ムー
モエが左手で起動サインを示し、ハーフグローブのマイクロチップ上の空中に、携帯端末・オリハの画面を投影させる。表示コンテンツは、“人に聞かず、グエりなさいよ”で有名なグエン。その、「ムー大陸」の項目だ。
朝の話題の続きである。
『20世紀始め(1926年刊)イギリスの軍人(陸軍大佐。詐称。英国陸軍に在籍の記録がない。米国在住。イギリス人であることに注意。)チャーチワードによって、インドで古文書が発見され世に知られるようになった。
インドに従軍したとき、現地のヒンドゥー教の寺院の高僧が、寺院の門外不出の粘土板「ナーカル碑文」を見せてくれたという。……』
顔をあげる。
「――この時点でもう、顧みる価値はナッシング、と思わない?」
オレは苦笑して頷いた。「まったく――」
一口すする。「――旨い」
「フフン」満足顔だ。
「数値の部分だけ列挙してくれないか」
「今から約1万2千年前に一夜にして太平洋に沈んだと伝わる。
大きさ。東西8000キロ。南北5000キロ。
人口。7000万。面積の割には少ないね。
肌の色の異なる10種類の民族が共存。
太陽神の代理人、帝王ラ・ムーが全大陸を統治。
現代文明を遥かに凌ぐ超古代文明……て、もういいだろ? インチキ宗教レベルだよ」
オレはニンマリとした。
「ムーの首都はどこにあったと思う?」
「何かんがえてんだか」
芝居っ気たっぷりに、「それは、重心の位置にあったのさ」
「大陸の真ん中か?」けっきょく乗ってくるモエなのだ。
「いんや、だいぶ東よりだね。そのはずだ」
オレは自分のグローブを操作し、アイデアをリンケージ。モエの手のひらの上に、表示させたのだった。
「これでわかるだろ」
「わからないよ!」威張った口調で、ふざけて本当に胸張って答えて寄越す。いまやピチピチなため、不自然に裾が上がり、おへそが丸出しになった。
オレはいきなり目のやり場に困る。モエも瞬間的に気づいて赤くなり、体を縮こませ、ついで、ふふん、と急ごしらえのワルガキの表情を作って誤魔化したのだった。




