ルビー・ワインに愛を込めて
はぁ……
暇だな……
「あー……テイスティングの特訓でもするかな」
俺こと、工藤 勉、18歳は現在とある国に移住している。
基本的に英語も話せず「某メディアの頂点の国では、飯すら食えずに死ぬ」とまで、外国語教師に宣告された俺が、外国に来たのだ。
こっちでの生活は平凡極まりない物だったが、まあ、人生はそれなりにうまくいくもので、最近は出店巡りと、日本では許されないであろう未成年のワインにはまっているほどだ。
外国語教師がくれた単語帳のおかげだな、有難や有難や。
まあ、そのせいである程度の英語は使えても、複雑な言い回しとかはまったくわからないし、知る気もしない。
そこらへんは、さすが俺だ。
自分に賞賛の拍手を贈ろう。
「はぁ……何やってんだ、俺」
本日何度目かのため息。
もう、本当嫌になってくるほど。
できるなら、あの平凡な日本に帰りたい。
常々思うよ、本当。
そんなことを考えている、いつも通りの日に、事件は起こった。
◇◆◇◆◇
俺が買い物から帰ると、ケータイを耳に当て、通話中の女がいた。
なにこれ、めっちゃ怖いんだけど。
「ふむ……18歳か。ネットのアダルトコミックが本当は許されない年齢だな」
「あのー……俺になんか用ですか? そうじゃないなら、どいてください。できることなら、帰ってください」
俺は、我が家の扉の目の前に突っ立っている長身のR18ボディのチャンネーに、退いてもらえるようお願いする。
「む? ……ああ、君だな? 勉クンというのは」
字面で見るとガリ勉みたいに見えるから、名前で呼ぶのはできればやめて欲しい。
俺の、そんな心の中の悲痛な願いは届か……
「では、工藤クン用件を端的に言わせてもらう」
え? 名前を言い直した? 嘘……だろ?
「ああ、悪い。私は超能力の持ち主でな。人の心が読めるというものだ……」
え? 何言ってんの? このチャンネー、イタイ子なの? ……ってもし本当だったら、R18ボディのくだりも読まれてたってことか!?
「ふっ……顔が真っ赤だな。慣れているから安心しろ。……それより、家に入らないか? お茶を出してもらうぞ?」
「ああ、そうだな……っておい! お茶を出すか決めるのも俺! 家に入れるのも俺なんだけど!」
「いいじゃないか、それより、入るぞ?」
そう言って、チャンネーはピッキングで家の鍵を開けた。
「やめい!」
俺は、手刀でチャンネーの後頭部をガツンと叩く。
「ああ、悪い。まあ、開いたし、入ろう」
「だから勝手に入んな!」
俺は、無理矢理チャンネーを退かすと、我先にと我が家へと駆け込み、全ての部屋の鍵を閉め、リビングを片付ける。
「よし、入っていいぞ」
「綺麗な部屋だな」
「入って来てたのかよ……」
俺は、チャンネーに合図をしたつもりだったが、チャンネーはそれよりもずっと先に入ってた様だ。
家主の許可無しに家に入るか? フツー。
どんだけこいつは日本文化が通じないんだ。
「あ、そうだ」
俺が悶々とした空気を出していると、唐突にチャンネーは話を切り出す。
「名前、言ってなかったな。私の名前は、ユリーナだ。好きな物はワイン。よろしく、工藤クン」
その挨拶で見せた笑顔に、俺の心臓の鼓動は高まる。
すげえ可愛い、ありえねぇわ。
……いやいや、こいつは心が読めるんだっけ……
ああ! もう、何がなんだかわかんねぇ!
……けど、こんなのも、いいな。
「ああ、よろしく。今度、俺のオススメのルマネコンティ、奢ってやるよ」
「ああ、楽しみにしているよ!」
そう言って笑うユリーナは、やはり異常なほど魅力的だった。
◇◆◇◆◇