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報告書2

『ところで今ムギさんが見ているページの報告書……どこからの情報かわかります? 実はウィルガンドからなんですよ。コミントってやつです。意外に思うかもしれませんが軍も含めて各国にはそれなりのパイプがあって情報共有していて、信じられないことにウィルガンドにはスタンダール王国軍を通して第12連隊の詳細情報が刻々と送られて――』


『……』


『どうしたのだ?』


『……いや』


 ムギは何かを言いたそうに一瞬口を開きかけたが、あえて何も言わなかった。

 その様子を見たエルが気にかけるも何でもないとその場を収める。


 ブライアンはしばしキョトンとした表情を浮かべて話を一旦止めたが、しばらくすると再び口を開き始めた。


『……ともかく、ここで市民と我が国の軍が衝突すれば、再びウィルガンドとスタンダールは戦争になります。戦後から75年。お互いに首脳レベルで煽り合ってきたりした仲ではありますが、そのおかげで我々三国はストゥルフ時代より経済的に繁栄した状況にある。ここで戦争が起きて再び経済的に停滞することとなれば……周辺に多く存在する都市国家が領土欲しさに参戦してくる可能性すらある……内側の敵も怖いが、外側にいる敵も侮れない。国家にとって領土は多いほうがいいとは言っても出鱈目に混乱を広げるのはスタンダールにとっても得策とは言えません』



『それで、ブライアンさん達は首謀者の目星とかついてるんです?』


『それが残念ながらまるでわかっていません。悪い例えなのは承知で言いますが、テロリストは辺境の冒険者と同じで駆逐してもポンポン沸いてきますから……どうやらこの件の裏で糸を引く者は特定のテロリストに加担しているわけではないらしい。特定の派閥をウィルガンドが駆逐しても次の派閥が一気に勢力を伸ばして凶行に及ぶ。そもそも目的もわからんのですよ。スタンダール内部も洗いざらい探ってみましたが確たる証拠はなにも無し。真相は闇の中ってやつです』


『我が思うに、内部の者が金銭的利益のために行っているとは思わぬな。こういう場合、列強に属する外部の者共が三国全体の弱体化を狙っているか、単純にスタンダールとウィルガンドの双方を揺さぶることで何らかの大きな権益を得ることができる者がいるのか……いくらでも思いつくが、想像の域を出ることはない。複数の勢力がそれぞれ何かを求めて独自に行動した結果、それぞれ大きな利益を享受できる形となり、その活動を助長させている……直接的繋がりもないのにお互いのエゴが華麗な連携を生み出して……ということもありえるがのう……』


 ブライアンは最初の自己紹介以降、この時初めて口を開いたエルに顔を向ける。

 それまで無言を貫いていたエルは何を思ったか、いつもは無言を貫くことが多い中で珍しく口出しした。


 ――おいおい、神様がそんな助言して大丈夫なのか……。


 ――(この三国内にはエルフの種族はおらぬ。おまけにエルフの民やその国家が関わっているという事もない……)。


『うおっ!?』


『どうかされました!?』


『あ、いえ……』


 ムギが突然驚きの声をあげたのでブライアンもビックリした表情で見つめるものの、ブライアンはムギがどうして驚いたのか理解はできていなかった。


 ムギはジェスチャーでもって必死になんでもないと誤魔化す。


 ――頭の中に直接ッ!……エル、お前俺の考えが読めるのか!? テレパシーなんて使えたのか……。


 ――(一時的にソナタの心の声が聞こえるようにした程度で騒ぐでない。少なくともこの件について我は全く関知せぬし、エルフの民が関わっていないので何もわかることはないということよ。それに、別に我は我の考えによる発言が他の神々により制限されているという事もない……これまであまり口出ししなかったのは、どう述べれば良いのかあまりよくわかっていなかったからであるぞ)。


 ――そうなのか……。


 ――(もう長い間こういう機会に恵まれなかったのでな、ムギとおると若返ったような新鮮な気分になるのう)。


 ムギは「それは一体何年……何億年前の話だ!」とツッコミを入れたくなったものの、考える途中でやめた。

 一方で今後はもっとこういう交渉や会談、会議といった場でも積極的に発言してほしいと願う。


 その想いはきちんとエルに届いていた。


『……ブライアンさん、一応聞きますが昨日の商取引の件、貴方は何か知っていたりしますか? どうもこれまできちんと取引に応じていたのに昨日突然おかしな行動をしたようなんですよ』


 その言葉を聞いたブライアンは待ってましたとばかりに腕を組む。


『昨日の案件、あれはようやく彼らが尻尾を出したかもしれない事案です。実は、スタンダール市内におけるテロリストの活動の余波によってスタンダール内の主要銀行全ての金融システムがダウンしてしまったんです。』


『おっと、もしかしたら味方かもしれない連中に足元をすくわれた?………えっ、でも銀行の金融システムがダウンしたのと何の関係が? 確かに私の世界でも国庫からの振込みなどはメガバンクと呼ばれる主要銀行を通してのみ可能とはされていますが……そういうのは基本別システムで独立しているハズでは』


『駐屯地を展開する部隊、それも占領政策を行っているような所ですと独自に口座を設けて活動資金を調達している事があるんです。貴方のいた世界の貴方の国でも、先の大戦の後に占領政策を行ったGHQは独自の秘密資金とその口座をもっていた……資金調達を別口でも行いながらも、そこを基点に財閥解体などを行ったはずです』


――えぇえ、そんなの知らんけど!?……。


 ムギは必死で表情を乱さないよう努めているが、突然の発言に頭の中が真っ白になりそうになっていた。


 GHQの秘密資金などまるで聞いたことがない話だったのだ。

 


――(奴が言ってるのはM資金の事だ。当時の日銀などから接収した秘密財産のことを言っている。そういうものがあるのだと言いたいのだろう)。


――アーク!? お前ッ何だ突然!……。


――(ローズルの奴がお前に何か干渉しようとしていたのを確認したのでな。覗きにきてやっただけだ。M資金については後程調べればいい。ではな)。


 突如として幽霊のごとくブライアンから見えない場所に現れたアークは、ボヤーっとした薄い霧のような状態のままムギに助言すると、すぐさま消えていった。


 エルがその方向を見ていたので、アークが現れたのは妄想ではなかったとムギは確信する。


――とりあえず適当に吹っかけてみるか?……よし。


『……ブライアンさんはM資金が実在したと思っているわけですか? 自分はそんなの信じてませんでしたけど』


『アークはメディアン側からのみ見える状態で銀行取引などのデータを公開してますから、見えちゃうんですよね……実際に地球にいる方々にはわからない資金の流れが。現在でも運用されている在日米軍の秘密予算があるんですよ……日本にはね』


 ムギはその言葉に思わず顔が引きつってしまう。

 まるで知らない話であった。

 それだけでなく、なぜこの男がそれに詳しいのか不気味ですらあったからだ。


――こいつどんだけ地球に詳しいんだ? 俺達地球人よりも知ってるんじゃないのか。M資金なんて初めて聞いた。それだけじゃない、アークがそんなものを公開しているという事もだ……関連性があるかもしれないから後で調べるしかないな……。


『不思議そうな顔をされていますが、そういう情報を見て政治や組織活動の参考にしているんですよ。我々はね。貴方には酷な言い方だとは思うが、地球のある宇宙……我々がフリーロームと呼ぶ場所は実験場です。だから多くの情報がフリーロームの者には知られない形でこちらに公開される。あの場所はメディアンを安定化するために各種実験を行っている場所なので、我々は人として神々が公開する情報を見て政策などを決めることが出来る……その分、貴方方の中では陰謀論のような話を事実として認知できるようになってしまうわけです』


 フリーロームというブライアンが発した言葉にムギは嫌な思い出が蘇ってきていた――

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