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第18話 日常

「瀬尾」


教室に響く俺の名前。

それを聞いてか、はたまた、それを言った人物に驚いたのか、昼休みになったばかりの教室はさっきまでの喧騒といった騒がしさはなくなり、戦慄が走ったかのように静まり返った。


『あれってD組の……』


『しっ!こっち見てるよ!』


『瀬尾を呼んだぞ』


『どっかの高校でも潰すのか?』


いや、潰さねーし。暴力なんて怖いから。


あっちこっちから俺と俺の名前を呼んだ人物、柏木の名前を囁く俺のクラスメイトたち。


不良である柏木にビビってるのは分かっけど、なんで俺にもビビってんだよ。


柏木はそんなクラスの雰囲気など気にせず、スタスタと俺の席の前までやってくる。


「よっ宇宙(そら)


「次その名前で呼んだら強制的に私を孕ませてもらうからな」



ガタっ←クラスの女子臨戦態勢


カチャガチャ←クラスの男子拷問道具準備


バタンっ←桃が倒れた音


ポトっスタッ←弁当を落としてすざましい速さで去っていく霧咲


ガラ、よし←窓をあけて、覚悟を決めた俺



「おい!陽向!ここ4階だぞ!?何する気だ!?」


「離してくれ智和!俺はもう生きてける気がしないんだ!!」


「そうだぞ瀬尾!危ないからやめろ!」


「元はといえばお前が原因なんだからな!?柏木っ!」


なんてやつだ!真昼間の健全な教室ですげー一言いいやがった!そして悪びれてる様子もない!


女子どもなんてゴミを見るような目で俺を見てるし、男子なんかその女子に拷問道具を渡してるぞ!?

なんだよっ!このチームワークの良さわ!全然知らなかったんだけど俺!?


つか、言ったの柏木だからねっ!?俺じゃないからね!?だから立ち直って、女子の軍団に入って俺を撲殺せんと先陣を切ろうとしている桃さんやめてくれませんかね!?


「しまった。教卓に忘れ物を……ん?なんの騒ぎだこれは?」


殺伐とした空気の中で、忘れのをしたのか先生が教室に入ってきた。


良かった。先生は教育者だこれで俺の無実が証明ーー


「ーー陽向お前か?」


「なんで一度たりとも俺の方を見てないのに決め付けるんですか!?」


ダメだ!この場に俺の見方はいない!


いやたしかに!言ったのは柏木だけど、こういう教室の状況を作り出したのはほぼほぼ俺のせいですけど!(不本意ながら)だからって速攻で決めつけなくても!


「まったく、お前ってやつは……しょうがない、私が何とかしてやろう」


「ほんとですか先生!?」


良かった!先生は味方だ!


「あぁ。今のお前にバーサーカーと化した篠原は止められないだろ?」


はぁ、はぁと息を切らしながら近づいてきている桃を俺は視界の端に、いや、感覚で察知した。


助けて!!セイバー!!


「お願いします先生!」


「それと、ついでだ。他の奴らもなんとかしてやる」


「教室にいる連中(こいつら)ですか?」


「事態が収まったとしても、記憶が残ってたら生活しずらいだろ?」


「まぁ、そうですけど……何をする気ですか?」


「心配するな。ただ記憶を消すだけだ。私は記憶を消す術を持っているからな」


高校の一教師がなんで記憶消去法を会得してるんだ!?


「まぁ、そこで少し大人しくしてろ。すぐに終わる」


そう言って不敵に笑った先生を俺は見た。



「悪かったな瀬尾」


「まったくだ。たくっ、先生が来なかったら俺、肩身の狭い思いをしながら学校生活を過ごすところだったぞ?」


「ほんと悪い」


ほんとに申し訳なさそうな顔をしているし、これぐらいで許そう。


「つか、なんで名前で呼ばれんのやなんだ?せっかく可愛い名前してんのに」


宇宙なんて今時の名前みたいで可愛いのに。


「か、かわ……んん。嫌なもんはやなんだよ。…………恥ずかしいから」


「そ、そうか」


まっ、人それぞれに事情はあるしな。


残り少なくなった昼休みを俺たち四人、俺、桃、霧咲、柏木で憩いの場へと昼飯を喰いに来た。前とは違い、今では四人で一つのテーブルを囲んで食っている。


教室での騒動は先生がほんとに何とかしてくれた。

つか、ピンポイントで記憶を消すってどうやるんですか?先生!


数名の女子に「目が合ったら妊娠しちゃう」と、通り過ぎに言われたのは幻聴であり、きのせいだろう。先生が「やべ、何人かに変に記憶を埋め込んじまった」と言うのも気のせいだ。気のせいだと信じたい。俺は信じる!


「陽向くん。さっきはすいませんでした。取り乱しました」


「まったくだ。冷静に考えたら俺が悪くないってお前なら分かるだろうに」


さっきから、あまり、弁当が進んでいない桃が申し訳なさそうに誤ってくる。


普段の桃なら柏木が勝手に言ったことであり、俺が何も関与してないことは分かると思うんだけどな。人は一瞬でも理性を失うと、どうにもならないことを知ったよ。


「陽向さん。私もすいませんでした」


「ん?すいませんって霧咲は特に何もしてないだろ?」


ただ走り去って行っただけなんだし。とてつもないスピードで。


「いえ!一瞬でも陽向さんを疑い、信じなかった私は悪い子です!」


「いいよ、気にすんなって。誰でも誤解することはあるし」


「で、でも……やっぱり私の気が治まりません!」


いや、そこは治めてくれよ。ん?なんか懐かしいなこの感じ。


「ほんとに気にすんなって」


「いえ、ダメです!なので陽向さん!」


「ん?」


おもむろに、開襟シャツのボタンを一つ一つ外していく霧咲。


「私を孕ませてくださいっ!」


……


……


……


「今日の弁当は旨いなー。色鮮やかで食欲もそそるし」


「あっほんとうですか?」


「瀬尾、私のはどうだ?」


「おう。柏木のも旨いぞ。特にこの肉じゃが」


こいつらの弁当なほんとに旨いなー


「へへっありがとうございます。毎朝頑張って作るかいがありますよ」


「そ、そうか。また作ってやるよ肉じゃが」


はぁ、今日も今日とて弁当は旨ー


「無視しないでくださいよ!」


「お前がそういう状況にしたんだろうがー!!」


なんで1日2回も女の子の口から孕ませてという言葉を聞かなきゃいけねーんだよ!!ほんとなにこれ!?どうせ聞くなら二次元美少女(あいつら)から聞きたい!


「ていうか陽向さん!私のお弁当はどうなんですか?」


「ん?普通に旨いぞ。俺の好みにピッタリだ」


「あ、ありがとうございます」


ふぅ~。なんとかボタンを留め直してくれたな。

ほんとに霧咲は破天荒すぎて怖い。


「瀬尾、昨日の深夜アニメは何か見た?」


場がなんとか落ち着いたところで柏木が聞いてくる。


「おう見たぞ。可愛いよな~ましろたん。つかあのオープニングのやさぐれてる感じが俺的にはいい」


「いや、オープニングならダブルピースを夕日だか朝日だかにむけてやってるところでしょ?」


「あ~あれもやばい。微妙に飛び跳ねてるところとかな」


「そうそう」


「「…………」」


「あれは?凪のあ〇からは?」


「あ~あれ、2クールめからめっちゃ面白くなったよな~。みうなの中学生姿なんかもう」


「このロリコン」


「俺はロリコンなんかじゃないぞ?ただ中学生が好きなだけだ」


まったく……中学生は最高だぜっ!


「変わんねぇじゃん」


「全然違うぞ?」


ロリコンと犯罪者と守護神(ガーディアン)と中学生好きは全くの別物だからな!


「古いけど今私、ひ〇らし来てるんだよね」


「いいよなひぐ〇し。全部見たあとに曲なんて聞いたらもう……」


「普通に泣ける」


「それな」


昼飯を食いながらアニメ談義……


やべっ普通に楽しいんだけど。


やっぱアニメをいや、趣味を話せる人がいるっていうのはやっぱりいいもんだな。ほんとに柏木が入部してくれて良かった。毎日アニメのことを学校で話せるなんて楽しすぎるぜ全く!


「「…………」」


ここで俺は、会話にまったく参加して来ない桃と霧咲に気づく。


「どうした?二人とも。そんなに黙々と弁当食って。お前らも会話に参加しようぜ」


「い、いえ、その。私には分からない会話が繰り広げられてるものですから」


「私もよく分からなくて……」


柏木と違ってこいつらはアニメ好きじゃないからな。分からなかったのか。つい楽しすぎて俺と柏木しか話せない会話にしてしまった俺が悪いな。


「あっ悪い、お前らには分からないよな」


「い、いえ!でも分かったこともありましたよ?」


おっさすがに全部とはいかないけど、少しは分かるところがあったか、霧咲もそこそこは見てるのかもな。


なぜか、真剣な表情をしてどことなく闘志を燃やしながら霧咲は言う。


「ましろたんさんとか言う人とみうなさんとか言う人が(ライバル)だと言うことが」


「まったく分かってない、だと!?」


いや霧咲それは分かってないからな?

二次元相手に勝負を挑もうとするなよ?

二次元美少女(あいつら)が絶対勝っちゃうんだから。


ましろたんさんか……ましろ、たんさんにすると飲み物みたいだな。……飲んでみたい。


「まったくってなんですか!?陽向さん!!私分かってますよ!?」


「よし分かった。じゃ何を分かってるんだ?」


「今のところ、陽向さんの心を掴んでいるのは2人いるということです!!ましろたんさんとみうなさんって人たちが!!」


「うん。わかってないからね?霧咲」


それじゃアニメじゃなくて俺の好みが分かってるってことだから。


「う~ん」


「どうした桃?」


珍しく唸ってるな。


「いやですね。柏木さんが入部したことにより、こうやってまた陽向さんと柏木さんしか分からないのうな会話をして、私たちが参加出来ないようなことがこの先もあるんじゃないかと思いまして」


「そりゃお前……」


無いとは言いきれないな。うん。


「そこで、私考えました。陽向さんの家で勉強会を開きましょう!」


「……うん。なんで?」


どうしたら、こういう結論に至るんだよ!


「もう少しで考査があるじゃないですか?」


「うん。あるな」


「なので、考査対策とその時の休憩時間を使って皆でアニメを見ましょう!二つの意味で勉強できますよ?私と霧咲さんは!」


たしかに、考査も近いし、桃と霧咲にとっては二つの意味で勉強できる。結構いい案だとは思うけど。


「それをどこでやるって?」


「陽向さんの家でですよ?」


「なんで俺ん家!?」


「だって、考査期間に入ってしまうと部室は使えませんし、図書館などだとアニメは鑑賞できませんので」


まぁそうなると必然的に俺ん家か柏木の家になるな。桃と霧咲はアニメのDVDとか持ってないだろうし。ワン〇ースくらいしか。


「まぁ、いいけどさ」


「え?いいんですか?」


「なんで驚いてんだよ。言ったのは桃だろ?」


「そうですけど……。もう少し嫌がると思ってたので」


一人暮らししてる俺ん家の方が便利だろうし、特に断る理由もないしな。


「て訳だけど、二つの意味での勉強を兼ねて俺ん家で勉強会をするらしいけどいいか?」


霧咲と柏木に確認をとる。都合が合わないかもしれないし、男子の家に行きたくもないだろうし。


「はい!勝負下着を穿いてきます!」


「私もちょうど、新品の教科書に折り目を付けたいと思ってたところだったんだ」


霧咲は安定のスルーだな。

つか、柏木、もう六月なのに新品て……。


まぁ二人ともいいってことだろ。


「では詳しいことは放課後、部室でいいですね?」


桃の言葉に俺たちはそれぞれ返事をしたとこころで、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

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