奇跡
今回は少し長めに書きました!
そしてPVが1000人を超えました!
8話 奇跡
「ハア、ハア……何とか…倒した…」
カル爺は目の前に倒れている巨大なアリを見下ろす。
両腕と二本の脚は根元から斬られている。さらに胴や顔にも複数の切り傷があり、そこから紫色の液体が流れ落ちていた。
「こんなわしでも倒せたのは本当に奇跡だったな……やはり歳はとりたくないもんじゃな…」
そう言うとカル爺は地面に大の字で倒れた。
「もうだめだ……体が動かん…あとはガイルが迎えに来てくれる事を待つだけ……じゃな」
そのまま目を閉じようとしたその時、突如地面が揺れだした。
がばっ! と起き上がると穴の方を見る。そこからは微かに砂埃が巻き上がっていた。
「まさか……こいつの親⁉︎ この大きさで子供だと言うのか…!」
そう言った瞬間、穴に無数の亀裂と同時に地響きが強まった。
「くそが! 来るなら来やがれ! 返り討ちにしてやる!」
そう叫んだカル爺は既に限界にきている足に鞭を打ち何とか立ち上がると銅剣を構えた。
それをまるで待っていたかのように穴から爆発音と共に一匹の巨大なアリが出てきた。
だが大きさが違いすぎた。まず足の数が八本ある。内二本は先ほどの二倍はある鎌が付いている。そして口にも二個の鎌が左右に付いている。真っ赤な目は四つあり、すべての目がカル爺を見ている。全長は約五メートルはあるだろう。
そんな時一つの目がカル爺の後ろに倒れているアリに気づいた瞬間、凄まじい叫び声をあげだした。そんな目の前のアリにカル爺は一気に距離を詰める。
この一撃で終わらせてやる! このアリやろう!
カル爺は心の中でそう叫ぶとその思いを雄叫びに変え剣を全力で振るった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」
この六十年間の中で最高の一撃。そう心から自信を持って言うえる一撃は巨大なアリの体に当たった。
だがその体からは想像も出来ない程の高密度の鱗に覆われたアリにとってカル爺の放った一撃は傷をつける程度のものでしかなかった。
「ばっ馬鹿な!」
そう口にした瞬間、カル爺は左横腹に強い衝撃を受け吹っ飛んだ。
次に意識が回復した時、カル爺は先ほど倒したはずのアリの死体にもたれていた。
ゆっくりと顔を上げるとパキッという音と共に激痛が身体中を走った。
「くは!」
口から血を吐くと同時にカル爺は目を見開いた。そこには血だらけになった自分の服が目に入ったからだった。
この血は全てわしのものなのか…
口すら動かす事も出来ずに心の中で呟く。
ズシン、ズシンと一歩ずつ近づいてくる巨大親アリ。
薄れゆく意識の中でカル爺はガイルや村長、そして村人達と過ごしたこれまでの日々を断片的に思い出していた。
こんなわしの姿を見たガイルは何て言うだろうな…
そうして意識を手放そうとした瞬間、
諦めるな‼︎ カル爺‼︎‼︎
「‼︎」
カル爺は目を見開くと死ぬかもしれない、いやもう死を待つだけにもかかわらずカル爺は笑みを浮かべ目の前の的に向かって殺気を放った。
「そうだよな! 諦めたらダメだよな……ガイル‼︎」
そう血を口から撒き散らしながらも叫ぶと右足を軸に左腕に持っていた銅剣を後ろに構えると今出る最大の力で巨大アリに向かって剣を突き出した。
アリはその攻撃を見るとまるで効かないと言うかのように何もしない。
その姿を見たカル爺はさらに笑みを浮かべると
「喰らいやがれーー‼︎‼︎」
そう叫びながら放ったカル爺の一撃は奇跡をよんだ。
その一撃は凄まじい硬さの鱗を切り裂きその下にある柔らかな部分に突き刺さった。
驚愕に顔を動かし傷を見た巨大アリは奇妙に叫び声をあげると全力で左手を振るった。その左手についた鎌はいとも簡単にカル爺の左腕を切断した。
「‼︎‼︎」
カル爺は目を見開くと右手で斬り口を抑えながらうずくまった。
巨大アリは目に怒りの炎を灯しながら再び左手の鎌をゆっくりと振り上げた。
かすみだした視界と意識の中で何とかそれを確認したカル爺は笑みを浮かべるとアリに向かって言うった。
「死にやがれ…老いぼれに負けたクズ野郎…」
それを言うい終わったカル爺は心の中で祈った。最後の抵抗として…
そして奇跡は起きた
巨大アリが鎌を振り下ろした。
最後まで目をあけるカル爺。
鎌がカル爺の顔に当たるまで残り三十センチ。
と、次の瞬間、凄まじい閃光が巨大アリの後ろから見えたとカル爺が思った次の瞬間、巨大アリが爆発した。
「なっ!」
巨大アリの上半身は吹き飛び中を顔だけが舞った。
砂埃がやんだ後に残っていたのは2本の足がついた巨大な下半身とカル爺の顔の目の前に落ちている巨大なアリの顔だけだった。
カル爺は再び閃光が起きた方角に顔を向けた。
するとそこには太陽の光をキラリと反射させる銀色の軽装鎧に身を包む百七十センチ程の一人の男と同じく軽装鎧を身につけ紺色のスカートをはいた巨大な大剣を背負う百五十センチほどの少女がこちらに向かって走ってきていた。
「お前達は…一体……だれ…なんだ…?」
そう言うとカル爺の意識は途切れた。
ーーーー
それは今から十分程前の話だ
俺とマヤがある山を遠回りしながら歩いている時に事件は起きた。
俺とマヤは魔法が使えるかどうかの実験をしながら草原を歩いていると突如、魔物の叫び声が聞こえたのだ。
俺は剣の柄に手を置き周囲を警戒する。多分俺の後ろでは同じようにマヤも大剣の柄に手を置いている事だろう。
周囲を確認するが魔物の姿はどこにもない。
一体どう言う事だ?
そんな事を考えていると今度は微かではあったが人の叫び声が聞こえてきた。
その声を聞いた俺は瞬時に後ろを向いた。するとマヤも同じくこっちを向いていた。
俺とマヤは一度だけ頷くと柄から手を離し走りだした。
そして走る事約八分弱。
俺とマヤはあまりの驚愕に目を丸くしていた。それは体格のいい六十代程の男性が巨大なアリの魔物クリーアントと闘っていたのだ。
正確には老人が剣を全力で振るった瞬間を目撃したのだ。
その一撃は遠くから見ていても凄まじい一撃だと言うことはすぐに分かった。
だがそんな一撃もクリーアントには傷しか与えることは出来ず固まった老人をクリーアントは左手を無造作に振るうことで吹き飛ばした。
「あっ!」
マヤが声を出す。
通常ならここは助けに行くべき場面だろう。
しかし、俺たちが言ったところで戦況が変わるとは限らない。現にあの老人の方が俺やマヤより強いのはさっきの一撃で分かっている。
そんな老人ですら勝てない相手に一体どうしろと言うのか?
わざわざ負けると分かっている闘いに首を出すのは馬鹿がやることだ。
そう考えた俺はこうして遠くから見ているのだ。
確かに目の前で人が死ぬのを指をくわえて見ているのは良い気分ではない。
だが他に方法がないのだ。
そんな事を考えながら老人とクリーアントの闘いを見ているとついにクリーアントは倒れた老人に向かって鎌を振り上げた次の瞬間、突如老人は何かを叫びながら再び左手に持った剣をクリーアントに突き刺した。
その瞬間、俺にはあの老人が何を叫んだかは分からなかったが1つだけ分かったことがあった。
それは…
「諦めてない…」
そう、老人はあそこまで攻撃をくらい、いつ死んでもおかしくない状態の中でも諦めてないないのだ。
それが決して自分が死ぬかもしれないと分かっていたとしてもあの老人は諦めてないないのだ。
なのに自分はどうだ。
まだこの世界にきて二日目、剣はおろか魔法すら立てに使えないからと最初から諦め、あの老人を見捨てようとした自分はどうなのか?
俺はどんなに恥ずかしい人間なんだ!
あんな老人が剣を振るい諦めてないのに!
この俺ときたら…‼︎
気づけば俺は走りだしていた。後ろからはマヤの叫び声が聞こえた気がしたが今は無視する。
今自分が信頼できる最後の切り札。それにこの思いを乗せ、あの魔物を倒し、老人を助ける。ただそれだけに意識を集中させながら俺は走り続けていた。
攻撃を受けたクリーアントは怒りの叫び声をあげると凄まじい速さで左手の鎌を振るった
数十メートル先で老人の左腕が宙に舞う。
もう迷っている時間ない!
そう判断した俺は腰から剣を抜くとそれに魔力を集めるイメージをした。
次に自分がしようとしている魔法のイメージを思い浮かべた。すると剣の周りに青白いエフェクトが発生し、それは瞬時に放電へと姿を変えた。
剣の周りにバチバチと音を出す電流の渦。
魔法が完成した事を確認すると再び老人とクリーアントの方に視界を向ける。
するとそこには左手をゆっくりと上に向けるクリーアントの姿があった。
間に合ってくれ!
俺はそう心の中で強く願うとそれに反応したように剣に集まっていた電流が今まで以上に活発に動きだした。
俺はその剣を大きく振りかぶると
「貫けーー‼︎ ライトニング・ソード!」
と叫び剣を投擲した。
俺の手から離れ飛んで行った剣は後ろに青白い線を引きながら凄まじい勢いで飛んでゆき、クリーアントが左手を振るい、その先端が老人の顔に当たる瞬間、着弾、凄まじい閃光と共に爆発がが生じた。
数秒後、土煙がやんだ後にはクリーアントの下半身と顔だけが残っていた。
俺は半ば成功するとは思っていなかったため呆然としながら突っ立っていると後ろからマヤが走ってきた。
「ほらっ! 何やってるんですか? すぐに助けに行きますよ?」
「えっ? あっ、そうだな…うん…助けに行かないとな!」
そう返事をすると俺とマヤは急いで老人が倒れた場所まで走って行った。
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