滑走路
オリハのオリジナルサイズでの重量は、“空気よりも少し重い”程度だ。
だから、両翼を大きく伸ばすとか、気球状にするとか、とにかくその体積を膨張させてやると、“空気に浮く”ことができる。オレ達二人はそうして、だだっぴろい滑走路に降り立った。
意識ひとつで、らくらく収納。
「――」
オリハ……昔は、肩甲骨の間に装備するのが常識的だったそうな。だけど、展開のしやすさから、現在では腰に装着するのが普通だ。
モエのシャツの丈が短いのも、オレのがだぼだぼなのも、それなりに理由があったというわけだ。
「――斜度、1度、か」
「平面と変わらないねぇ……」
「けど、いい風景だ」
「空気もうまい」
試しに靴底のミニローラーを突起させてみる。転がろうともしなかった。肩をすくめる。
再びオリハを展開し、腰の横で白い羽翼に変化させる。羽ばたきさせ、数キロ先の、管制塔の目立つ白亜のターミナルビルめざして滑り始めた。
前を行くモエが、長い足を交互に蹴り出すようにして、優雅に、軽快に走行する。
その姿はまるで天使かはたまた妖精のようで、オレの顔が自然とほころぶ。夢のような光景だった。
表情筋が再びシリアスになる。
体質変化。
モエは、ゲーム世界限定で、一般に言う超能力者となれる、選ばれたパーソンだった。
能力は、“サーチ”。
ゲーム世界内に、動物の存在を探ることが出来るのだ。
オレたちコンビが、“マン・サーチ”、すなわち“人探し・レスキュー”のカテゴリで、全国トップを張り続けられているのも、モエの力によるところが大きい。
「……」
いや、それ以前にだ。貴重なエスパーうんぬん、の前にだ――
モエは――その個人は――その、得がたい友達なのであるのだよ。
できたら、このまま、いつまでも、いつまでも――つるんで、いたい、本心だ!
息を吐く。
モエと組みたいと思うヤツなんてゴマンといるし、組むに相応しいヤツも、多数いるだろう。
モエは、春雪家の大事な総領だ。いつまでも勝手は許されない。わかってる。くわえて――
モエは、貴重な体質変化者のなかでも更に特別で――だからこそ――
オレは意識して笑顔になったのだった。
このときだからこそ、不景気な顔は、絶対見せたくなかったから――
譲らない。誰にも。
あらためて、そう思った。




