どんぶり
バスはのんびり小一時間で青森駅前に到着した。駅舎には入らない。ガイドを頼りに歩き、みてくれはショボい食堂に入った。食通の間で評価が高い、隠れ名店だという。
少し時間がずれたので、すんなり座れた。モエはキョロキョロに忙しく、オレだけ昔ながらのメニューを開いた。顔が緩む。さぁ――
いまや金持ちである。目ン玉とび出るお値段のマグロ丼とウニ丼で、どっちにするか贅沢に迷ってやる。けっきょく、貧乏舌なもので、分厚いサシミが苦手だったのでウニ丼にしてみたのだった。(実は初めて)
モエは、こんな丼ぶり物が返って分からないらしい。マグロを選択。
やって来たものを見ると、タレが掛けまわされた、ふわっとしたウニが一面に隙間なく敷き詰められてて、いかにもおいしそうである。
そこで初めて、食べ方に困った。どう食えばいいんだろ?
笑いながら店のオバチャンが、普通に上からごはんごと掬って食べたらいいのよ、と教えてくれたのだが……。
じゃあ、この中央に鎮座している、ワサビの固い塊は、どう取り扱えばいいんだと、悩むハメになったのだった。
食い方を知らんと、おいしく食べられないものである。感心顔していると――モエがふき出した。
モエはモエで、厚すぎるマグロの身に閉口(?)してる。
半分コを提案してみたら、食事でそんなワイルドな経験がなかったらしく、それはそれはもう興奮に顔を輝かせて頷いたのだった。顔を赤らげなから、オレの食った後を食べ、そして自分の食べたあとを食うのをそわそわと見守る。ああ、だめだ――笑ってしまって、けっきょくコレが一番の思い出になった。
だいぶ残してしまった罪悪感に両手を合わせて、ごちそう様。料理に、
「おもしろかった」
と変な感想を付けて、店を出たのだった。




