表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新釈ピュグマリオン  作者: 大橋むつお
42/49

42・栞と颯太のゴールデンウィーク③          

新釈ピュグマリオン・42

『栞と颯太のゴールデンウィーク③』          



 二人はもめていた。


「火偏に門構えの中に月だよ」

「いや、門構えの中に日だ!」


 兄妹二人が、テレビのクイズ番組を見ながらもめている。はた目には、長閑な兄妹の日常に見えるだろうし、当の本人たちも、その気でいる。

 しかし、この兄妹の会話は、どこか必死なところがある。


「ほら、やっぱし、オカンはお燗、門構えの中は月だったでしょうが」


 MCの正解に妹は勝ち誇ったように鼻を高くした。


「そりゃ、オレは美術の講師だからな。漢字なんか分からなくってもいいんだ」

 颯太は鷹揚にアニキらしく開き直った。

「はい、負けた方がアイスコーヒー入れましょう」

「やれやれ、エラソーな妹もったもんだ……あ、アイスコーヒー切れてるぞ」

「あ、今朝飲んだんだ。あたしコンビニまで行ってくる」

「いいよ、オレが行く。栞は漢字はともかく、コーヒー牛乳とアイスコーヒーの区別もつかないんだからな」

「じゃ、行って来てよ。バイトのオネーサンと話し込むんじゃないわよ」


 互いに、なにか一言言ってリードしておかなければ収まりがつかない……でも、やっと兄妹らしくなってきた。


 あくる日、栞は学校で話をつけようとしたが、青木穂乃果は栞を自分の家に招いた。かなり腰を落ち着けて話そうという意気込みが感じられる。咲月もついてきたがったが、AKPのレッスンがあるので諦めた。


「青木さんの主張は正しいけど、現実的じゃないわ。この上クラスを元に戻したら、混乱じゃすまない」

「鈴木(栞の名目の苗字)さんは融和的すぎる。確かに元のクラスに戻したら混乱はおきるわ。でも、それって先生たち……はっきり言ってしまえば、その上の組合の問題。民主集中制なんて前世期のドグマで教育を権力闘争の具にすることは許されない。学校を本当に変えようと思うなら、今が勝負よ。今勝負しとかなきゃ、神楽坂の沈滞した融和主義はうちやぶれないわよ」


 どうも、穂乃果のいうことは高校生離れしている。まるで政治家の演説だ。


「初めて会って、お家にまで呼んでもらって、なんだけど、青木さんの……」

「穂乃果でいい。あたしも栞って呼ぶから」

「穂乃果さんの思いは、胸に秘めていればいいと思うの。新学年は、まだ始まったばかり。仕切りなおして解決しなきゃならない問題は、これからいくらも出てくるわ」

「それは……」


 そのときノックがして、きれいな女の人が入ってきた。

「どうも、穂乃果の姉の穂奈美です。ごゆっくりね」

 それだけ言うと、お茶とショ-とケーキを置いて出て行った。

 それまで頑なではあったが、理路整然としていた穂乃果の話は脈絡がなくなってきた。なんだかわけのわからない世間話をして、栞は穂乃果の家を後にした。


 気になって振り返ると、来た時には気づかなかった看板が目に入った。


 都議会議員青木修三事務所と読めた……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ