ねぶた
そして――
いよいよ青森ってときに、“ソレ”が出現したのだった。
『ヤーレ、ヤーレ、ヤーレヤ、ラッセ、ラッセラッセラー、ヤーヤドーヤーレ、ヤーレヤ……!』
強烈だ! 寄りにも寄って征夷大将軍・坂上田村麻呂、その人(?)だったのだから。
青森ねぶたの、第一等の大武者だ。そいつが今、色も鮮やかに、まるで入道雲のように巨大に立ちのぼり、軽快な笛太鼓の音色を背景に、勇壮に動き、ジャンボよりか遙かにでかい大剣を振り落としてくる――
「すごく、大きい……」ほおを赤らめている。
「さすがは560km。“ゴール・ガーディアン”も気合い入ってるぜ――」
「どうすんだよこんなの」
相手にとって不足なし。こっちも武者震いだ。オレの反射神経は人の3倍はいい。体育の授業は、特A以外とったことはない――
「任せろ! 振り回すぞ!」返事を待たず操縦桿を右に倒す。とたん――身体にのしかかる重力だ。腰に張り付けてある透明オリハ本体が瞬時に、薄く強靭に体表面に展開する。体勢をサポートするも、きついのには変わりない。モエが気丈に声を張り上げた。
「――気をつけて! ジャンボは亜音速! 40秒で(ゾーン)アウトだ!」
「上等だよ。時計頼むわ!」
「左ッ!」
「ラジャ!」左へ。「うはっ……!」「おェろっ……!」
「これ絶対やっつけないとゲームクリア無理っぽい――?!」
「――空、占拠してるからなあ! 着陸できない。“逃げ”は今回ナシだ」
「ボクのオリハを膨張突起させて飛行機の剣にす――」途中で遮った。「ダメだ」
「ここでソレやってみろ? 機の操縦系がズタズタにされちまう!」
瞬時に理解するモエ、開き直った。
「しょせん、竹ひごと紙だろ? 突っ込んでぶち抜こーよ?」
笑った。そいつは、罠だ。なんたって――
「針金もあるんだぜ。(飛行機なんか)それこそ一巻の終わりだ」
「ぐう!」
ニヤッとした。
「けど、いい案だ! ピンチのそばにチャンス。さすがオレのアタッカー、惚れ直すぜ」
「なんだか遺言に聞こえるよ」
「いままで、よくぞこんなオレに付いてきてくれたものよのう……」
「ヤメろバカ――アハハ!」
「しっかりつかまってろ!」
「離さないよ――!」
オレは操縦桿をひねり倒した――
機体はキリモミを起こした。ぶち抜くのではない。左の翼の先端が、ねぶたの背中の一部分、見事、紙と竹の部分だけを切り裂いたのだ。直後に急上昇させた。背面ターンに移行する。巨大な機体がきしみ、身体が圧し付けられる。ぎりぎりの中、目をこらした。
「――見たか?」
「ごめん。でも何?」つらそうな声。オレは励ますように声を張り上げた。
「――照明だよ。ねぶたの内部。てっきり、発電機による電飾だと思ってた」
「違うんだ」
「なんと古式豊かに、蝋燭だったよ。これほど(の規模)となると、逆に凄いかも」
「あらら――」
ハッキリわかる。生き生きとしたワルガキの声音だった。オレもテンションが上がる。
「ラストだ気張れ――!」
「ホイキタ!」
オレは機を操り、武者の上空を滑空。
燃料を噴出投下し、目論見どおり、モンスターを空中で、爆発的に完全燃焼――!
ジャンボは、悠々、無事に、新青森空港に着陸を果たしたのだった。




