各派閥の動き(ムギの動き)
ブライアンとの会合が終わったムギは一旦宿屋に戻ると、装備一式をフル装備の状態でチェックアウトした。
エルは「少々用事がある」といってどこかに行ってしまったが、ムギは商工会の一室を借りて仕事を始める。
すでにブライアンには「システムダウンするまでの数日ほどの金融取引データ」をブライアンの組織経由で入手してもらうお願いをしており、
ブライアンは「国家安全保障調査室の権限を使えば可能です」といってそれに応じていた。
ムギは商工会の一室に入るとパティルムら「以前にもスタンダール王国第12連隊と取引し、さらに取引に成功した」者達と連絡を取る。
以前取引に成功していた者はその後全てが被害者になっており、ムギは連絡先などを把握していた。
ムギはいくつかの情報を伏せた上で「この間の件で尻尾をつかめそうなので、取引成功時の決済データが欲しい」と懇願。
パティルムらはわずか数日でそこまで話が進んでいるのかと驚きを隠せないでいたが、辺境で必死に抗うアークの移民に対して快く決済データを提供した。
『よし、これで後は金融取引データと照合すればどこの口座と取引したのかわかる……その口座の持ち主もブライアンを通して、もしくはブライアンに調べてもらえば何かわかるはずだ』
ムギはネットワーク経由で転送さてきたデータにパティルムらへの感謝を表明しつつも、一歩一歩前に進んでいた。
金融データの入手についてはログが膨大なことからブライアンから「3日ほどかかる」と言われており、ムギは空いた時間でアークについて調べることにした。
ブライアンが言っていた「地球に関するアークが公開している情報」についてである。
ブライアン曰く「リーンフィールドの国会図書館のサイトから電子書籍として閲覧できる」とのことだった、
調べてみるとアークは尋常でないぐらい莫大な量のレポートや記録を作成して公開していたことがわかった。
しかも信じられないことにそれらは「地球に存在する言語」も含めて多数の翻訳がなされている。
日本語も存在しているのだ。
ムギは「英語にもようやく慣れてきたが、やっぱ日本語の方がわかりやすい」と安堵する一方、気になる項目をいくつか見つけた。
西暦や紀元前とは別にムギが全く知らない時代に関するレポートがあるのである。
紀元前15万年前や紀元前10万年前、5万年前に文明があったことを表すレポートであった。
しかもその文明にも機械文明があったらしき記述がある。
そしてそれらのレポートを要約したものを見つけたムギは絶句する。
『地球はすでに7回……文明がリセットされている?』
最終戦争、あるいは人類そのものの停滞。
アークはこれ以上文化的、技術的発展が望めない場合でもとりあえず見守っていたが、人類はこれまで何らかの原因によって種として滅び、その度にアークが復活させていたことがわかった。
アークはあくまで「故意に滅ぼすような無碍な行為はしない」としながらも、「自身の実力不足」と反省しながら種が滅びた後に神としての力を利用して復活させていたのだった。
その度に何らかの変化を種に与えた上で。
人類のミッシングリンクが曖昧になっているのは自身の神としての力が弱く、地球自体を再利用しなければならないためであり、
過去の痕跡は全て消そうと努力はしているが完全に消すことが出来ないので、現在の人類を惑わすような謎の痕跡が世界各地で見つかることがあるのだという。
『嫌なもん見ちまったぞ……まあ仮に地球にいつか帰れたとしても周囲にそんなの言いふらしたって妄想だと片付けられるような内容だが……』
ムギは驚愕の事実に多少の驚きはしたものの、所詮は過去と割り切って今必要な「今の文明の過去情報」である「M資金」についてのレポートを検索し、それを見つけると読み出した。