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「博士!博士ぇっ!」

大勢の人間が地団駄を踏むような音が、ひどい振動と一緒になって背中越しにドアの向こうから垂直に聞こえてくる。

いや、ドアの向こうには人間はもういない。世界中の正確な生存者の数は知る由もないが、間違いなく生きているといえるのは、この空間にいる7人だけだ。

人類は敗北した。もう奴らが居ようが居まいが、俺たちのような生き残りが点在していても人類という種が途絶えるのは時間の問題だ。


 始まりから終わりまでは一瞬だった。2017年のハロウィーンの夜、仮装した『保菌者』の集団がアメリカのニューヨークに現れ、そこから瞬く間に世界中に広まった。

ニュースで報道された、『血に飢えた亡者の群れ』とも称された暴徒化した薬物中毒者たちによる集団傷害事件が起きてからの政府の対応は迅速なものだったが、その被害者たちすべてを検査しきることはできず、一部の検査に漏れた者たちが国内、もしくは周辺諸国の街で、飛行機で、客船で、港で、同様の傷害事件を感染的に起こしていった。

そして同じ年の日本の大晦日の夜、こうして人類は絶滅の淵に立たされている。


「陽輔ェ!ワシにはできない!科学者の倫理からして、見ず知らずの世界に破滅の爆弾を押し付けることは!」

壁一面がみしりと音を立てる。補強を重ねたドアが破られるまでに数分も掛らないだろう。

「倫理とか言ってる場合かよ!このままじゃ、どこかの誰かよりも先にこの世界が終っちまうんだ!でもその装置ならできるんだろ!?どこかの誰かを犠牲にしても、この世界を守ることが!」

「ああ、できるとも!この装置なら、ゾンビどものウィルスをターゲットにして、地球上のすべての保菌者を別の次元に転移させることがな!」

「だったらどうして!」

隼が大声で問いただす。

「こ、この世界の生き残りは多くて1000人を下回る程度だろう……残念だが、そんな人数では人類種は守れん。それを救うのと引き換えに、ほかの世界の全てを滅ぼすなど、ワシにも、この場の誰にだって背負いきれるものでは到底ない!」

「博士……!」

7人の呼吸がドアを打ち鳴らすけたたましい音に飲み込まれる。

「でも……でも、それだったら!」

張り裂けるような、振り絞った恵の声が聞こえてくる。

「それだったら、サリアさんとの約束はどうなっちゃうんですか!みんなで世界を救って新年を迎えようって!みんなが笑っていられる世界を作ろうって!博士を信じてたから、アンドリューさんは私を救ってくれたんです!博士はそれを、みんなのことを……!」

「もういい、メグ……博士、俺がやります」

震える恵の肩を抱き寄せる。ドアの悲鳴が大きくなる。

「博士にも、誰にも背負うことができなくても、俺が全部背負います。どうしようもなく重いものだってわかるけど、俺はみんなで笑いあったこの世界で生きていたいんだ。過去も、未来も、他の世界の全てがどうなったっていい。この世界さえ守れるのなら、それで構わない」

ドアから背を離す。つられて恵がよろめきながらついてくる。

「陽輔ェ……」

装置の前に立つ。アンドリューの置き土産か、ターゲットも何もかも設定済みだ。転移先がどこになるかだけは誰にもわからないが、あとはスイッチ一つですべてが片付く。

「陽輔ェ、済まない……ワシが不甲斐無いばかりに、すべてを押し付けてしまっている」

「いいんですよ。俺のワガママです。俺が、そうしたいだけなんです」

ドアの補強が限界を迎えて破断する。ゾンビどもが部屋に入ってくる。

「サリア……アンドリュー……和弘……みんなのおかげで救われたんだ」

スイッチを押す。ゾンビどもの輪郭が揺らぎ、腐臭が消える。

瞬きの後、ゾンビの群れは跡形もなく消えていた。

次回更新は未定です

飽きたらゾンビまで行き着きません

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