表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

コンビニから愛を込めて

このコンビニは、ちょっとしたパワースポットになるのではないかと、実は少し思ったりもした。


「店長、明日からはおにぎり、昆布の入荷再開で」ないと思うと、食べたくなるから、不思議だ。


「ちゃんと、送っていただろうなっ」店長は腕を組み、ドアの向こうを眺めている。


「送ってくのは、明日の朝でしょ?」


「……なんだとっ!」


「怒る意味、わからねぇし。だって、出てってすぐに、戻ってきたと思ったら、あいつ……」思い出しても笑える。真っ赤な顔して一箱、それだけを買っていった。


つまり、お姉さんのことが大切で真剣で、あいつは真面目で、馬鹿だってことだ。


「違うコンビニに行けばいいのに……」やっぱり、笑える。


「……もしやっ?!」

店長は、はうぅとため息をついて、肩をガックリ落として、レジの奥に消えた。


それにしても、面白いお姉さんだった。




あいつのキモい話に、全く動じることもなく、とんでもなく意味のないことを言い出した。


「私と友達になってください!」





「……で、たまたま連絡しろってか?」


「ダメですか?」


「……いや、意味わからないし、オレ、あいつのアドレス知ってるし」


「もっともな、ご意見と思います。でも、やりたいの」

お姉さんの目は、真剣だ。


「ブーーッ!!」


あまりのアホらしさに笑えて笑えて、その行動の意味が全くわからない。

腹が痛くなった。


「えっ、えらいっ!!なんていい話しなんだっ!!君っ、協力してあげなさい」店長は、お姉さんの行動の意味がわかるのか、なにやら感心した様子だ。


「マジで?まぁ、オレは別に構わねえけど。あんたが間に合う保証もねぇし、あいつあんたほど、ちょくちょく来ないし」


「よろしくお願いしますっ」



日が落ちるのが早く、気がつくと外は真っ暗になっている。冷たい風が、お客さんが出入りするたびに、店内に吹き込んでくる。


どんよりとあいつが入ってきた。

よしっ、メール、メール。


ふらっと、デザートコーナーにたたずみ、プリンを一つだけ、手にしてレジに並ぶ。


バカっ、もっと悩め。


「98円になります。ありがとうございました」


弱々しく微笑み、店を出ていく、足取りは重い。



いつまでたっても、お姉さんはやって来ない。今日は来れないのかと、すっかり思って、陳列棚の整理をしていた。


息も絶え絶えに、ふらふらと店に入ってきたあのお姉さん。


「え?今?」


「……はぁ、はぁ、もう、帰っちゃった?」


「遅すぎだし、とっくに帰った」


「あぁ、そっか。はあ、走ってきたけど、私、明日筋肉痛だよ。でも、これって思ってたより、楽しいかも?」


「はあ?」


「何時、連絡があるか、スリリングだね」


「はぁ、あいつ。あんまり、悩まないし。基本、甘いもんを一個とか、昆布のおにぎりを一個とか、パッと買ってくだけだから、お姉さん、ほんとに急いで来ないと、会えないっすよ。来て出てくまで、5分とか、10分くらいじゃね?お姉さんちって近いの?」


「歩いて10分くらい?」


「それじゃ、車で来たら?」


「……車か。それじゃ、負けになる気がする」


「何の勝負っすか……。あいつ、来ても週に一二回だし、走ってきてたら、いつまでも会えないって」


「そっか。走り込みしょっかな?」


「いや、そういうレベルかよ?」


「とりあえず、また、来たら。たまたま連絡してよ」


シフト表は、見事に夕方と夜に集中していた。店長の頭の中は、思った通り、単純だ。まぁ、別に構わない。



それから、あいつが来るのを見かけるたびにメールをするけれど、お姉さんは来ない。

ずいぶん後になって、

「仕事してました……」

「研修中でした……」

なんてメールが返ってくる。

看護師さんはなかなか忙しいようだ。


深夜2時。

灯りの消えないコンビニは、闇にぽっかりと浮かび、周りから切り離されたように静かだ。

ドアを押して入ってくるお姉さん。

「お疲れ様〜。いつもありがとうね」

ヒラヒラと手をふる。

「たまたまっすよ。たまたまね」

にやっと笑う。


お姉さんの手には缶コーヒーを2本。

レジを通すと「差し入れ」と。


このお姉さんはいい人だ。



「店長、あいつ、引き留めてくれ」


「……お、おう?」


「すぐ、帰っちまうから。適当に話しかけてよ。さすがにプリンは無理だけど、明日からおにぎりの昆布、仕入れストップで」


「……お、おう?」




最近、あいつが来ない。

イライラする。

何やってんだよ、ほんとに、オレがこんなにマジにやってんのに、何であいつが来ない。


もう、今日も来ないかと思ったけれど、いつもに増して、どんよりとあいつが来た。


よしっ、メール、メール。


店長が話しかけている。


よし、よし。


お姉さん、急げ。

早く、来い。

早く、来い。


あいつは、お弁当コーナーにしばらく、たたずむ。


よし。


そして、おにぎりコーナーでたたずむ。


よし。

もっと、悩め。


パッとパンを二個、手にしてレジに並ぶ。

明日から、メロンパンの入荷もストップだな。


お姉さん、来い。

早く、来い。


目のはしに、勢いよく自転車が止まる。

おおっ、お姉さんだ。


よしっ、間に合った!

柄にもなく、ガッツポーズをしてしまった。



なのに、あいつと来たら、


ぼーっと立ったまま。


オレがあんなに頑張ったというのに。

思わず、手が出た。


「おい、あんた何してんだよ!ぼさっとしてるな!」


弾かれたように、

オレを見返したあいつは、

笑った。

パッと周りが明るくなるような笑顔だった。


いい気分だ。

何かに一生懸命になるのも悪くない。



おまけです。


ありがとうございました( ´∀`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ