東京
東京駅で別れた後、寄り道せず家に帰った。港区の地下1キロメートル街、最底辺区域だ。そこで営んでいる銭湯が、オレんちだった。一応、自慢の天然湯。湯温も煮物ができるほど熱い。ただ、客層がね……流行ってるとはとても言えないな。近所の爺ちゃん、婆ちゃんがほとんど全て。だから、たまにモエが、またはもう一人の友達が、遊びがてらに入浴ってくれると、まるで空間に花が咲いたかと錯視するくらいだ。
沸いて出る湯は、ここの一層上から始まってる総合施設“丸ビル”に“出荷”している。いや、“上げ”ているだな、ハハ! おかげで生活は過不足なく成り立っている。年に一度、リングも買えてるよ。
オレは畳に寝っ転がると、改めてゾーンを考えた。この点、今日はとても有意義だったと言えよう。オレもまさか、海岸地点が東京である可能性がある、とは盲点だった。考えたこともなかった。さすが、モエだ。
東京――
スタート地ならまだしも、東京(、もしくは京都、あるいは大阪)をゴール地に設定するやつはいない。
なぜならば矢張りは日本の首都で、ガーディアンが凄すぎるからだ。それは東京を代表する、キャラクターなのである。
怪獣王・ゴドラ――!
巨大、無敵、怪力、強靱、不死身。そして口から火を吐く。ゴールを一度も割らせたことがない実績を誇る。
ゲームのためのコピー空間とはいえ、事故ったら怪我するし、モンスターに殺されたら、プレイヤーは本当に死ぬのだ。広範囲に際限なく火を噴くんだぜ? 誰もが尻込みするのは当然だろ。それが――
ガーディアンがこんなに強力なのは、いままで、単に、首都のモンスターだから、としか認識してなかった。それが――実は、扉を守るためだった、としても存在理由としてなり立つではないか!
「やってやるぞ……!」
声に出して、静かに興奮している自分に気づくのだった。
※ ※ ※
ちなみに。
コピー日本というゲーム空間と、ゾーンアウトというゲームルールを悪用すれば、貴重な情報の窃盗やプライバシーの侵害は犯し放題である。
もちろん対策はあって、自分の家を、オリハでコーティングすればよい。それで、賊はゲーム空間からの侵入ができなくなる。
標準的家屋一つカバーするのに、リング一つでまかなえます。ブラジルにとって日本は最上級のお得意様。そういうことなのでありました。




