと光の剣も戻ってくる様子なので、出来ればそれだけでも回収してからディエス・トゥルーマンに会うべきだと考えはじめ、その日は解散となったのだった――




