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新しいダンジョンがあったよ!

始まりは、空と海とがようやく分かれた音だった。いや、この大陸に、この海洋に属するすべての生命がそう誤認する音だった。


「いやー、今日も絶好の探索日和ね!」

冒険者見習いリナリルの毎日はこの言葉から始まる。

ロフトに取りつけたベッドから飛び降り服を着ながら、地方都市パナトは東の端、弱小ギルド『ノーラン』の共有スペースである食堂へと駆け込む。

「おじん!朝ごはん!一番乗りだから大盛ね!」

「おじんじゃねぇっつってんだろ。あと一番乗りは今日もオレな。お前は二番目」

ギルド長であり釜戸の門番でもあるプルスは2メートルを超える巨躯をもつ。

「えー、ギルド長ってばキッチンでハンモック生活じゃん。いっつも思うんだけどノーカンにするべきじゃないの?」

「ギルドの長たる者、メンバーの財布のヒモと胃袋は掴んどかなきゃあなんねぇからな。おめぇもカウンターで寝るようにするか?同率一位にはしてやるぜ」

「エンリョしとく。いつも何だかんだ大盛にしてくれるし、セクハラされそうだし」

「あ?ダイエット中かおまえ?」

「ごめん」

ギロリと三白眼の睨みが利いたところで、スペースの奥から間延びした声が聞こえてくる。

「朝から元気だよなぁあんたら。羨ましいわ」

矮躯に長い白髪の男がのそりとテーブルから起き上がる。

「あれ、ミクサいたの。早いね?てか髪にマントで埋もれちゃっててわかんなかった」

「寝ぼけて何言ってるかわかんねーぞ……昨夜は大将と晩酌して寝落ちたんだよ……う、あったまいてぇ」

プルスがグラスに水を注ぐ。

「おら、迎え酒だ」

「うっへぇまだ飲むの……」

ばっか水だよ水、と一口に呷り、ミクサは二人に向き直る。

「んで、朝食中に悪いがさっきの音。俺は南の方と踏んでるんだが、おたくらはどうよ」


スタック大陸の地方都市パナトは200年前に冒険者ギルドが設立したとされる未開拓地の最前線だ。鉱脈はダンジョンの中にあり、湖もダンジョンの中にあり、入り口近くに陣取るのが常だが、酒場もダンジョンの中にある。この200年、森を歩けば、地面を掘れば、新しいダンジョンにぶつかるといわれ続けている。パナトはハフド山脈に走るソート渓谷を抜けた先にあり、地上も地下もダンジョンに囲まれた毎日が探索日和の都市である。

そして、ダンジョンのほうから『来る』こともしばしばある。


活気に満ちた街をリナリルたちは小型の馬車で進んでいた。

まだ薄暗い、夜の明けきる前だというのに街道は人で溢れかえっていた。冒険者ギルドが設立したという街の由来から、パナトには物好きと命知らずが跋扈している。夜明け前に『発生』したダンジョンの探索に、情報集めに、我一番と乗り出す冒険者たちがたむろしているのだ。

「朝日も昇る前なのにすげーなこりゃ。こいつぁ先遣隊になるのは無理があるんじゃねぇか?帰って寝て、情報屋に確証とってから出直すか?」

「大将、そんなんだからウチ弱小なんすよ。大将こえーから今まで言わなかったけど」

「そいつぁおかしいなぁ、昨日も一昨日も聞いたセリフな気がするんだが気のせいか?」

「二人とも漫才してないの!今朝の音は聞いたこともないようなすっごいのだったんだから、絶対に一番槍いくんだからね!」

御者台からリナリルが叱責する。

今回のダンジョン探索に最も乗り気なのはリナリルだった。ミクサの遠見の能力も気にせず、自分の直感を信じて御者台に乗り込んだのだ。

「しっかし西の先かぁ……冒険者として直感が利くのはいいことだけど、便りスギってのはどうかと思うよ俺ぁ。もうちょっとほら、俺の遠見を評価してくれてもいいんじゃない?」

ミクサがぼやく。ミクサの遠見とは、寝ている間に見る夢のことだ。近い過去、近い未来で確かに起こった、起こることを垣間見ることのできる能力だ。彼はこの能力で得た風景から『音』の発生源を南と断定した。

「あいつぁバカだがシーフとして……シーフ…………野生の勘だけは一級品だからなぁ」

「まぁ予知できなかった俺も俺だけど、リルの武勇伝なら即死ばかりのウルトラC級トラップを事前情報なしでいくつも掻い潜ってダンジョンの最深部まで辿り着いたのは語り継げるよなぁ。スカだったけど」

「スカだったが、酒の肴には何度でも使えるわなぁ。オチまで含め」

「そう言われると俺の遠見は弱いんだよねぇ……間違いだけは無いんだが、いかんせん過去か未来かわからないからなぁ」

ミクサが道具袋を確認する。薬草に毒消し薬、いざという時に救援を呼べる冒険者の鈴と迷宮抜けの蜘蛛糸、ロープに、魔物への囮になる乙女の髪束、魔力回復の生薬である賢者のあごひげ。目くらましに使う星空の輝石と簡易な結界術の籠められた魔よけの札、ギルド間で通信のできる結晶板、結晶板の燃料になる魔石。これだけあれば十分だろう。

「面白みにも欠けるしな。おっと、そろそろ街を抜けるぞ。アイテムの買い残しはねぇな?」

三人を乗せた馬車がパナトの西市街区の門を抜ける。

次回更新は未定です

飽きたらゾンビまで行き着きません

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