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第96話 プリティア

今年一発目です!

「すげー混んでるな」


「まぁ休日だしね」


電車から降りた俺達は、その人の多さに圧倒されていた。

普段こういった人混みのところに行かないのもあってか、もう既に帰りたい。ちょー帰りたい。

帰ってマロンちゃんに癒されたいとまで思っていた。


さんさんと俺たちを太陽がこれでもかと言うくらい照らす。まだ夏前とはいえ、こんなに天気がよくて太陽が出ていると少し暑い。部屋で涼みたいぜ。


「どうする瀬尾。帰る?」


「なんでお前から誘っておいて、そんなナチュラルに帰宅提案できんたよ!」


お前のそのナチュラルな感じはどこぞのひきたにさんですか!

ゆいのガハマさんと祭りデートでも行くんですか!


「まさかこんなに人が多いとは思わなかったから」


「まぁインドアの俺たちからしたら、未知の領域だよな」


「アニメのイベント、ライブとかならどうにでもなるのに」


「分かる。分かるぞ柏木。」


アニメのイベント、ライブも小さな会場とかでなかなかの人が集まるからそこそこの人混みなのだが、あれはあれでそういうものだと思っているせいかなんとでもなる。

でもいざただの遊びとなるとこの人混みが急に鬱陶しく、そして若干気持ち悪くさえなってくる。

これがインドアの辛いところか……。


「瀬尾これからどうしようか」


「そうだな。帰るか?」


……


!?!!!?!??


「!?」


腹を思いっきり殴られた。

すげー痛い。


「どうしてそんなナチュラルに提案できんの?」


「ほんの数秒前のお前に俺が言ったセリフなんだが」


「一応女の子とのデートなのに酷い」


「理不尽すぎんだろ……」


あー痛い。めちゃくちゃ痛い。

泣きそうだ。てか涙目になってる。

一応女の子って柏木さん女の子の自覚あったんですね。

それだったら暴力は良くないと思いますよ?

なんでって?俺の体が持たないからね☆


あとな?無表情で酷いとか言われても、悲しんでるのかどうか分かりません。

あとほんとに殴らないでまじで痛い!!



「駅から園に入るまで結構あるな」


駅には着いたのだが、そこから遊園地自体は見えるものの、そこそこの距離がある。

道中にはそんなことを感じさせないように、お土産屋さんなどの商業施設や遊園地のスタッフであろう人達が何かしら客引きやイベントをやって盛り上げている。

傍から見れば楽しそうで、これから俺達もあのワクワクの中に飛び込むんだと思えるのだろうが、距離長ぇ〜だりぃ〜が先に思い浮かんだ俺にとってはこの園までの距離は億劫でしかない。


「確かに遠いな」


俺の意見に柏木も賛同する。

少し眉をひそめ気だるそうなその顔は、俺と一緒だ。


「けどここまで来たら行くしかない」


そう言って柏木は背負っていた小さなリュック(女の子が持っているリュックだけどそんな小さいのでものが入るの?)から、チラシを取り出した。


「このプリティアショーをみるためには……!」


トーンは小さく、けど熱い思いがこもったその声は並々ならぬ思いを感じさせた。


「まさか柏木お前……遊園地に来たかった理由って……」


「そ。このプリティアショーをみるため」


プリティアとは、女児向けアニメのことで正義の女の子たちが変身して悪い奴らと戦う心躍るハートフルなアニメのことだ。


プ〇キュアと内容が似ているからたまにゴッチャになるファンが多いようだが、俺レベルになると秒で見分けができる。

伊達に女児向けアニメを正座で見てないからな!


「お前が遊園地なんていうアウトドアな場所を選ぶなんて、不思議なことがあるもんだと思っていたが、ようやく合点がいったぜ」


「なに?悪いの?でもどうせ瀬尾も見たいでしょ?」


「どこまでもついて行きます」



俺や桃たちが見て止まない、ワ〇ピースが掲載されているジャ〇プの文句が友情・努力・勝利だとすれば、プリティアやプリキ〇アは愛・平和・可愛いと言ったところだろう。


まぁ〜可愛かった。すごく良かった。そしてなにより面白かった。


小さなそれこそ女児たちが、「がんばりぇー」だの「まけないでぇー」などと熱い声援を送ってる中で俺と柏木は、それこそ高校生らしい太い声で「サイコーだぜぇ!!」「来週も見ますっ!」と、熱のこもった応援をしていた。


「瀬尾はしゃぎすぎ」


「柏木お前も凄かったぞ」


ショーを見終えた俺達は、園内にある施設で軽食を取る事にして、テキトーに施設に入った。


俺達が入った頃は少し空いていたが、昼時になり中も混み始めてきた。そろそろ用が済んだ俺達は出た方がいいかもしれない。


「しかしいいショーだったな」


「瀬尾は羞恥心を少しは持った方がいいけどね」


うるせー。

別に高校生がショーを見ちゃダメっていう決まりはないんだからいいじゃねーかよ。

まぁ、確かに周りの目はうわぁーとか、ヤンキーだぁとか言ってたけど、てか言われてんじゃねーかっ!

だけどプリティアショーを見るためには鋼の心で居なきゃならないから努力したぜ。


「さてと、飯も食ったし帰るか?」


「1発いい?」


「心の底からごめんなさい」


「時間もまだあるし、ちょっと付き合ってよ」


「おう……」


柏木から付き合ってと言われると、なんでか校舎裏に呼び出された感覚になるのはなんでだろう?



「ジェットコースター……」


「なに?嫌いなの?」


「いや、まぁ、平気だ」


「じゃ並ぼっか」


柏木を先頭にして園内を歩き回った俺達は、ジェットコースターへとたどり着いた。

ここの遊園地のジェットコースターは、高さが日本一なことで有名で、絶叫マシーンが好きな人達にとっては聖地と呼ばれるほどの人気アトラクションだ。


人気アトラクションという事はあって、今も沢山の人達が並んでいる。

こんな光景をみてしまうと帰りたくなるは自然の性だろう。

起きる時間を間違えて物販の列に並ぶのを遅れた日には、並んでいる人の数でどのグッズがどのタイミングで無くなるかなんて想像できるのは容易くて、帰りたくなるあの気持ちと同じだ。


まぁ、結果なんでもいいから欲しくなって並ぶんだけどな。


最後尾に並んだ俺達は、自分らの番が来るまでアニメの話題とかで時間を潰すことに。

さすが柏木と言ったところで、俺がどんなアニメの話をしだしても、すぐに返答してくる。

楽しくなった俺は、並んでる間柏木とアニメ、ラノベ、漫画ありとあらゆるオタクジャンルのことを語り合った。


そしてついに、俺たちの番が来ようとしていた。


「瀬尾なんか顔色悪いけど大丈夫?やめとく?」


「大丈夫だ。ただ、あんまりジェットコースターに乗ったことがないからな。高い所も好きか嫌いかで言えばあんま得意じゃないし」


「好きか嫌いかなのに得意じゃないって……笑」


「おい人を馬鹿にすんじゃねーよ柏木。ちょっと苦手なだけだ」


俺の事をケタケタと笑うその顔は、優しい笑顔で、普段表情が変わらない分何倍にも可愛いと思えてしまう。

プリティアショーの時も童心に帰ったかのような笑顔で、すごく可愛いかった。


普段表情変えないやつが、こういう時に喜怒哀楽を表情に出すのはずるいと思います!

だから、クールキャラって人気があるんだなと柏木を見て思う。


これを柏木が計算してやっているとしたら、将来は霧咲よりも怖い存在になりそうだ。

現在進行形で暴力って意味じゃ1番怖いけどな。


「瀬尾大丈夫だから落ち着いて。ね?」


「おう……。分かってるんだがな……でもなんでか手汗が止まらねーぜ」


ついに俺たちの番になり、コースターに乗ったのだが、すごい不安でしょうがない。

正直この安全バーをぶっ壊してでも今すぐ降りたいくらいだ。


「安全バーの確認をしますねー!」


スタッフのお姉さんが安全確認のため、安全バーがしっかり固定ささっているかのチェックをしてきた。


さっきあったことなんだが、別の客が具合悪そうにしていたのか、この安全確認のタイミングで降ろされていたのを俺は見ていた。


並んでいる時からワクワクしていた柏木のためにも、不安だからという理由で顔に出してお姉さんに降ろされるのだけは回避しなきゃいけない俺は、できるだけの笑顔をお姉さんに向けることに。


俺が降ろされたらこう見えても優しい柏木は、一緒に降りるだろうからな。

柏木のためにも最高の笑顔をお姉さんに向けてやるぜ!


「確認しますねー!……ひぃ!」


(´;ω;`)


それはなんか……違くね?



カタカタカタと音を出しながら、コースターは登っていく。

天国にでも向かっている気分だ。


「ひぃって……笑。瀬尾なにしたの?」


「ただ笑顔を向けただけなんだけどな」


「瀬尾の笑顔は人にむけるようなものじゃないんだから」


「おいそれはどういう意味だ?」


「嘘嘘冗談。瀬尾はおもしろい」


「褒め言葉になってねーよ」


「今日は瀬尾とここに来れてよかった」


「まぁぶっちゃけプリティアショーは俺くらいしか見ないからな」


「それもそうだけど、やっぱ瀬尾と居ると楽しい」


「それはありがとよ」


「そんな震えた声出すなよ瀬尾」


「しょうなねーだろ!もう少しで天国から地獄に向かうんだからさ」


そして、コースターはてっぺんにたどり着き、徐々に傾き出した。

あぁ、下が見えてきた死ぬぅ!これは死ぬぅ!


「さぁ来るぞ瀬尾」


「出来れば来ないでほしぃ!?」


やがて、どこまでも落ちていくような浮遊感が俺を襲うと、同時に柏木の足が俺の足に当たる。

見ると、優しい顔の柏木と目が合った。


「陽向大好き」


なんて言ったのか、風の音で聞こえなかった俺は口パクをしている柏木を見ただけだった。

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