センパイ
と、そこのヒマワリ花壇の中に、一人の黒スーツの男性が、祝い酒に泥酔したかのようにぐでんと、“横サなってる”。苦笑し、見ないふりして通り過ぎようとして、でも何となく見覚えがあるような気がして、もう一度目を向けたら、なんとセンパイだった。
黒髪も土埃にまみれ、露出した顔や手の素肌は擦り傷だらけだった。スーツの下の紫のシャツもよれていて、ボタンもちぎれ、少し血の汚れがみとめられる。
左端将軍。たしか、18オーバーなパーソンだったはず。オレ以上の長身で、それが今、厭きられたオモチャのように無造作に転がっていたのだった。
こちらの気配を感じたか、まぶたを開き、目が合った。
取り巻き連中には「マサさん」とか「ショウグン」と呼ばせてるらしいけど、さすがに下級生たる自分は、苗字読みで呼びかけることになる。
「“サタン”さん、お疲れさまっス。なにしてるんすか?」
聞かずとも想像できたのだが、無難にそう問いかけた。
相手は華麗にスルーした。顔をわずかにずらし、とたん、嘗め回すように視線を相手に這わしはじめる。口元を物欲しげな形に変形させて、生温かな息を吐いた。
「……これはこれは、“月薔薇の君”よ。異な所で出会う。これぞ私と君の約束された運命と言わずして何と言おう。ついては是非、わが言に耳を傾けてもらいたい。今、私に手を貸せるというこの上ない名誉を、悦び受け入れるチャンスが巡ってきている。こんな幸運を、君ならば屹度逃すことはないと確信しているのだが、どうだろう。愚鈍でなければ、理解できるはずだ……?」
気づいたら油が染み込んでいた、そのような声音だった――
つまりは、新航路にてのゲームチャレンジを企てたのはオレだけではなかった、てことだ。
ゾーンは違えど、コースは同じ、てやつだ。
先輩は一人で実行し、結果、このような姿になって転がったのだ。
恐らくは、ねぶた武者との空中戦で、オリハを剣に巨大化させ、機体を逆に損傷。手の施しようがなく緊急脱出。“長押し”を宣言して、現世の空中に放り出されて、オリハのコントロールもままならず、ここに落下したものと考えられた。受け止めてくれた丈夫なヒマワリに感謝だな。
モエはニッコリすると答えた。
「左端さん、ごきげんよう。早速だけど、ボクたち二人は今、重大な作戦行動中なのです。時間までにバスに乗らねばならないのですよ。そうしないと、なんと昼メシにありつけないらしいのです。そういうわけですので、あしからず、さようなら――」
「先輩の言うことを聞かんと、きっと泣かされるはめになるぞ……」
「先輩なら――」そのあとをオレが横取りした。「自分のケツは、自分で拭け、ということです。先輩」
じろり。ようやくオレにも視線を向けてくれる。
「手を貸しますよ、先輩!」
「下がれ。賤民……」
「……」
モエと同じガッコ行きたかったから最下層から這い上がってきたことは事実だ。
――ぺこり。
最後、ちょっと悲しくされてしまったが、とにかく。これで会談は終わった。




