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第45話 真夏の夜空に消えるものは

意識を集中する。


集中だ!集中!感じとるんだ!俺!


俺は今、3次元の女の子を背負っているんだぞ?

大なり小なりあの感触はあるはずなんだ!


探せ!桃のすべてをそこに集約した!


落ち込んでいる桃のためにも俺は、探さなきゃならないんだ!


背中に意識を集中させることしばし、俺はついにあるべき、いや、あって欲しかった感触を見つけることが出来た。

この感触はなんだ?なんて表せばいい?

ぽよん?いや、ふにょん?いやいや、ふよん?いやいやいや、ふに?いやいやいやいや、ふにももったいないな。


この背中に当たる微かな、本の微量な感触を表す擬音となると……


「ふ(笑)」


うん。これはふで十分だな。ふにょん?ふに?なんて使ったら、ふにょん様やふにん様に失礼な気がする。

つか、桃の全てが「ふ」て、「ふ」で表せちゃうてわらっちゃ……


「なんで今笑ったんですか!?」


「すまん。まじすまん」


失礼だぞ!女の子の胸を「ふ」で表すとか!

誰だ!出てこい!

桃の胸の感触を「ふ」で表したヤツ!


……俺だ。


いやでも待って。

だって期待しちゃうじゃん?

これがマロンちゃんだったら俺は今頃……


「すみませんね!昇天できるほど大きさがなくて!」


「すまん!まじすんません!」


桃がいきなりキレだしたので、条件反射で謝ってしまった。

え?今の俺が悪いの?

う〜ん。……俺が悪い…気がする。


つか、心読むのまじやめてください!


「も、桃さん?」


「なんですか?」


「怒ってます?」


「怒ってないですよ?」


いやー、桃の声的にすげー怒ってるな。

やっべーどうっすかなー。


「うふふ。冗談です。ほんとに今は怒ってないですよ?」


「ほんとか?」


「ほんとうですって。確かにほんの数秒前は怒ってましたけど」


確かに今の桃の声音は普通だ。

いや、むしろ機嫌が良くないかってくらい声音がいい気がする。

いい事でもあったことを思い出したのか?


「今が、いい事起きてる最中なんですよ」


「は?今?なんで?俺に体重を暴露ってる体勢で、なおかつ周囲のリア充共からチラチラ見られてるこの状況が?」


「ひ、陽向くんには分からないですよ!」


この言い方。

リア充共に見られているって言うのを今気づいた感じだな。



「うわーすげー人だな」


砂浜に着くと、そこにはたくさんの人がいた。

右見りゃ人。(リア充)左を向けば人。(リア充)

前を向いても人。(リア充)


はっ!爆ぜろっ!


「なんか人(リア充)がゴミみたいで気分悪いな。それに、花火であとちょっとみたいだし、どうする?帰る?」


「なんで某ボッチ系ひねくれ主人公みたいに自然に帰宅を提案できるんですか。帰らないですからね?」


「だよなー」


まぁ、普通は帰らないですよねー。

花火も5分やそこらで始まるだろうし。


「しがみついてるのも疲れただろ?ベンチにでも座るか?」


花火を見るためなのか、砂浜の至るところに簡易式のベンチが置いてあった。

桃もさっきからおんぶされているとはいえ、多少なりしがみつくので体力を使ってるはずだ。ベンチで座らせた方がいいだろ。


俺も腰が痛くなってきたし。


「そうですね。あ、いやでも私はこのままでも」


「なんか言ったか?」


最後の方は桃がぽしょぽしょと言ったおかげで、5キロ先の二次元美少女あいつらの声を聞くことが出来るゴットイヤーを持つ俺でさえも聞き取れなかった。


「いえなんでもありません。座るにしてもどこも埋まってないですか?」


「ん?そうだなー」


桃の言う通り、置いてあるベンチには、既に何組ものカップル共が座っていて俺達が座れそうなベンチは残っていなかった。


「あ、でも待て。あそこ詰めてもらえればなんとか座れそうだ。少し詰めてもらうか」


詰めれば俺たちも座れそうなベンチを見つけた俺は、すぐにベンチに近づく。

ベンチにはチャラい男とギャルみたいな女の子が居て、バカっぷるぶりをぞんざいに発揮していた。


「陽向くん。ゆっくり、ゆっくり話しかけるんですよ?それと笑顔も忘れちゃダメですからね?」


「分かってるよ。お前は俺のオカンかよ。舐めすぎだろ俺のこと」


「私がなりたいのは、陽向くんのお母さんじゃなくて、陽向くんの」


「まぁ、なんでもいいや。俺の交渉術みてろよ」


俺がベンチまで歩くと、相手も気づいたのかイチャついてる状態から、俺を見上げる。


「あ?なに?」


「ヒロ君怖すぎー。威嚇してるー」


なんか、こういうノリイラっとするな。これだから3次元は。

我慢だ我慢。桃の言ったことを忘れたのか?


「つか、なんでおんぶ?ウケルんですけど」


「ねー。まじウケルー」


いやウケねーし。つか、見た目と言い言い方といいなんかこいつら古いな。


おんぶしている俺を見てケラケラと笑うチャラ男とギャル。

桃から不満の吐息が漏れる。

桃もこうやって我慢してるんだ。俺も耐えなくちゃな。


人見知りの俺だが、こういう奴らだと人見知る前にイラっとしてしまう節があるから、こういう奴らには人見知りというより、イラっとする。


こんな奴らに詰めてもらうお願いをすんのも馬鹿らしいが、他を探してるあいだに、花火が始まるのもなんだし、やっぱりこいつらにお願いするしかない。


イラっとするな。耐えろ俺。帰ったら二次元美少女あいつらが待ってるんだから!


しょうがない。交渉しよう。桃が言っていたな。

まずは笑顔。そして、笑顔。


俺はどうにかイラっとするのを抑えながら顔を笑顔へと変える。っと、その前にウケないものはウケないからな。そこはちゃんと言っとかないと。


「は?なんもウケないんですけど」


そして笑顔っと。


「(にっ)」


「「ひっ!!!」」


「でさ、お願いがあるんだけ」


「「すみませんでしたー!!!!」」


俺がお願いする前にベンチから立ち去ったチャラ男とギャル。

後に残ったのは俺と桃だけだった。


「陽向くん何をしたんですか?」


「え?ただ笑顔で接しただけなんだけど」


「私が悪いですね。そうして下さいと言った私が」


なせだか、桃にため息をつかれた。


「でもまぁ、スッキリしたんでよしとしましょう!」



『これより第16回花火大会を開始いたします』


ベンチに座って、さっきふんふんマートで買った飲み物やお菓子を食べながらくつろいでいると、スピーカーから女性の声とともに、そう宣言された。


「この花火大会、俺らが産まれた時からやってるのな」


「みたいですね。なんか運命感じますね」


桃の言う通り、自分らと同じく歴史を刻んでく花火大会っていうのは、運命を感じるな。

なんだか、嬉しい。


「おっ。始まったな」


ヒュードーンと、一発目の花火が真夏の夜空にあがった。

一発目の花火は、赤色の円形の花火で、どの花火大会でもみる馴染み深いやつだ。


「綺麗ですねー」


「だな」


「陽向くんそこは君の方が綺麗だよって言うところですよ?」


「そんな黒歴史ノートをクラス全員に公開されて家で布団の中で悶えるセリフ言えるかよ」


「例えが分かりづらいですよ。公開されたことあるんですか?」


「いやない」


黒歴史ノートはな。


「知ってるんですよ?私。お家では彼女たちに向かって事あるごとに、君の方が可愛いよって呟いてること」


「やめて!俺のライフはもうゼロよ!」


恥ずかしい!俺がよなよな二次元美少女あいつらに向かって、何を言っているのさ。ハニーの方が可愛いよ☆って言ってるのを知られてることが!

つか、なんで知ってるんだよっ!俺のトップシークレットだぞ!?


「ふふ。全部は知らないですよ?知ってることだけ知ってます」


「どこぞの委員長だよ」



いろいろな花火が打ち上がって、その度に周りからおーだの、すごいだのと歓声が響く。


真夏の夜空に上がり消え行く花火は、まるで夏の終わりを告げているようだった。


「陽向くん。少し、私の言葉に耳を傾けてもらっていいですか?」


ヒュードーンと、響き渡っている花火の音がする中でも、透き通った桃の声はよく聞こえた。

その桃の、えらく真剣な声音に疑問を感じた俺は、花火を見るために上げていた顔を、隣にいる桃に向ける。


花火の光によって、映る桃の顔は、俺が見てきた桃の中でも一番と言っていいほど、綺麗だった。


「どうしたんだよ。急に」


「少しでいいんです。少し、私の言葉を聞いてくれませんか?」


「おう」


桃の真剣な顔に、俺も答えた。


なぜだが、桃がこれから何をするのか。何を言おうとするのかがなんとなく分かった気がした。

そのせいなのか、自分の身体が自分の身体じゃないみたく、強ばって動かなくなる。

緊張してしまっていた。


この感じを俺は、中学の時にも経験したことがある。一瞬、中学時代の記憶が蘇った。


桃も、緊張しているのか、ふぅと1つ息を吐くと、言葉を続けた。


「私が不良に絡まれて、陽向くんに助けてもらった時のこと覚えてますか?」


「あぁ。覚えてる。助けたつもりは無いけどな」


あの時は偶然、あそこに通りかかって、偶然桃がいただけだから。


「はい。陽向くんに助けたつもりはなかったのかもしれません。でも助けられたのは事実です」


確かに、結果的には、助けたことになる。


「あれが、2回目です」


「え?2回目?」


「覚えてないかもしれないですけど、入学式の時にも私は助けられたんですよ?」


俺が入学式で桃をたすけた?


「わるい。覚えてない」


「ふふ。そうだろうと思いました。じゃあこれは、私だけの特別な思い出ですね」


クスクスと笑う桃は、俺が忘れてしまった出来事を懐かしむように目を閉じていた。


ひとしきり、目を閉じ終えると、再び目を開き俺を見つめる。


「陽向くんに助けられて私は良かったと思ってます。じゃなければ、こんなに楽しい毎日を過ごせていたとは思えません」


「おう」



私の言う言葉に、陽向くんは恥ずかしがったりしながら聞いてくれる。


ふぅ。緊張しますね。


好きな人に想いを伝えるのがこんなにも緊張するものだとは、知らなかっです。


主人公に告白するヒロインたちを尊敬しちゃいますね。


そして、私は自分の想いを陽向くんに伝えた。



「陽向くん」


「おう」


わなわなと桃の唇が、震えている。

それでも、しっかりと桃は。


「好きです……。私を陽向くんの彼女にしてください……」


花火の音が煩い中でも桃の言葉は、かき消されること無く、俺の耳にしっかりと聞こえた。


言い切った桃の表情は、優しい笑顔を浮かべていた。

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