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新釈ピュグマリオン  作者: 大橋むつお
31/49

31・栞の喜びと心配

新釈ピュグマリオン・31

『栞の喜びと心配』




「昨日は、なんか変だったんですよね。休憩室で、ちょっと横になってたら、あたしの分身が現れて、その日の仕事を全部やってくれたんです。でもね、ちゃんと仕事の中身も憶えてるんですよね。でも、なんか実感が乏しくて。でね、生まれて初めて心療内科って行ったんですよ。そしたら先生が言うんです。疲れからくる離人症だって。あたしって直ぐに頷いちゃうんだけど、分かってないんですよね……でも、調べると半分寝てる状態で、やることはやっちゃうって、なんか心理的な自己防衛らしいんですよね。まあ、調子はともかくAKPの総監督ってのは、こんなに忙しいもんなんだってこと、分かってもらえるかなあ……?」


 AKPの仲間や後輩たちが笑う気配。


 どうやら、矢頭萌絵は、疲れた末に、なんだか夢のようなことをやったと思っているらしい。

 そこまで聞いて栞は安心してパソコンのエスケープを押した。萌絵と入れ替わったことは、本人も含め、半分冗談の夢のような話で終わったのだ。


 あとは、水分咲月の合否だ。大仏康と話はつけたが、最終決定権は大仏にある。以前も土壇場で合格者を変更している。


――受かった!――のメールが夕べ遅くに咲月からやってきた。まずは二つ目の安心。


 で、今日学校に行ったら、びっくりすることが二つあった。


 咲月の合格が、静かに広まっていたこと。

 AKPの合格者はネットで公表される。むろん住所や学校名なんかはでないけど、咲月は、このAKPのために留年までしていて、学校の半分くらいの生徒と先生の全員が知っている。

 みんなは、なぜ咲月がAKPにこだわったかを知らない。だから、十七にもなってAKPのオーディションを受け、そのために落第までしたことを半ばバカにして見ていた。それがコケの一念で合格すると評価は百八十度変化した。


――今回の十二期生は粒ぞろいですよ!――


 大仏康の講評も後押ししてくれて、咲月は一晩で、神楽坂高校のヒロインになってしまった。


 予想以上の反応に、栞も我が事のように嬉しかった。


 そして、朝のホームルームで愕然とした。今日は身体測定と内科検診なのである。

 検診で裸になることは恥ずかしくない。そういう神経は颯太が命を吹き込んでくれた時から持ち合わせていない。下着も夕べの風呂上がりで洗い立てのものに替えている。


 問題は内科検診。


 見かけは人間そっくりだけど、元は硬軟取り混ぜたビニールの外皮に塩ビの骨格である。レントゲンや心臓検診が心配だ……。



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